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◯月×日『愕然』
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「山梨先輩」
昇降口、下校中の生徒の中に浮いた存在が一つ。
矢野くんだ。
他の生徒の頭一個分、二個分大きく、派手な金髪が嫌でも目立って存在を主張してる。
その矢野くんが、山梨先輩を呼び止めているところだった。
僕は気づかないふりをして通り過ぎようか、時間を置いてから帰ろうかと迷う。
「……柚野ちゃん関係かな?」
山梨先輩が苦い顔をして僕の名前を出したのが聞こえ、僕は2人から目が離せなくなった。
「場所変えよっか。柚野ちゃんに見つかる前にさ」
そういって山梨先輩が歩を進めると、そのあとを矢野くんがついていった。
山梨先輩と矢野くんが2人でなにを話すか…。
…僕のこと?
山梨先輩の言葉に矢野くんは否定しなかった。
きっとそういうことなんだろう。
駄目だとわかってて2人のあとをつけていくと、校舎裏にたどり着いた。
「あんたの男が俺のもんにちょっかい出してるみたいなんだけど」
先に口を開いたのは矢野くんだった。
「柚野ちゃんは矢野くんとも木崎さんとも付き合ってないって言ってたけど?」
「あいつが言ったんだよ。木崎さんと付き合ってるって」
「……そう、………そうなんだ…」
「自分の男の管理くらいしといてくださいよ。…こんなことになるなら花の遊びに付き合うんじゃなかった」
「…その話、柚野ちゃんから聞いたけど。酷いことするんだね」
「酷い?どこが。ちゃんと最後まで聞かなかったんすか?アイツちゃんとイきましたよ」
「君が柚野ちゃんを大事にしてたら、柚野ちゃんは今も君と居ただろうね。そうじゃないから、簡単に奪われるんだよ」
「は?それあんたが言うか?木崎さんに大事に大事にされてたくせに、あんたが他の男と寝たりするからあの人荒れてんだろ。挙句人のもんにちょっかい出すわ。最悪だな」
「…僕は浮気なんかしてないし、木崎さ…篤也が勝手に勘違いしてるだけだよ。」
「はぁ、もうどうでもいいよ、あの人とあんたのことは。とにかく、あの人なんとかしろよ。」
「………なんとかなったら、また柚野ちゃんを玩具みたいに扱うの?」
「あんたに関係ないでしょ」
「ないかもしれないけど、…またそんなことになるくらいなら、柚野ちゃんは篤也と付き合ってたほうがいいと思う。」
「…、話にならねぇな」
ゆっくり、矢野くんが遠ざかっていく足音が聞こえ消えた。
そのあとすぐに山梨先輩の気配も消える。
僕はただ、その場に膝をついて呆然とした。
2人の会話の内容に、愕然とした。
それと同時に、山梨先輩の行動に納得がいった。
あの日、篤也さんの部屋から出てきた山梨先輩と、何度か見たあの表情。
僕の告白を真剣に聞いてくれた山梨先輩が、木崎篤也の恋人…?
目の前が真っ暗になりそう。
やっと心から落ち着けると思ったのに、とんだ落とし穴がすぐそこにあって、僕は知らぬ間に落ちてたんだ。
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