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○月×日『危機②』
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「どうもすみませんでしたっ」
そう言って山梨先輩は僕の両親と矢野君に向かって深く頭を下げた。
「勉強会してて、雨が降って来たんでやむまで居たらって僕がひきとめたんです。気がついたら二人とも寝てしまって…」
両親と矢野君が口を出すまえに先輩が事情を説明しだす。
「連絡を怠ってこんな自体を招いてしまって、本当にすみませんでした。」
先輩はまた深く頭を下げた。
…先輩は何も悪くないのに。
悪いのは、僕なのに。
あの後、篤也さんは山梨先輩に連絡をして、先輩をアパートまで呼んだ。
そして事の成り行きを説明した。
先輩は黙ってそれを聞き、なにも言わずに身代わりを引き受けてくれた。
「…本当かよ。お前がこの人のうちにって…」
矢野君が全く信用してないって目で僕と先輩を見る。
先輩が僕の代わりに返事をする。
「本当だよ。矢野君もごめんな。柚野ちゃんのこと、探させちゃって…」
矢野君は、全身ずぶ濡れだった。
傘をさして立っている両親とは違って、髪も、服も雨で濡れてて、肌寒さからか顔色が悪かった。
僕がいなくなったと思って、探し回ってくれたんだ。
こんなにずぶ濡れになるまで。
「ごめんなさい、心配かけて…」
両親と矢野君に向かって頭を下げた。
「身体冷えるから、もう休むといいよ。柚野ちゃん、また明日、学校でね」
先輩は微笑むと手を振って雨の中に消えた。
「…ゆず」
先輩を見送っていると、矢野君が僕の手を握った。
氷のように冷たいその指先に驚いた。
「矢野君、ごめんねっ、早く温まらないと風邪引いちゃうっ」
矢野君の手を引いて家の中へ入ろうとするのを、矢野君が力なく拒んだ。
「ゆず、嘘だよな。」
「…え、」
「あの人のとこに居たって」
矢野君の真剣な目に見下ろされて、否定の言葉が喉で詰まる。
「学校で声かけられるくらいだろ。家に行くまでの仲じゃないはずだ。」
当たってる。
矢野君の言う通りだ。
学校で顔を合わせたら挨拶する程度。
今は委員会だって違う。
「ゆず、」
「先輩のとこにいたっ、先輩が言った通りだよっ」
上ずった声で否定した。
こんな態度じゃ嘘を隠してるのがバレバレだ。
だけど、僕のために身代わりを引き受けてくれた先輩やそのための手配をしてくれた篤也さんを裏切れない。
「………そうかよ」
食い下がってくると思った矢野君は、あっさり身をひいた。
不審に思って矢野君を見上げると、僕を見る瞳は深く悲しんでるように見えた。
矢野君はそのままなにも言わず、雨の中傘もささずに歩いっていってしまった。
僕が裏切ったのは、篤也さんでも先輩でもない。
矢野君くんだった。
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