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〇月×日『裏腹』
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あんたの言う通り?
不満?
ヤキモチ?
矢野くんの電話の相手が山梨先輩だとすると、意味のわからなかった会話の内容の意味を、変に勘ぐってしまう。
僕との習慣が戻ってきたのは、先輩に何か言われたから?
そうするように言ったことに先輩が不満を感じてる?
それは嫉妬だ。
先輩は、矢野くんを好きになったんだろうか……
そんなこと、考えたくない。
先輩は、篤也さんが好きなんだから。
けど、矢野くんは変わらず休み時間毎に先輩の元へ通ってる。
先輩が矢野くんに情が湧くということも、有り得るかもしれない。
そんなことない。
そんなことない。
考えすぎだよ。
「おい、ゆず」
肩を揺さぶられて、ハッとした。
顔を上げると矢野くんが僕を見下ろしてた。
「なにボーとしてんだよ。眠いのか?」
「……ううん、」
矢野くんが僕の前の席の椅子を引いて、座る。
「昼飯たべてねーじゃん」
言われて見下ろすと、机の上には食べかけのお弁当。
「調子悪いのか?」
矢野くんの大きな手が、額に触れた。
冷たくて気持ちがいい。
「大丈夫だよ、ちょっと……考え事」
「考え事?」
「…………矢野くんは、どこ行ってたの?」
「ああ、蘭さんとこ。」
「……、」
言葉にされて胸が苦しくなった。
適当なことを言ってはぐらかすかと思ったのに。
「……山梨先輩……?」
「ああ」
「…………付き合ってるの…?」
「いや、でも好きだ」
「……、」
あの夜、篤也さんの問いに矢野くんは、情が湧いていると言っていた。
今は、好きだとハッキリ口にした。
「……はぁ、そんな顔するなよ」
矢野くんの手が、今度は僕の頭にのせられる。
「だって……僕……」
「悪い。軽率だったな。お前俺のこと……、……兎に角ごめん。」
謝られると、それだけ本気なんだと言われているように思えて、悲しくなる。
「……どこが好き…?」
「んー……そうだな、笑ってる顔が好きだ。」
「僕も、先輩の笑顔好き…」
「人が良すぎるとことか。……俺のこと嫌いなくせに、拒絶しきれないとこかな。俺のこと嫌いって奴なかなかいないから、レアだ」
確かに、矢野くんを嫌う人なんてこの学校に誰1人としていない。
矢野くんは王子様だ。
みんなの人気者。
矢野くんが本当は意地悪で、酷いこともする人だって知っても、嫌う人は少ない気がする。
それくらい人気者の王子様、矢野晃平は板についてるからだ。
きっと山梨先輩は矢野くんを特別扱いしないんだろう。
そんなところに、矢野くんは惹かれたのかもしれない。
「……先輩は何て?」
「ありえねぇってさ。」
「え?」
「俺なんかありえねーて。」
「……でも、先輩……矢野くんと……、あの……」
「……あの人が俺と寝たのは、俺に惚れてるとかじゃねぇから。本気で木崎さんの気を引きたかっただけ。木崎さんやお前に嫌われても、そうすることで気も晴れたのかもな。まぁ、俺もあの時は憂さ晴らしだったからな…」
「……そっか」
「気長に待つさ」
矢野くんはどこか楽しそうにそう言った。
「矢野くんが、……先輩のこと好きでも、僕達の関係……変わらないよね?」
今、一番不安なことだ。
自分の、矢野くんにとってのポジション。
「今まで、なんだかんだ一緒にいただろ。俺ら。」
どうやら、今のところは変わらないということだろう。
「応援してくれたりするか?」
「ぇ、……んー、矢野くん、先輩だけだよね…?」
「誰とも寝てねぇよ」
「……矢野くんの応援というより、先輩の応援がしたいな……」
それで結果、先輩が矢野くんの恋人になったとしたら、それはそれで嫌なのかもしれない。
けど、先輩はいつしか言っていた。
僕は篤也さんと付き合ってたほうがいいと。
先輩はどういう気持ちでそう言ったんだろう。
今、先輩の応援がしたいと言ったのは本心だ。
先輩には幸せになって欲しい。
応援がしたいと思ったのは本心だけど、できれば矢野くんとではなく篤也さんとだ。
矢野くんをとられたくないという気持ちもある。
けど一番は、想いあってるに違いない2人だからだ。
「まあ、別にお前に応援されなくても攻める気だし」
矢野くんは活き活きとした、楽しそうな表情をしている。
そこに不安はないように見える。
「……頑張ってね」
小さく呟いた僕のエールに、矢野くんは微笑んでくれた。
頑張って、
ふられて、
もどってきて、
僕の元に。
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