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○月×日『誰も知らない』
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「はじめまして、柚野といいます」
他県の、小さな喫茶店の隅の席で、ある人と会うことになった。
彼の名は真鍋智史(まなべさとし)という。
この喫茶店のオーナーで、木崎篤也の高校時代の同級生だ。
「驚いたよ。俺を訪ねてくる人がいるとは思わなかった。地元の人間とは疎遠だから。」
「すみません、木崎さんの部屋でアルバムを見つけて…」
「……柚野さんは、篤也とは?」
「……恋人です…」
「…………、……」
真鍋さんの表情から彼の困惑が伝わった。
それはきっと、篤也さんの恋人が男だということではなく、山梨先輩ではないということだと悟った。
「僕、山梨先輩の後輩なんです。木崎さんと山梨先輩は前に付き合っていたと聞いてます。けど、山梨先輩の浮気が原因で別れたと。……山梨先輩は浮気はしていないと言っていましたが…」
「……蘭がそう言ったのか?」
「…?はい」
真鍋さんは少し考える仕草を見せた後、小さく口を開いた。
「篤也とは親友だった。俺が先に蘭と知り合ったんだ。三人でよくつるんでたけど、蘭が篤也に惚れてるのはすぐわかった。けど、俺は蘭が好きだった。蘭が篤也と付き合うって嬉しそうに報告してきた時、すげーショックだったけど、カッコつけて祝福するフリした。篤也の部屋で鍋やってる時だったかな……はしゃいでた蘭に酒飲ませて、ベロベロに酔っぱらったアイツを抱いた。……どうかしてた、篤也の部屋で、篤也が居ないのをいいことに蘭を抱いた。蘭も抵抗しなかった。酔ってたせいかと思ったけど……」
そこで真鍋さんが悲痛そうな顔を上げて僕を見た。
「蘭は、浮気はしてないっていったんだろ?」
「……はい」
「…………あいつは嘘ついたりするやつじゃない。先輩、先輩…て、最中何度も呼んでたアレ、俺のことじゃなかったのかもな…」
「え、」
木崎篤也の親友の真鍋智史。
彼は山梨蘭が好きだった。
2人を祝福してやるつもりだった夜、気持ちを抑えられずに親友の恋人を抱いた。
その現場を親友に目撃され、殴られ、縁を切られ、逃げるように街を離れた。
朝眠りから目を覚ました蘭は、恋人に浮気を疑われ別れを告げられた。
至福の時を共に過ごしたはずだった恋人に急な別れを告げられ、納得のいかないままずっと恋人を想い続けてきた。
もう三年近くも経つのに、誰も真実を知らなかった。
帰りの電車の中、僕がすべきことを頭の中で整理した。
僕の勝手なお節介に怒るかも。
関係を悪化させるかも。
篤也さんに別れを告げた山梨先輩の気持ちを踏みにじるかも。
でも、確信があった。
きっと上手くいく。
きっと。
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