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○月×日『油断は禁物』
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平穏な日が続いた。
将平くんが気にしていた柳さんからの接触は1度もなく、警戒していた分、拍子抜け感があった。
将平くんの仕事が始まって、受験勉強の先生をしてもらうのは週末だけになり、平日僕と矢野くんは2人でコツコツと勉強をした。
その間僕と矢野くんの恋人らしい接触はキスくらいで、矢野くんがこんなに勉学だけに打ち込んでるのは高校受験以来だった。
学校の帰り道、2人で本屋に立ち寄った。
この本屋さんには文房具も置いてあって、勉強につかうノートを求めて来た。
本屋の中は賑わっていて、レジもそこそこ列ができていた。
「参考書見てきていい?」
「ああ、買ったら行くから」
矢野くんはレジに並ぶ列の最後尾へ、僕は参考書の棚へ移動した。
学生が数人、参考書の棚の前でどの参考書にしようか吟味している。
今の時期ここに居るってことは同じ受験生なのかもしれない。
とりあえず1番に目についた参考書を手に取ってペラペラと中身を見る。
やっぱり苦手分野をもう少し詰めていきたいよな……
そう思って手に取っていた参考書を置いて、棚に目を移す。
ふと、すぐ隣に人の気配がして、矢野くんにしては早すぎるなと視線を向けて、体が硬直した。
「どうも。」
僕の隣には柳さんが立っていた。
息をするのも忘れて固まってる僕を柳さんは鼻で笑うと、ポケットからスマホを取り出して僕に向ける。
「弟が戻ってくる前に手短に済ますな。」
そう言って液晶を指でスワイプする。
「……え、」
柳さんの手にしているスマホに、写真が映る。
柳さんが3秒間隔くらいで指をスワイプさせて、何枚もの写真を見せてくる。
その間、僕は瞬きもせずに写真に釘付けになった。
「これ、弟に見せてもいいやつか?」
写真を見せ終わると、柳さんはスマホをポケットに戻す。
視線は参考書の棚に向けながら、僕に質問する。
「……だ、……駄目……です、」
声が震えた。
「だよな。」
柳さんの唇が満足そうに弧を描く。
「他言無用。これは俺と君しか知らない。わかるな?」
はい、と言葉にしようとしたけど、唇が震えて声にならなかった。
かわりに首を何度も縦に振ると、柳さんは僕の制服の胸ポケットに紙切れをいれた。
「それは確認したらすぐに処分すること。」
また僕は頷いて返事をする。
怖くて俯く。
心の中で矢野くんの名前を呼び続ける。
矢野くんっ、矢野くんっ
「まこと」
祈りが通じたのか、矢野くんが僕を呼んだ。
「昂平く……」
僕が顔を上げると、矢野くんが僕の隣に立ってた。
「……?」
辺りを見回すけど、柳さんの姿は無かった。
「どうした?」
矢野くんが挙動不審な僕の顔を覗き込むようにして見る。
「ぁ……えっと、店員さんに、参考書のこと聞こうかと思って…、けどまた今度でいいや」
「そっか?」
不思議そうに僕を見る矢野くんに、不審に思われないようになんでもないって顔をしてみせる。
矢野くんと並んで本屋を出て、矢野くんの家までの道を会話しながら歩く。
その間、さっきのはなんだったのかと思い返す。
幻かと思うくらい、ほんの1.2分の、短時間の間の出来事だった。
いや、ほんとに幻だったんじゃ…
そっと胸ポケットの上に手を置くと、カサっと、紙切れの音がした。
そうだよね……
現実だよね…
油断は禁物て、この事だ……
怖い。
将平くんが言ってたんだ
"異常だ"て。
身をもって知るなんて、思いもしなかった。
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