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○月×日『友達』
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「寝ぼけてんのか、お前ら」
僕と茜さんが友達になったと話すと、矢野くんは予想通りの反応をした。
「寝ぼけてませーん。俺は心を入れ替えたんだよー?あゆと付き合ってくために悪い子は卒業したのぉ」
茜さんがわざと頬を膨らませてすねたような素振りをみせる。
矢野くんは若干顔を引き攣らせながら茜さんを見下ろす。
「悪い子卒業して、ゆずと和解したってことか?嘘だろ。ゆず、お前コイツに何されたか忘れたのかよ」
「……忘れたくても忘れられないよ……」
「だったらなんで許すんだよ、おかしいだろ」
「……でも、できるなら忘れたいし……」
あんなことされた恐怖を、いつまででも引き摺りたくない。
自分が可哀想な奴だって思いたくないし……。
元凶の茜さんと和解すれば、安心できる。
もちろん、まだ完全に信用は出来ないけど、将平くんが軽く脅したのもあるし、簡単には裏切らないと思う。
「…もう怖い思いしないで、安心して矢野くんと付き合えるんだよ?」
これは、一応本心を言葉にしたけど、茜さんには演技に見えたのか、彼は笑いをこらえる素振りをした。
けど矢野くんはそれを変に気にする様子はなく、僕の言葉に心打たれた、て顔をする。
「……まぁ、ゆずがいいなら」
照れくさそうに矢野くんがそう言って僕から顔を背ける。
少し良心が痛むけど、矢野くんにはそう思っておいてもらわないと困る。
将平くんがきっかけで茜さんと和解することになったなんて言えない。
茜さんが歩くんと付き合うことになって心を入れ替えたってのは嘘ではないだろうし、矢野くんを騙すことにはならないはずだ。
「つか、そろそろ慣れろよ、名前で呼ぶの。」
「ぁ、ごめん……」
もう10年以上この呼び方なんだから……仕方ないよ。
「昂平はまことのことゆずのままじゃん」
茜さんが話に割ってはいる。
「俺はいいんだよ。……お前、何まこととか呼んでんだよ」
「友達だもーん。ねー?まこと」
花村さんが僕に向かって微笑む。
「ぁ、はい……。昂平くん、茜さんとはね、」
「茜さん!?」
友達をきっかけに名前で呼び合うことにした……と説明したかったけど、矢野くんは気に入らないみたいだ。
「馴れ馴れしい……っ」
矢野くんの顔が悔しそうに歪む。
それを茜さんが面白そうに笑う。
「昂平て心せまーい。名前くらいいいじゃんねー?」
「僕は、どっちでも……」
確かに名前で呼んでもらった方が、親しみがある気がするけど、矢野くんほどこだわってはいない。
「お前の歴代彼氏の中で一番格下みたいだろっ」
「えぇ……」
歴代というほど恋人がいたことはないど……、篤也さんに、歩くん、……確かに名前で呼んでたけど……。
「昂平てそんなこと気にするんだ、ガキだねぇ」
また茜さんが口を挟む。
「くそ、お前は黙ってろよっ」
確かに、これ以上矢野くんの機嫌を損ねないで欲しい。
「こ、昂平くん……慣れるまで待って?……お願い、」
今はこれしか言えない。
いつ慣れるかはわからないけど。
「そんなに待ってやらないからな。さっさと慣れろよ」
なんとか矢野くんを鎮めることが出来たみたいだ。
矢野くんは「喉乾いた」と言い残して不機嫌なまま教室を出ていく。
「昂平て甘くなったねぇ」
矢野くんの姿が見えなくなると、茜さんが僕にだけ聞こえるように言う。
「……そうですかね」
「そうだよ。前はもーーーと俺様だった」
……そうなのかな。
今でもじゅうぶん俺様だけど……。
「まことの言うこと素直に聞いちゃってさ、あれはベタ惚れだね」
「え、僕にですか?」
「きみ以外誰がいるのさ。」
茜さんが呆れ顔で僕を見る。
「あんだけ惚れてると、きみの秘密を知ったら相当凹むんじゃない?」
茜さんが僕の耳元に唇を寄せるとそう囁いた。
……そうかな?
まだまだだと思う。
もっと信頼させて、夢中にさせないと、ダメージは入らないと思う。
僕が矢野くんに夢中だったの知っていて、矢野くんは簡単に僕を傷つけたんだから。
茜さんだけじゃない、僕を傷つけたのは。
"なんで許すんだよ""お前コイツに何されたか忘れたのかよ"と、矢野くんは言ったけど、自分はどうなんだろう。
矢野くんは、僕をわかってないんだ。
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