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○月×日『探索②』
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「なぁ、もう帰ろうぜー」
将平くんを探しに家を出てから30分も経たないうちに矢野くんが足を止めた。
「え、もう?」
家から今いる所までは、真っ直ぐ歩いてきて、ただ周りを見渡してただけだ。
探すってほど探してない。
「お店の中とか、まだ探してないよ?」
「ファミレスとかならまだしも、ラブホとか入られたら探せねーだろ」
予想外の場所が挙げられて、驚いてすぐには言葉が出なかった。
「……で、でもさ、さすがにそこは無いと思うけど」
「どうだか。兄貴はともかく、一志は野蛮そうだし、無くはないだろ。」
野蛮……?
矢野くんには柳さんがそう見えるのかな。
将平くんを連れていった時の様子から、少し強引そうな感じはしたけど、野蛮という程ではない気がする。
「ゆず、……浮気する奴は碌でもないだろ」
「え、」
「黙ってても寄ってくるタイプは特にな。」
急になんだろう。
…………もしかして、自分のことを言ってる?
「……柳さんのこと言ってるの?」
「……。」
矢野くんは拗ねたような顔をして僕を真っ直ぐに見つめる。
肯定しないってことは、そういうことなの?
……矢野くんは自分のこと、そんな風に思ってるの?
「……、……ゆずみたいに、受け入れてくれるやつばっかじゃないんだよ」
矢野くんが、すごく控えめに僕を抱き寄せる。
……そうなのかな?
好きだったら、辛くても、苦しくても、許しちゃうんじゃないかな……?
……今は、そう思えるけど、ほんの数日前まではそうじゃなかった。
怒りが湧き上がって、収まらなくて、仕返しに浮気した。
しかも、矢野くんの実のお兄さんの将平くんと。
矢野くんにしたことない事までしてた。
それを、将平くんとの関係を終わらせても、矢野くんに言えないでいる。
全然受け入れられてなんかないよ、僕。
こんな僕に綺麗事を言う資格はない。
矢野くんに、こんなふうに抱きしめられる資格もないし、矢野くんの申し訳ないって態度に、罪悪感でいっぱいになる。
「兄貴は賢いから、ちゃんとわかってる。俺らの知らないとこで、あの二人に何かあったとしても、兄貴はちゃんと戻ってくる」
……そうだよね。
きっと、柳さんのことは、将平くんが1番わかってると思う。
矢野くんの言う通り、将平くんは頭がいいし、僕みたいに単純じゃない。
けど、好きな人に対しては、盲目になることはあると思う。
海外逃亡しちゃうくらい、裏切られた傷が大きいってことは、それだけ相手のことを好きだったってことだと思う。
柳さんだって、気持ちがなかったら音信不通だった将平くんに会いには来ないだろうし。
……こんな考え自体が単純なのかな。
「あ」
ふと矢野くんが声を漏らした。
矢野くんの胸から顔をあげると、前方から将平くんが歩いてくるところだった。
「あっ」
僕が矢野くんより大きな声を上げると、将平くんが僕らに気づく。
「……2人とも何してるの?」
将平くんは少し罰が悪いというような仕草を見せた後、取り繕うように微笑んで話しかけてきた。
「…………将平くんを探してたんだよ」
僕が1歩、将平くんに近づこうと踏み出すと、矢野くんが僕の腕を掴む。
どうやら1歩だって僕を将平くんに近寄らせたくないようだ。
「兄貴、一志となんかあんの?」
僕が聞きたくても聞きずらかったことを、矢野くんは軽々と口にする。
「……何かって、何も無いよ」
柳さんに強引に連れていかれたところ見た感じ、将平くんの言葉を「はいそうですか」と鵜呑みにできるわけがない。
けど将平くんは言いたくないのか、矢野くんの目をようとしない。
「兄貴の問題だからこれ以上は関わる気ねぇけど、こいつはすぐ首突っ込みたがるから、そこんとこ分かっといてくれよ」
矢野くんが僕の肩を抱いて、真っ直ぐに将平くんを見る。
将平くんは少し驚いたような顔で僕らの方を見た。
「……かっこいいこと言うようになったなぁ」
「っ、…はぁ?馬鹿にしてんのかよ」
心底感心したって感じの将平くんに対して、矢野くんは照れ隠しをしながら悪態をつく。
……なんか、初めて兄弟らしい雰囲気を見たかもしれない。
「家に帰ろう。まことも一緒に」
将平くんが穏やかな表情で微笑む。
そして少しの間を置いて、寂しそうな、つらそうな顔で口を開いた。
「あいつとのこと、話しておかないとな」
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