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○月×日『内緒話①』
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今は21時は過ぎている。
ルーカスさんの宿泊するホテルの前に来てしまった。
正確には、宿泊しているのか不明なホテルだ。
僕と矢野くんが勝手にこのホテルに宿泊してるのでは?と話していただけなので、確証は何も無い。
ホテル前は駅前ということもあって人はいるけどまばらだ。
将平くんにかけた電話は繋がらず、こんな時間に来たって……何も出来ないのに……落ち着かなくて家を出てきてしまった。
あれだけ将平くんに警戒しろと言われたのに、矢野くんもいつも以上に一緒にいてくれたのに……台無しだ。
……柳さんと連絡をとっている時点で、2人のことを裏切っているんだけど…
僕のこういうとこが馬鹿なんだろうな。
学習しない。
後先考えないで行動して、後悔して…
「……」
さすがにこんな時間に宿泊の予定もないのにホテルの中に入るわけにはいかない。
朝のモーニングと、昼のランチ時はカフェがやっているから宿泊予定が無い人が出入りしても不自然じゃない。
けど今はさすがに無理だ。
将平くんレベルなら違和感なさそうだけど、僕みたいなのが1人で入っていけるレベルのホテルじゃない。
本気で場違いだ。
「Bonsoir」
もう帰ろうと思っていたところに聞き覚えのあるフランス語で話しかけられる。
慌てて振り返ると、そこには声の主であるルーカスさんが立っていた。
彼に会いたくてここまで来てしまったのだけど、こんな偶然会えるなんて思わなかったから驚くしかない。
「えっと、……こんばんは」
"Bonsoir"とは"こんばんは"て意味だろう。
同じようにフランス語で返すべきなのかもしれないけど、つい日本語で返してしまう。
なんでルーカスさんはこんなとこ……ホテルの前にいるんだろう。
この間みたいな高級なスーツではなく、ラフな格好をしている所を見ると仕事帰りって訳では無さそうだ。
やっぱりこのホテルに宿泊しているってことなんだろうか。
「Cherchez-vous quelqu'un?」
「え?」
ダメだ。
"おはよう"や"ありがとう"くらいの挨拶程度にしか外国語が分からない僕では何を言われてるのかサッパリだ。
……分かっていたはずだ。
来たって何も探れない。
まず言葉の壁があるんだから、僕がどうにかしようなんて無理な話なんだ。
「誰か探しているの?」
無力だなと、項垂れかけると、頭上ですごく流暢な日本語がした。
「っ、え?」
驚いて顔を上げる。
今、誰が喋った?
ルーカスさんだよね……?
確かにルーカスさんが日本語でそう言った。
カタコトなんかじゃなく、ネイティブな発音で。
「僕が日本語話せるってこと、将平には内緒にしてくれないかな」
背の高いルーカスさんが、僕の耳元まで唇を下ろして小声で囁く。
「ぇ、……なんで…、なんで…?」
なんで日本語を話してるのか、なんで将平くんに内緒なのか……急なことで頭が混乱する。
「僕が日本語話せたら将平は通訳として同行してくれないだろ?」
「……、」
つまり、将平くんといる為に日本語が話せないフリをしているってこと?
なんで?
……いや、それって……
「それで、まことは僕に会いに来たのかな?」
ルーカスさんが1度ホテルを仰ぎ見て、それから僕に視線を移す。
僕みたいなのがこんな所にわざわざ来るのは、そういうことなんだろうと、ルーカスさんはわかっているみたいだ。
「……はい、」
こんなチャンス、もう無い。
次の連絡までにもう時間がないんだ。
今しかない。
「じゃあ部屋で話そう。ここは目立つし。それに少し肌寒い。僕も聞きたいことがあるから長話になりそうだしね」
僕はルーカスさんの提案に、頷いた。
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