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○月×日『内緒話③』
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数日のうちに事が起きすぎた。
僕の小さな頭では処理できないことばかりで、パンク寸前だった。
そこに追い打ちをかけるかのように、ルーカスさんが現れて、これは……はたして本当に追い討ちなのか……?
それとも、天の助けなのか……
短時間で見定めるのは無謀だった。
けどルーカスさんの余裕の笑みは自信に満ち溢れていて、なにか信じさせるものがあった。
僕だけで抱えきれない問題を、解決してくれるんじゃないかって、心が揺らいだ。
どちらにせよ柳さんに情報を渡せなかったら僕は終わりだ。
だったら……ルーカスさんに全部話して、協力してもらった方が心強い。
ルーカスさんには将平くんとのこともバレてるんだし、もしかしたら柳さんのことも知っていて僕の様子を見ているのかもしれない……。
彼が言ったように、敵にするより味方にした方が絶対にいいに決まってる。
僕は、意を決してルーカスさんを見た。
「……将平くんの交際してた人に、脅されてるんです………………助けてくれますか?」
言葉にしている最中、怖くて泣きそうになった。
声が震えていたけど、真っ直ぐに目だけはそらさずに言い切った。
「柳一志のことかな?」
……やっぱり、ルーカスさんは知ってる。
将平くんが日本に来てからの動向は知ってるってことは、将平くんが接触した人を知ってるってことだから。
交際相手だった、という事はルーカスさんの様子を見る限り知らなかったようだけど、その名前が出てくるってことは僕同様に目をつけて調べていて候補に上げていたんだろう。
「…そうです。……約束してください、助けてくれますか……?」
交換条件と言うつもりは無い。
けど、将平くんのことに関してこの人は異常な程に心強い気がする。
僕も、もう怯えたくない。
矢野くんの隣にかえりたい。
「約束するよ。」
小刻みに震える僕の肩に、ルーカスさんが慰めるように手を置く。
「偽らずに知っていることを話してくれるよね」
ルーカスさんは変わらず口元に笑みを浮かべてるけど、目は笑ってなかった。
ちゃんと真剣に僕と向き合ってくれてる。
「……はい」
僕の約束を守ってもらうなら、僕もルーカスさんの約束を守らなければならない。
僕が頷いた事で、利害が位置した。
「じゃあ、まずはまことが知ってる柳一志について聞こうかな」
ルーカスさんはまた向かい側の椅子に腰掛ける。
今度は足は組まず、太ももの上に肘をつき、頬杖をつくと僕を見た。
"じっくり話そうか"と言われている気がした。
「……交際していたのは高校生の頃で、お互い一目惚れだったみたいです。柳さんは当時将平くんの彼女を寝とって別れさせていたみたいで、将平くんと付き合うまでも特定の人とは付き合わずに遊んでいた女好きだと将平くんが言っていました。」
「それは今も変わってないみたいだよ。」
「……え?」
「僕が将平と柳一志の接触を知ってから少し調べただけでも女性の名前は4、5人は出てきたよ。」
……最低だ。
ほんと最低。
それなのに将平くんの前に姿を現したかと思うと怒りを覚える。
けど、一旦その気持ちは沈めて話の続きをする。
「……将平くんは、柳さんの奔放な所を心配して、交際する時に自分だけに絞ることを約束したみたいです。進路のことで口論するまでは交際は順調だったみたいです。……将平くんは、柳さんと一緒に居たくて、別れたくなくて留学を諦めて国内の大学に進学を決めたのに、柳さんは将平くんの卒業旅行中に女の人と……」
「なるほど。それで将平はフランスへ来たのか。」
「……泣いてたんです、将平くん。あの青い綺麗な瞳が一緒に零れ落ちちゃうんじゃないかってくらい泣いてて…………」
泣きながら頭を撫でてくれたのは、微かに記憶にある。
「……将平はプライドが高いからね。自分と浮気相手を同じように抱いたのが許せなかったんだろうね。………きっとそれを怖がってる。」
「……怖がってる?」
「そう。また誰かに心だけじゃなく身も委ねて、裏切られるのが怖いんだよ。僕の誘いを断る時もね、俺みたいなと付き合っても……て言うんだよ。ゲイじゃない同性と付き合うに対して、女性に劣等感を感じるんだろうね。体格がいいのを気にするのはそのせいだと思うよ」
……前に、将平くんにいわれたことがある。
"まことは小さくて柔らかくてか可愛いな"て。
……それは、そういう事だったのかもしれない。
自分が女性に近い体格だったら、繋ぎ止めておけると思ったんだろうか……?
将平くんの真意はわからないけど、そういう意味での発言だったとしたら、悲し過ぎる。
将平くんが柳さんのためにそこまで想うほど、柳さんは将平くんに見合ってないと思う。
将平くんは柳さんと付き合っていこうしてた。
その努力を、柳さんは踏み躙ったんだ。
なのに今でも将平くんを苦しめてる。
将平くんがルーカスさんをどう思ってるかわからないけど、もしルーカスさんと先に進みたいと思っているなら、邪魔しているのは確実に柳さんが植え付けたトラウマのせいだ。
「……っ」
考えれば考えるほど、悔しくて……悔しくて涙が出てくる。
将平くんはすごく優しい。
僕の馬鹿にも付き合ってくれてた。
その間ちょっと強引なとこもあったけど、僕に接する態度も、触れ合う行為も、全部が優しかった。
今ならわかる。
矢野くんと柳さんが重なって、だから僕に協力してくれたんだってこと……。
だってほんとなら、誰かの浮気相手なんて、将平くんがするわけない。
自分が浮気されて辛い思いをしたのに。
だけど、僕の話を聞いて、同情して協力してくれた。
僕も、最初は怖かった。
けど目を醒させてくれた。
矢野くんに盲目になってた僕の目を、醒させてくれた。
じゃなかったら今でも矢野くんの後をついてまわってた子分のような、奴隷のような僕と変わらなかった。
浮気でやり返すなんて方法、良くないのは分かってる。
今は身に染みてるんだから。
けど、1番効果的なのもその方法なんだと思う。
そんな方法に、将平くんを利用してしまった。
将平くんの事情なんか知らずに、その時の感情のままに……。
将平くんと10年ぶりにに再開してから、今ルーカスさんとこうしている所までの話を、全て話した。
話しながら、将平くんに対する気持ちが膨れ上がって、涙が零れた。
「……なんでまことが泣いてるの?」
わからない。
けど、悔しい、悲しい……色んな気持ちでぐちゃぐちゃだから……、こうして感情が零れてしまったのかもしれない。
「まことは自分が将平を巻き込んだと思ってるみたいだけど、……僕が思うに、将平は同性を抱いてみたかったんじゃないかと思うんだよ。」
「?」
「自分の理想とするまことみたいな子を抱いたら満足するのか納得したかったのかも。柳一志の立場になってどんな気持ちか知りたかったのかもね。」
将平くんが体格を気にしていたのは、将平くんが話してくれた高校生の時の話にもちらほらとあった。
健康診断で、柳さんの身長を抜いてしまったことを話す時……今思い返せば悲しそうな顔をしていたかもしれない。
柳さんは気にしていなかったとも言っていたけど……、結局女の人と浮気されたわけだし、元から女好きだったわけだから、将平くんはずっと気にしていたに違いない。
「将平が自分から浮気相手になったんだから、まことがそんなに気に病むことないよ」
ルーカスさんにそう言われたことで、少しだけ胸のつっかえが取れた気がした。
それに、話をしていてルーカスさんが凄く将平くんのことを理解していることが分かった。
将平くんの動向を探るなんて、好きだからってちょっとやり過ぎじゃないかと思うけど、それだけの事をするくらい将平くんを想ってる。
僕は将平くんと一時でも繋がっていたのに、何も知らないし……知ろうともしていなかったかも……
知った気にすらなっていたかもしれない。
「将平くん、まだ……好きなんですかね、柳さんのこと……」
「そうかもしれないね。きっと柳一志も。……けど、まことが言う通り、柳一志に将平は勿体ないし、見合ってないよ。これは僕が将平を好きだからって言うのは抜きにして、そうである事実があるから」
「……事実?」
ルーカスさんが何を言っているかわからなくて、繰り返すようにして言葉にして聞き返すと、ルーカスさんは躊躇うことなく口を開いた。
「柳一志は子持ちの既婚者だって事実だよ」
「………………え?」
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