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○月×日『幸運を』
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ビジネスホテルの一室。
いつも通り将平くんは部屋をとって、先にチェックインしていたので、僕は後から部屋に入った。
部屋に入ると将平くんはいつも笑顔で迎え入れてくれる。
けど、今日は違った。
ベッドに腰掛けて、心ここに在らずという感じだった。
僕が側に寄ると、ゆっくりとした動作で僕のことを見て、小さく微笑んだ。
いつもなら直ぐに抱き合う。
けど今日は将平くんの様子が明らかに変だ。
とりあえず将平くんの横に腰をかけて、将平くんの様子を伺ってみる。
将平くんも僕をジっと見つめ返すけど、何も言わない。
さすがにいたたまれなくて、僕の方から目を逸らした。
至近距離からあんな綺麗な顔に見られたら照れる。
好きとか、そういう気持ちがなくたって、戸惑うくらいに、将平くんは整った綺麗な顔をしてる。
骨格は男らしいのに、そういう美しさがあるのは、矢野くんと違うところかもしれない。
基本的なベースは一緒で、パっと見そっくりだけど、矢野くんの方が男くささがある。
将平くんは矢野くんには無い中性的な色っぽさがある。
いつもその色香にノックアウトさせられてるわけなんだけど、今日の将平くんは違う。
元気がないとかじゃかくて、覇気が無い。
今からセックスしよう!て空気は微塵もない。
そもそも僕も、将平くんと寝たくてここに来たわけじゃない。
今の気持ちを整理したくて、話がしたくてきただけだ。
「……まことはかわいいな」
将平くんがぽつりと呟く。
「ぇ、……急にどうしたの?」
将平くんの意外な第一声に驚く。
「小さくて、柔らかくて、かわいいよな…」
「…………ほんとに、どうしたの?何かあった?」
僕をからかっている様子はない。
ほんとに、そう思って口にしているような雰囲気に、ただただ戸惑う。
「……昂平くんも、たまに言うけど、かわいいとかさ、……でもそれって、ちびだからってことでしょ?」
幼少期から小柄だったから、それが原因でいじめられもしたし、逆に女の子にチヤホヤ……というかオモチャにされたりもしたけど、身長にはコンプレックスが無いわけじゃない。
「んー、顔も可愛いよ。目がおっきくてさ」
「顔?」
顔が可愛いなんて今まで1度も言われた経験がない。
自分でも思ったことないし、普通の、平凡な顔だと思う。
「まぁ、そうだね、小柄だからかわいいってのは確かにあるよ。今はどのくらいなの?160くらい?」
「え、……うん、そのくらい」
ほんとは160もない。
見栄が張りたいわけじゃないけど、あえて濁しておきたい。
「将平くんは、昂平くんより大きいから180センチはこえてるよね」
「……そうだね、高校3年くらいから急に伸びちゃって。それまでは平均より少し大きいかな?くらいだったんだけどね」
なんでか残念そうに話す将平くんに、不思議な気持ちになる。
だって、男なら大きい方がカッコイイと思う。
高すぎるのも不便かもしれないけど、僕みたいなのよりは、昂平くんや将平くんくらいあった方が絶対カッコイイ。
「……だんだん体もゴツゴツしていったし、卒業する頃には学年で1番……いや、学校で1番デカかったかな」
将平くんが自分のことを自分から話してくれたのは初めてかもしれない。
けど、やっぱりどこか悲しそうに見える。
「外国の大学行っちゃって、それっきり会えなかったね」
「そうだね。……友達とも、家族とも」
「…………恋人はいなかったの?」
「……、」
将平くんの蒼い瞳が揺らぐ。
僕の質問に、正直な反応を見せてくれる。
……友達も、家族も、恋人とも離れて、外国に行ったんだ。
なんでその道を選んだのかわからないし、どうして急に将平くんがこんな話をし始めたのかもわからない。
こんな流れで言っていいかわからないけど、僕は意を決して口を開いた。
「……将平くん、あのね……、僕……将平くんとの今の関係、やめたい…」
本当は、どうしたいかわからなかった。
けど、僕の今の素直な気持ちが、気づいたらこぼれ出てた。
「昂平くんに、いつ話そうとかは、まだ決めてない。…けど、まずは、この関係を終わらせたい。」
「……そっか。……そうだね。裏切るって目的はもう達成してる訳だしね」
そう。
矢野くんを裏切るという意味では、最初の1回だけでもじゅうぶんだったんだ。
何度も将平くんと寝る必要はなかった。
けど、僕がそうしてしまったのは、将平くんとの関係が心地よかったからだ。
矢野くんより大人で、スマートで、優しい。
矢野くんに振り回されて疲れた体に、将平くんが癒しみたいになってた。
「ごめんね、……僕、勢いで将平くんを巻き込んだ…」
「何言ってるの。話を持ちかけたのは俺だよ。謝ることなんてないよ」
流れではそうだったかもしれない。
けど、ほとんど同志のように接してきたから……。
「そういえば、将平くんも、昂平くんに仕返ししたかったんだよね……?」
「仕返していうか、嫌いなんだよ。不誠実で、人の気持ち踏みにじるやつが。」
怒り。
将平くんの言葉は、それが実の弟でも、……弟だからこそ怒りが沸き起こるものなのかもしれない。
「……実体験なの?」
「え?」
「……そんなに怒るってことは、何か嫌な経験があるから、僕にはそうならないように昂平くんと別れさせたかったのかなって………考えすぎかな…?」
「……まことは鋭いな」
将平くんが脱力、と言ったようにベッドに背中から倒れ込む。
大きく息を吐いて、天井を見つめながら静かに口を開く。
「うん、実体験。学生の頃に遊ばれたんだ」
「えっ」
今遊ばれたって言った?
将平くんが?
……信じられない。
「えっと、将平くんが遊ばれたの?ほんとに?」
「そうだよ。浮気された。」
「将平くんと付き合ってて浮気するって、どんな人と付き合ってたの?」
なんて贅沢……ていうか、罪深すぎる。
「んー、元々一人と付き合ったりせずに、その日限りで遊ぶのが好きなタイプで、でも俺の顔が好きみたいで、何度も口説かれてはいたんだ。…けど、大勢の中の一人にはなりたくなかった。だから、俺だけにするならってことで……」
当時のことを思い出したのか、将平くんが言葉を詰まらせる。
「……高校2年の時に付き合って、卒業した後別れたよ」
「……」
「すっごい女好きだったから、最初から信用してなかったんだけどさ」
「…ぇ?……………えっ、相手の人男の人なの?」
「そうだよ」
「女の子だと思って話聞いてた。」
「はは、まぁ、男はその時のそいつだけだよ。フランスの学校や、社会人になっても交際相手は女性だったし」
将平くんの恋愛対象に変化を与えるほどの人だったのかな、その人は。
「……裏切られるのは、きついよ」
「……」
将平くんも、その気持ちを知ってるんだ。
……篤也さんも、山梨先輩に仕返ししたくなるくらい苦しんでた。
昂平くんはどうだろう。
僕と同じ気持ちを味わって欲しくて始めたことだ。
最悪の結果になってもいいと思ってた。
なのに今になって怖気付いてる。
怖気付いてる場合じゃないのに。
「ごめん、プレッシャーかけてるわけじゃないんだ。それに、昂平にはそれくらいしてやるべきだと思う。あいつはガキの頃から甘ったれでワガママで、なんでも思い通りになって当然だと思ってる馬鹿だから」
「……相変わらず、厳しいね」
「弟だから余計にね。もし今回のことで改心できたら少しくらい見直すかな」
「僕、殴られたりしないかな……」
「どうかな。でも、カッとならずに、まことを想って泣いたら本気なのかなって思うよ」
泣く?
昂平くんが?
「……想像できない……」
「だよな。想像すら出来ないほどあいつはしょうもないやつだよ。あいつにまことは勿体ないよ」
「そんなこと……」
「自分の評価低過ぎないか?まことは昂平の悪影響受けてるなぁ…。昂平は確かにモテるかもしれないけど、あいつは外見だけだろ。中身最悪じゃないか。美貌は年取れば劣化するよ。まことは男にしては可愛すぎるけど、良い奴だし、俺は好きだよ。今までにもいたろ?ほら、篤也くんだっけ?」
「ぇ、うん……」
なんか照れる。
篤也さんも可愛がってくれてたと思うけど、将平くんはまた違うタイプだ。
言葉が率直というか……。
ヨーロッパのほう…?の人が情熱的て、きいたことあるけど、こんな感じなのかな…。
まぁ、将平くんは日本人だけども、長く生活するとそういった所も影響受けたりするものなんだろうか。
「今日で最後か。最後にする?」
「えっ」
そんないい笑顔で聞かれても…。
「ぅ、えっと……し、……しない」
「即答出来なかったな。ちょっとは惜しいと思ってくれてる?相性良かったもんな。たくさんセックスしてるのに、こうやって顔真っ赤にしちゃうとこが可愛くて好きだなぁ」
「~~~っ」
10年振りに会った人。
好きな人のお兄さん。
キスから始まった関係。
最初は怖くて仕方なかったのに、快楽に溺れて、今では友達みたいになってる。
たぶん、将平くんとは何事も無かったみたいに友達になれる。
篤也さんとも、歩くんとも……
「まこと、」
呼ばれて将平くんを見上げると、抱き寄せられた。
「bonne chance」
「?」
耳元で囁かれた意味のわからない、呪文のようなその言葉が、不思議と心に染み渡った気がした。
bonne chance(幸運を)
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