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○月×日『3人会議』
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将平くんの部屋に3人。
矢野くんは珍しく茶化すことなく真剣に将平くんの話を最後まで聞いてた。
そして矢野くんから出た第一声が意外な言葉だった。
「ごめん、兄貴」
そう言った矢野くんを、僕も、将平くんも驚いて凝視してしまった。
「…兄貴が、ゆずにキスした事とか腹立ってたから、面倒なことになって、困れば面白いと思って一志に連絡先教えたからさ、俺…」
実はそうじゃないかとは思ってた。
いくら将平くんの同級生だからって、矢野くんにしては親切すぎる対応だったと思ったんだ。
絶対面倒くさがる案件なのに、あっさり連絡先をリークしたから、なにか企んでそうだとは思わなくもなかった。
「それは、もういいよ。お前にはスマホは無くしたって言ったけど、本当はわざと壊したんだ。…壊したのは衝動的だったけど、あいつとはもう連絡はつかないし、問題ないよ。……けどな、」
そこで将平くんが言い淀む。
唇に指を当てて、少しだけ考える素振りをとる。
そしてゆっくりと僕らを見た。
「……昂平、お前さ、俺がまことにキスしたこと、一志に言ったか?」
「え、俺が?」
将平くんの問いかけに今度は矢野くんが考える素振りをとる。
僕も、初めて柳さんと会った時を思い出してみる。
確か、矢野くんを将平くんと間違えて声をかけてきて、高校卒業してから連絡がとれない、将平くんは元気かと聞かれて、喧嘩中だから知らないと矢野くんが答えた。
……そうだ。
兄弟喧嘩の内容が、将平くんが僕にちょっかいを出したからだと矢野くんは言った……
「……あ、……言ったかも。兄貴は元気かって聞かれて、喧嘩中で顔みてないから知らねぇて答えた。兄弟喧嘩かって聞かれて、兄貴がゆずにちょっかいだしたから、て言った」
僕が思い出していた内容を、矢野くんも思い返すように将平くんに話す。
それを聞いた将平くんの表情が曇る。
「……何か問題あるのかよ」
将平くんの表情から何か嫌な予感を感じ取ったのは、矢野くんも同じだったようで、矢野くんは恐る恐るといった感じで将平くんに疑問をぶつける。
「俺がまことに惚れてるんじゃないかって言ってきたんだよ」
「はあ?」
矢野くんが身を乗り出す。
「俺が別れ話をしたのは一方的なことで、自分は了承してないから、俺がまことにキスしたのは浮気だって。まさか惚れてないだろうなって、そう言いに来たんだよ、あいつ」
…………信じられない。
そんな勝手な言い分あるんだろうか。
驚いたとか、そんな次元じゃない……
自分は学生時代に女の人と浮気したのに、将平くんにそんな事を言ったのかと思うと呆れるしかなかった。
これは僕の心の中だけに留めておきたいけど…………そんな、矢野くん以上に傲慢な考え方する人がいるだなんて、ほんとに矢野くんはまだ可愛い方なんじゃないかと思えてくる…。
「クズだろ」
矢野くんが身を乗り出したまま、渋い顔で一言。
正直僕もそう思う……。
「家はお前らを尾行して突き止めたらしいぞ。」
「はぁ?」
「えっ」
矢野くんがさらに身を乗り出す。
思わず僕も身を乗り出す。
「制服で学校知って、学校から張ってたって言ってたぞ」
「マジかよ」
「……全然気づかなかった……」
まさか自分たちが将平くんの天敵を、将平くんの元まで導いてしまってたなんて……。
「ごめんなさい…」
「まことが謝ることじゃないよ。何も知らなかったんだし。あいつが異常なんだよ」
たしかに、異常だ。
「え、じゃあなんだ。一志のやつ、10年も兄貴のことずっと待ってたってことか?」
矢野くんの言葉に、将平くんの瞳が揺らぐ。
……確かに、10年も前に"別れる"と言って去った恋人の前に、わざわざそんなことを言いに現れるだなんて、良い見方をしたら……一途に将平くんを探して、手掛かりを見つけたから会いに来た……となるんだろうか。
「……待つって、あいつが1番出来ない事だろ」
将平くんのブルーの瞳が揺らいだのは一瞬で、今は冷めた冷たい色をしてる。
そうだよね、たった5日が待てなかったんだから……
「それに、今更浮気だなんだって言われたって、俺あっちで女性と交際してたし」
あっちとはフランスのことだろう。
「へー、兄貴てゲイてわけじゃねぇんだ?」
矢野くんのこういうすごく繊細なとこに突っ込んでいくのが凄く怖い反面、尊敬する。
「違うよ。あいつがイレギュラーだっただけ。そういうお前はどうなんだ」
「俺?俺はほぼ女。男は3人。童貞はゆずにやった。」
やったって……
「へぇ、まことが初めてなのか」
将平くんが意外そうに、でも楽しそうに微笑む。
「あとの2人は?1人は知ってるよ、山梨くんだっけ?」
「あっ、ゆずっ、はなしたのかっ?」
矢野くんが恥ずかしそうに赤面して僕を睨む。
迫力は全然なかった。
むしろ可愛い。
「ごめんなさい」
「それで?」
将平くんが続きを促す。
なんだか恋バナに花が咲き出してしまった……?
矢野くんは渋々といった様子で話し出す。
「……1個上のゲイのやつ。ゆずとヤって、よくわかんなくなって、女とヤってもスッキリしなかった。ゆず以外の男てのは微妙だったけど、見た目が女より良かったからイけるかと思って」
聞いていてなんか複雑だけど、矢野くんが矢野くんなりにこの頃悩んでいたことは、何となく知ってる。
詳しく聞いたわけじゃないけど、僕のことを好きなのか分からない時期があったと前に言っていたから、たぶんこれがその時期なんだろう。
「俺からしたら、お前は絶対まことなんだと思ってたけどな…」
将平くんが昔を思い出しているのか、少し遠い目をする。
「絶対ゆずだよ。……ただ、傍にあると疑わねぇっていうか、だから……胡座かいてたら、ゆずが他に取られたし、その度強がってみても内心焦った。俺も他へ行ったりしたけど、好きな奴がいる人好きになんのって、すげぇ辛ぇなって思った。俺が他に行く度にゆずはこんな気持ちになってんのかなって、初めて考えさせられたんだよ。そうしたら……ゆずの愛情て、すげぇ深いなって思わされた。」
「……昂平くん…」
「……」
僕が感動して矢野くんに眼差しを向けていると、将平くんが僕を見ていることに気づく。
将平くんが何を思って僕を見たのか、分かってしまって、感動している場合じゃないんだと冷静になる。
矢野くんの気持ちも知らずに、僕と将平くんは何度も寝た。
今きっと、将平くんも罪悪感を感じたんだ。
だからなんとも言えない切ない視線を僕に送ったんだろう。
……もしかしたら、今なんだろうか、矢野くんに告白するタイミング……。
そんな気持ちで将平くんを見ると、将平くんは僕から矢野くんに視線を移した。
「昂平、俺はしばらく日本にいる。その間、まことから目を離すなよ。」
「なんだよ、急に……」
「あいつが異常なのはわかったよな。いや、分かって欲しかったから2人に話したんだ、過去のことを。」
将平くんの言いたいことがわからなくて、僕と矢野くんは顔を見合わせる。
「俺は……、正直怖い。もう10年だ。なのに未だにあいつにされたことを忘れられない自分も、なんでか俺にまだ執着するあいつも、怖くて仕方ない。あいつが何考えてるかなんて昔からわからなかった。だから、あいつが昂平やまことに何かするんじゃないかって、そう思えて怖いんだよ」
「…………考えすぎだって、兄貴」
そう言った矢野くんの声も、どこか不安そうだった。
だって、そういった奇行に走る人はいる。
山梨先輩も……、茜さんも……、
「俺は、問題ない。確かに、あいつの前じゃ萎縮するけど、あいつの好きにされたりしない。今は随分とあいつより体格もいいしな」
将平くんが笑う。
でもその微笑みに、悲しさが滲んでるのがわかった。
僕の事を、小さくて、柔らかくて、可愛いいなと言ったときの将平くんの気持ちが、今わかったような気がした。
「こっちも問題ない。ゆずには俺がついてる」
「……ああ」
将平くんが心配なのはわかる。
ほんとに矢野くんが僕から目を離さなかったら、僕は将平くんと何度も浮気できなかったはずだ。
「まこと、昂平から離れるなよ」
……そうだよね。
矢野くんが僕から目を離しても、僕が矢野くんから離れなかったらいいんだよね。
この時の僕らの不安は、的中する。
柳一志という人は、僕らの想像を超える男だということを、知ることになる。
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