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○月×日『謎の同級生』
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「将平っ?」
学校帰りに矢野くんと街を歩いてると、背後から矢野くんの腕を掴んで、呼び止めた男の人がいた。
「……ぁ、すみません」
けど、すぐに人違いだと気づいたみたいで矢野くんの腕は解放された。
その男の人は矢野くんと同じくらいの背丈で、矢野くんの隣に立っても見劣りしないくらいの顔の作りだった。
「……あの、将平て、矢野将平くんのことですか?」
僕が将平くんの名前を口にすると、その人は矢野くんから僕に視線を移す。
「そう、矢野将平。」
その人は大きく頷く。
「昂平くんは、将平くんの弟なんです」
僕が矢野くんの腕に手を添える。
矢野くんを見上げると、矢野くんはなんとも言えない表情で男の人を見てる。
「弟……?ああ、……そっか、そういえば、いたな、弟…」
男の人が呟く。
どうやら矢野くんの事も知ってるようだ。
「あんた……一志?」
矢野くんがなにか思い出したように男の人を見る。
「ああ、柳一志(やないかずし)。」
「やっぱり。見覚えがある。」
「……知ってる人?」
矢野くんを見上げると、矢野くんは僕を見下ろす。
「ゆずも会ったことあるし。ま、ガキの頃だけど。」
「え、ほんと?」
柳一志という男の人を見上げる。
背が高い男前。
歳は将平くんと同じくらいに見える。
黒く長い前髪を流して耳にかけてる。
色男て言うのが正しいかも。
「ごめんなさい、覚えてない…」
「無理もない。俺が高校生、君らは幼稚園行ってた頃の話だ」
「幼稚園……」
確か、将平くんが外国に行ってしまったのも、そのくらいの歳の頃だったと思う。
「そっか、弟か……」
柳さんは残念そうな顔で矢野くんを見る。
見間違えても仕方ない。
矢野くんと将平くんはそっくりだ。
大きな違いは髪の色くらいで……
……そうだ、髪の色でわかる。
「あの、将平くんに何か……?」
将平くんと交友があるなら、矢野くんと将平くんを見間違えたりしないはずだ。
「ずっと連絡とれないんだ。」
「ずっと?」
「そう。高校卒業してからずっと」
「えっ」
高校卒業してから?
……確か今将平くんは28歳だったと思う。
高校卒業してからってことは、もう10年近く連絡を取ってないってことだ。
温厚な将平くんが友達からの連絡を無視するなんて考えられない。
「あんた兄貴になんかしたわけ?」
矢野くんが普通なら躊躇う質問を迷わずに口にする。
「なんかって、何も。」
柳さんは矢野くんの質問に動じることなく応えてくれる。
「兄貴、最近外国から帰ってきたばっかだよ。日本の大学には行かずに外国行ったから。」
「え、ほんとに?」
柳さんの様子から、最近……というか、高校卒業後からの将平くんのことは何も知らないように感じた。
街中で矢野くんの腕を掴んだ彼は、どこか必死な感じだった。
連絡が取れないことと、なにか関係があるんだろうか。
「将平、元気?」
「さぁ。喧嘩中だから知らねぇ」
矢野くんがバカ正直に応える。
柳さんは面食らったような顔を見せると、声を上げて笑った。
「ははっ、マジ?兄弟喧嘩とか?」
「俺の恋人にちょっかい出したから」
矢野くんは不機嫌そうな顔でそう言うと、僕の肩を抱き寄せる。
「……昂平くん…恥ずかしいよ…」
ついさっき会ったばかりの初対面の人に何言っちゃってるんだろう。
ほんと、恥ずかしい。
「……へぇ、」
ふと、柳さんの声色が変わった気がして、彼を見上げると、どこか冷たい目で見下ろされてる気がした。
少し怖くなって、矢野くんの手を握る。
矢野くんがそれをどう受けとったのか、手を握り返してくれる。
それがすごく、温かくて心地よくて、安心できた。
「兄貴の番号いります?」
「いる。教えて」
どういうつもりか矢野くんは柳さんに将平くんの連絡先を教える。
柳さんも遠慮なくといった感じだ。
「さんきゅ。」
柳さんは満足そうな顔をして去っていった。
「……いいの?勝手に教えて。連絡取れないってことは、もしかしたら将平くんは縁切りたかったとか……」
「さあな。兄貴がどうしたいかなんて知らんし。」
……これは、まだ拗ねてるんだな。
将平くんが僕にキスしたこと。
「……怒られても知らないからね?」
「はっ、アイツが怒れる立場かよ」
矢野くんは馬鹿にしたように笑うと、僕の肩を抱いたまま歩き出す。
柳一志。
将平くんの同級生……
ほんとに、それだけなのかな。
将平くんが僕にちょっかい出したと聞いた時の眼孔に、怒りの色が見えた気がした。
ただの同級生が見せる反応じゃないと思う。
矢野くんが勝手に連絡先を教えてしまったし、変な胸騒ぎがする。
そう、これが本当に波乱を起こすことになる。
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