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◯月×日『今更だよ』
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朝、家のドアを開けて心臓が止まるかと思った。
「矢野くん…」
家の前で僕を待っていたのは矢野くんで、会うのは別れを告げた日が最後だった。
まさか矢野くんが僕を待ってるなんて思わなかった。
一方的だったけど矢野くんに別れを告げたんだから、矢野くんはもう僕を相手にしないと思ってた。
矢野くんは一度だけ僕を見ると、ゆっくり歩き始めた。
僕はよくわからないまま少し離れて矢野くんの後ろを歩いた。
なんだろう、これは。
矢野くんは何を考えてるんだろう。
矢野くんからは何も読み取れない。
いつも通り、としか思えない。
でも、矢野くんのペースにのまれちゃいけない。
「…矢野くん」
呼びかけると、矢野くんが足を止めてくれる。
「…風邪、治ったんだ?」
「…ああ。」
「よかった…。…あの、…ぼく、篤也さんと付き合ってる」
言い切って、矢野くんの目をまっすぐに見つめた。
「お前、俺に惚れてたんじゃなかったっけ?」
間髪入れず聞かれて、胸に嫌なものが広がった。
今、それを言う?
今更だよ。
僕の告白、なかったみたいにしたの、矢野くんなのに…っ。
「今は違うっ」
涙が出そうなのをこらえて、言い切った。
本当はまだ好き。
篤也さんの優しさに甘えさせてもらってる。
でも、何も答えてくれない矢野くんを想うより、篤也さんを好きになれる気がした。
実際、篤也さんと過ごして、気持ちが揺れてる。
なのに、矢野くんは今更何を言ってるんだろう。
都合のいい玩具が惜しくなったんだろうか。
「…ゆず、あの人はな」
「もう、矢野くんと居たくないっ」
何か言おうとした矢野くんの言葉を遮って、僕は力の限り走った。
走って、走って、たどり着いた先は篤也さんの部屋だった。
苦しい。
いくら篤也さんに甘えたって、矢野くんの一言に振り回される。
根付いてしまった僕の本能。
こんな情けない僕を、篤也さんは優しく受け入れてくれる。
なんでこんなに優しいんですか?
何も聞かず僕を受け入れてくれた篤也さんにそう聞いたら、「好きだからだよ」と答えてくれた。
この心地よさに、僕はいつまで甘えるんだろう。
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