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〇月×日『思い出とともに』★
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学校で矢野くんと山梨先輩の噂がもちきりだと篤也さんに話した。
「そうか……」
篤也さんは大きく項垂れた。
そして自分の右手を強く握りしめた。
「……俺は、あいつのこと何もわかってやれなかったよな」
県外の大学受験をやめさせて、そばに置いたくせに結果はこれだ。
「自分のことばっかで、あいつが不安がってるのに気づきもしないで……無神経だった。…蘭をあんなふうにしたのは、俺だよな……」
いつも笑顔で、元気で、優しくて、
友達が多くて、人が周りに絶えなかった。
誰からも好かれてた。
それが、恋人との破局が原因で人を寄せ付けない様になった。
捨てられた理由がわからずに意気消沈し、けれど納得がいかないことは受け入れられないくらいに木崎篤也という人間を愛してた。
そこからは木崎篤也しか見えなかった。今まで以上に。
勉強より、友達より、家族より、木崎篤也という人間しか頭になかった。
それほどまでに再度求めた木崎篤也との間には何も無かった。
それどころか、彼に同性の恋人ができたり、自分が彼の親友と情事を交わしたという事実まで知って、自分に木崎篤也を好きでいる資格は無いと悟ってしまった。
どこか遠くに行きたい。
ずっと考えていたその気持ちが強くなった。
彼に答えてもらえないなら、二度と自分が彼を求めないくらい離れた場所にいたかったからだ。
心だけでなく、体までも切り裂かれたように感じた。
もうボロボロだった。
抱かれたのは、自分が唯一だと想い続けた木崎篤也でなく、その親友とだった………………頭がそれを理解しはじめると、吐き気がした。
少しやつれてきたのを感じたころ、想い続けてきた木崎篤也が自分に歩み寄ってくれた。
迷わずその手を取った。
けれど、好きな人のそばにいられる幸せを知ったのはたった数日だった。
彼の元恋人の厄介事を抱えて、三人ひとつ屋根の下で共同生活をすることになった。
楽しい思い出も、嫌な思い出もある部屋で。
生活をする内に、少しずつ変化があった。
それは受験によるストレスではなく、言い表せない息苦しいものだった。
彼と、彼の元恋人との親密さ、自分と彼との間には無い空気を感じる度に、体内をドロドロとしたものが渦巻いた。
嫉妬だ。
彼は一度だってこの体に触れない。
彼の親友が触れた体だからだと思った。
愛情がないからだとは思いたくなくて。
彼からの初めての接触は、張り手だった。
頬を打たれた痛みより、別の場所が弾けたように痛んだ。
ドロドロと渦巻いていたものが、溢れ出した瞬間だった。
「……」
この手で二度も傷つけた。
篤也さんは自分の右手に視線を落として、悔やむような表情を見せた。
「……僕、信じられなくて……、矢野くんと、先輩が………………だって、先輩は……」
篤也さんの事が好きだ。
矢野くんの事はよく思ってなかった。
僕と篤也さんに、自分と同じ思いをさせたかったと言っていた。
だから矢野くんと寝た?
信じられなかった。
……本当だとしたら、先輩はそれほどまでに本気だということだ。
愛情が、憎しみに変わってしまった……?
だとしたら、矢野くんの変化が裏付けのように感じる。
あの矢野くんが自分の意志以外で行動するとは思えない。
学校での噂は、噂でなく事実なんではないだろうか。
「……矢野くんに、先輩のこと聞…」
「いや、駄目だ。……まことがあいつに会うのは、全部ハッキリした後だ。」
「……、」
篤也さんは、まだ僕の身を心配してくれているのだろうか。
「……っ、ごめんなさい……っ」
情けなくて涙が出た。
本当に情けない。
全部僕のせいなのに、僕のせいで巻き込まれて、傷つけてるのに、こんなにも優しい。
そんな優しさに甘えてばかりで、情けない。
先輩が、僕と自分は違うと言っていた。
篤也さんとの関係のことを言っていたけどそれだけじゃない。
僕は始まりこそ無理矢理だったけど、矢野くんが好きだ。
好きで抱かれてる。
先輩は違う。
合意無しに同性に犯されて、深く傷ついてた。
1度は篤也さんから距離を置いた程に篤也さんを愛してた。
先輩はどこまでも誠実だ。
僕とは違う。
そんな人の大切な人に、僕はいつまでも甘えて。
矢野くんと先輩が……
嫌だ。
絶対に嫌だ。
先輩はこんな気持ちでこの部屋で暮らしてたんだ。
平気なはずないのに、今更気づいても遅いのに……
「まこと…」
篤也さんの優しい手が僕の肩に触れる。
駄目だ。
甘えちゃダメだ。
頭では解ってる。
それなのに縋ってしまいたくなる。
篤也さんの手に、自分の手を重ねた。
「おい」
冷たい声が部屋に響いた。
「……はぁ、呆れるわ」
だるそうに部屋に入ってきたのは矢野くんだった。
思いもよらない人物の登場で、驚きで声も出なかった。
「不用心ですよ、家にいても鍵かけなきゃ」
矢野くんが篤也さんを見る。
篤也さんが矢野くんを睨む。
「何しに来た」
「蘭さんの忘れ物とりに」
その言葉に、篤也さんと僕は固まる。
"蘭さん"その呼び方に親しみを感じた。
「あった」
矢野くんが机の上にあった先輩の参考書を手に取る。
「こんな所で受験勉強なんて、息が詰まるな」
そんなことを言いながら、矢野くんは玄関に向かう。
「……やの、くん」
思わず声をかけてしまった。
それに矢野くんが足を止めて、僕を見る。
「………山梨…先輩は?」
「お前がそれを気にするのか?」
矢野くんが馬鹿にしたように笑う。
ゆっくり僕に近づいて目線が合うように身を屈める。
「傷ついてるよ。」
矢野くんの蒼い瞳が冷たい。
怒りを含んでるように見える。
「関わんなきゃよかったのにな、人が良いんだろうな。……あ、顔の腫れは引きましたよ。」
矢野くんがちらりと篤也さんに視線を移す。
篤也さんはぐっと、苦虫を噛み潰したように顔を歪ませる。
「それで、聞きたいことはそれだけか?」
本当に聞きたいのは、別のことだろう。
矢野くんがそう言ってるように感じた。
「……先輩が、矢野くんと……、矢野くんと寝たって……」
言葉が震えた。
聞いておいて、矢野くんの答えが聞きたくない。
聞きたくない。
聞きたくない……。
「寝たけど、それで?」
「そ……れで…………?」
寝た。
その事実を矢野君の口から聞いただけでもショックなのに、これ以上の何かがあるのか。
「あの人がお前にわざわざ嘘つく意味ないだろ。感想でも聞きたいわけ?」
「っ、」
思わず、矢野くんの頬を叩いていた。
「……っ、ひどい……っ、ひど……」
声も、手も震えた。
涙まで出てくる。
「なんでっ、矢野くんは、簡単にそんな…っ」
「……俺が誰と何しようが勝手だろ。お前人のこと言えるのかよ、俺が来なきゃ木崎さんとヤってたんじゃねぇのかよ」
「っ、」
そうだ、また甘えようとした。
全部自分が悪いと再確認した矢先にだ。
図星をつかれて、何も言えなくなった。
そんな僕に代わって、篤也さんが矢野くんに掴みかかる。
「まことが何しようが、お前にも関係ないだろ。」
「……ああ、そうですね。けど、あんたには関係ないなんて言わせねぇからな。」
矢野くんも篤也さんに掴みかかる。
二人が至近距離で睨み合う。
僕はただ項垂れていた。
「あんた俺より悪質だろうが。あの人が俺と寝たのは、あんたのせいだろ」
「……っ」
「あんたなら、俺やあの人の気持ちがわかるだろ。そいつと寝たあんたなら。」
矢野くんが僕に目配せする。
「……嫌がらせかよ、まことを寝取られたから蘭を抱いたのか」
「今はそれだけじゃない」
「……………………惚れてるのか?」
篤也さんのその言葉に、息を飲んだ。
予想しなかったわけじゃない。
矢野くんは、誰かに振り回される人間じゃない。
自分の意志でしか動かない。
だから、学校でもちきりなあの噂は、噂じゃないかもしれないと疑ったんだ。
「そこまでじゃない。けど、情が湧いた。あの人がここにコレを取りに行くって言うのを阻止するくらいには。」
そう言って矢野くんが手にしていた参考書を見せる。
「こんなの本屋行けば手に入るのに、わざわざ取りに行くなんて……あんたに遭遇する確率高いことするんだから、全然ふっ切れてねぇよ。また丸め込まれて傷つくのがオチだったろうし、そうじゃなくても俺が入ってきた時の様子じゃあな」
部屋に入ってきたのが、矢野くんじゃなく、先輩だったら……。
それを想像しただけで肝が冷えた。
「ゆず」
久しぶりにそう呼ばれて、思わず顔をあげる。
「シカトされて謝り損ねたけど、お前に二度とあんなことしねぇよから安心しろよ。」
それは山梨先輩と口論した後に、僕の口で鬱憤を晴らしたあの行為のことを言っているんだと、すぐにわかった。
「頭に血が上ると馬鹿なことばっかしちまうけど、俺とお前が付き合うなんてありえねぇよな。」
"俺たち付き合うんだろ"
そう言われたのを思い出した。
何で忘れてたんだろう、その後怖い思いをしたからだろうか。
「俺とお前は、ただの幼馴染みだ。これが俺の答え。」
矢野くんを、微塵も好きだと思えない。
そんなふうに思っていたのに、学校での噂で矢野くんへの気持ちが再燃していた。
そして今、矢野くんによって鎮火された。
「帰る。」
矢野くんが篤也さんの手を振り払って玄関へ向かう。
その後ろ姿をずっと見てた。
「やのくん……っ」
咄嗟に部屋を飛び出した。
この機を逃したら、矢野くんに会えない気がして。
「矢野くんっ」
矢野くんの背中に抱きついた。
しがみついて、離さないよう腕に力を込める。
「……っ、いっちゃ……やだ」
広い背中に顔を埋めると、矢野くんの匂いがした。
知っているはずなのに、懐かしくて、涙が出る。
「矢野くん……好き……ずっと、すきだったんだよ……」
「……ゆず、ごめん」
矢野くんの手が、優しく僕の手を解く。
「ごめんな。」
髪を撫でられる。
矢野くんの指がヘアピンに触れて、抜き取った。
「……忘れてくれ」
思い出と一緒に、矢野くんが去っていく。
ボロボロと零れた涙が地面に染みを作る。
完全に、振られた。
今までぼかしてきた部分が、ハッキリしてしまった。
矢野くんと僕は、ただの幼なじみになってしまった。
〇月×日『僕だけを見て』
「きみと寝たらわかるかな…」
「あんた正気か?俺のこと糞呼ばわりしといて俺と寝るって?」
「それは篤也が……、まぁ、そうだね…僕も変わらず最低だと思ってるよ、きみのこと。」
「その俺と寝るメリットは?」
「……篤也の関心と…………柚野ちゃんが、羨ましいからかな…」
「……」
「……篤也のために受験やめたのに、僕のことには関心がないんだ。…柚野ちゃんの支えになって、柚野ちゃんにはあんなに親身になってるのに…………僕のことには…」
俯くと、涙がこぼれた。
遠くには行かずに、側にいて、徐々に溝を埋めていきたいと言ってくれた。
けど、側にいればいるほど、自分の中の溝が深まっていった。
彼と、最近まで彼の恋人だった後輩の仲を目の当たりにすると、辛いものがあった。
「あの男の関心をゆずから自分に移したくて俺と寝るのか?やっぱり正気じゃないな。関心どころか、完全に縁切られるぜ。ゆずにも」
「……どうでもいいよ。…もう、物わかりのいい優しい先輩には戻れない……」
シャツからネクタイを引き抜いて床に投げ捨てる。
偉そうにソファーに座る男の膝に跨り、彼の首筋に噛み付いた。
「ぃ……って、痛ぇよ」
髪をつかまれて引き剥がされる。
ソファーに体を押し付けられると、優しさの欠片もない手つきでシャツを脱がされ、体をまさぐられる。
「あっ、」
自分がそうしたように、彼に首筋から責められる。
胸の尖端を唇に含まれる頃には下着を脱がされ、挿入するために彼の長い指が胎内を掻き回してくる。
「んぅっ、はっ、あっあ、」
思いのほか丁寧に指を動かされて、体が熱くなる。
「挿れるぞ」
「え、まって……アっ、」
指が抜けたかと思うと、脚をいっぱいまで開かされ、彼の腰が割入れられる。
パンパンに膨らんだ性器を躊躇いもなく挿入されて体が仰け反った。
「あっ、やっ、まって……まっ、てっ」
彼の肩に手をついて嫌々と首を降ると、その手をソファーに押し付けられる。
「あぁっ」
ギシギシとソファーが軋む。
今にも壊れそうなほど激しい中枢が繰り返される。
体の中にいるのは、篤也じゃないのに、その快楽に抗えなくなって、矢野の腰に脚を絡ませる。
「あんたの中、熱すぎ……溶けるっ」
苦しそうに呻く姿が、年下の男とは思えないほどセクシーで、下腹部が疼いて、彼をキツく締め付けた。
「っ……っく」
重い一突きを体で受け止め、ィった。
脚でホールドした彼の体が痙攣する。
僕の中で射精する男は、彼で二人目だった。
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