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〇月×日『染み』
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登下校。
教室。
僕の部屋。
矢野くんの部屋。
二人で過ごす場所が戻った。
あまりに簡単に戻ってきたこの時に、戸惑う暇すらなかった。
「お前、またコレかよ」
レンタルショップの袋からDVDを出した矢野くんが呆れ顔で僕を見る。
「……好きだから。」
「知ってる。でも借りすぎだろ。絶対損してる。買った方が安い。」
「そうかな……」
そうだろ。と言いながらディスクをプレイヤーにセットしてくれる。
スタートボタンを押して、ベッドを背もたれに二人で肩を並べる。
前だったら、借りてきたDVDがつまらないと矢野くんにベッドへと連れ込まれてた。
けど、今の矢野くんにそんな気配は全くない。
何度も見たことあるDVDなのに、矢野くんは退屈そうな素振りは見せずテレビ画面から目を離さない。
そこに寂しさを感じたら、不純だ。
僕も真っ直ぐにテレビ画面を見つめた。
けど、内容は入ってこなかった。
自分自身に呆れてため息をついた時、矢野くんの携帯が鳴った。
矢野くんはポケットから携帯を取り出すとディスプレイを確認する。
どうやらLINEの通知音だったみたいだ。
そこから、矢野くんの視線がテレビ画面から携帯に映る。
LINEで誰かとやり取りしているようで、矢野くんは時折微笑んで返信を返しているようだった。
僕はそんな矢野くんが気になって、テレビ画面を見ながら何度も矢野くんを覗き見した。
「電話してくるわ」
矢野くんは一言そういうと、僕の返事を待たずにベランダへと出て言った。
……わざわざこの寒空の下で電話?
前の矢野くんだったら気まづい会話だって僕に構わず目の前でしてた。
僕に聞かせたくない内容だから外へ出たんだろうか。
DVDが終盤に差し掛かる。
けれど矢野くんは戻ってこない。
「……」
気になって、小さなカーテンの隙間から窓ガラス越しに矢野くんの様子を覗き見た。
「あんたの言う通りにしてるよ。ああ、……不満?それってヤキモチじゃね?」
会話は弾んでいるようだ。
微かに聞こえた会話の内容の意味はよくわからなかったけれど、矢野くんは楽しそうに話してる。
無邪気、そんな笑顔で。
「はいはい、また明日。お休み、蘭さん」
固まった。
矢野くんの口からその名前が出た瞬間、僕の体は固まったように身動きが取れなくなった。
LINE、
電話、
蘭さん、
そのワードが頭の中を駆け巡って、動作を忘れた。
瞬きすらできなかった。
「ゆず?」
「え、」
矢野くんが部屋の中に戻って、弾かれたように顔を上げた。
「何してんだよ」
「ぁ…………遅いから、様子を」
「ああ、悪い。DVDも終わっちまったな」
矢野くんがディスクを取り出してケースにしまう。
「泊まってくか?」
「え」
「遅いから。」
「…………帰る、」
「んじゃ、送ってくわ」
矢野くんが上着を羽織る。
僕も帰り支度をして、矢野くんと一緒に部屋を出る。
帰り道は頭が真っ白だった。
真っ白な中に一つ、山梨蘭、その名前だけが染み付いていた。
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