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〇月×日『ご執心』
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矢野晃平に本命の恋人ができたらしい。
最近はもっぱらこの話題でクラスが盛り上がっている。
矢野くんは、この学校に入学した頃から騒がれる存在だった。
素行は悪かったが、端麗な容姿に皆ほだされ、夢中になってしまう。
来るもの拒まずな彼の一時の恋人になった人が何人いたことか……
その矢野くんに恋人ができたとなっては、心中穏やかでない人はいるはずだ。
現に、僕もこの噂に心穏やかではない。
「なぁ、柚野はなんか聞いてないのか?」
「お前矢野と仲いいじゃん」
毎日クラスメイトにこんな質問をされる。
それに僕は毎回首を振って答える。
「噂だけどさ、相手は3年らしいぜ」
「ああ、それ俺も聞いたよ。矢野が休み時間に3年の教室の方に行くの見たやつがいるんだってさ」
「年上の彼女かー、いいよなぁモテるやつは」
「矢野になりてー」
「どんなに頑張ったて無理だから諦めろ」
3年……
そう聞いて僕が思い浮かべたのは、山梨先輩の顔だった。
「……、」
あの夜、見間違いでなければ、先輩を抱き寄せていたのは矢野くんだった。
先輩も、矢野くんも、お互いをよく思っていなかったはずなのに、2人にいつ接点ができたのだろう……。
何気なく矢野くんの席を見ると、空席だ。
休み時間毎に矢野くんはどこかへ行っているようだった。
先輩に会いに行っている……?
いや、まさか……ありえない。
矢野くんは先輩のことを煙たがっていた。
それに、矢野くんがわざわざ自分から出向くなんて……。
王様みたいにどっしりかまえているのが矢野くんだ。
……何を自分は焦っているんだろう。
あんなに矢野くんを怖いと思っていたのに、矢野くんの関心がどこか別のとこにあると知ってこんなに心が落ち着かない。
情けない……、篤也さんや、先輩に頼ったくせに、矢野くんのことで気持ちがこんなにも揺らいでる。
「おい、あれ矢野じゃね?」
クラスメイトの1人が窓越しに外を指さす。
クラスメイトが面白がって何人も窓に張り付いて外を覗き始める。
知りたい、けど知りたくない……
ここで矢野くんを気にするってことは、篤也さんや先輩に申し訳が立たないってことだ……
「あれが噂の彼女か?」
「よく見えねーよ」
気づけば、ふらふらと窓辺に近寄っていた。
そして息を呑む。
そこから見下ろした先に、確かに矢野くんがいたからだ。
校庭の端で、矢野くんは笑ってた。
小さくしか確認できなかったけど、確かに笑ってた。
矢野くんの影に隠れてジャージ姿の生徒がいる。
会話を楽しんでる、というようにしか見えない。
少しすると予鈴が鳴り、ジャージ姿の生徒は校庭へかけていった。
これから体育の授業……ということだろう。
「あのジャージの色、3年だよな?」
「顔はよくみえなかったけど、ボブっぽくなかった?」
「矢野が体育のお見送りとか。マジかーあついわぁ」
「やだー、ショックー」
クラスメイトは次々に言葉を漏らしながら席に座る。
そんな中、僕は窓辺から離れられずにいた。
顔は、よく見えなかったけど、栗色の髪だった。
僕には彼にしか見えなかった。
ジャージの色は学年別に違う。
男女同じものを着用してる。
クラスの皆には、3年の女生徒と矢野くんに見えたかもしれない。
けど、僕には先輩にしか見えなかった。
山梨蘭
矢野くんご執心の噂の彼女の正体は、間違いなく彼だ。
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