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ミヤコワスレ
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弘が消えて、初めての夏が来た。
俺ももうすぐ18になる。来年には、弘の歳に追いつく。
何度夏を繰り返そうと、これからの大寺祐介として生きているかぎり、弘にもう一度会えることはない。
死んでしまった人間と、二度と話すことはできないのだから、フツーは。
たまたま幽霊が見える体質として生まれた。たまたま弘が俺の部屋に縛り付けられて、たまたま恋をした。偶然が連なって、それは記憶として根付いて、一生消えない事実になる。
俺は確かに恋をした。
俺は確かに、あいつが好きだった。
どうしようもなく、ワガママ傲慢、そして嘘つきなあの人が、どうしても、どうしても忘れられずにいた。
サヨナラを告げる瞬間に、弘が泣いていたからかもしれない。人間ってのは不思議で。不思議すぎるんだけど、平然な顔して嘘をつく姿より、作りものの笑顔より、なにより、最期の泣き顔だけを覚えていたりする。それは多分、弘が初めてみせてくれた、本心だったから。
八月十二日。今日も俺の両耳にはオレンジ色のピアスが光っている。
日に日に、薄れていく。
記憶から青木弘が薄れていく。
どんな声をしていたか、もう思い出せないし、どんな嘘をついていたか、忘れてしまったし。
ああ、虫が嫌いだったな。とか、ああ、いつも部屋の隅にいたな、とか。そんな漠然とした思い出が、いつまでも心を掴んで離してくれない。
出会いは最悪、だってもう後がなかったから。すべて終わってしまった後だったから。死んだ人間は生き返らない。死んだ人間に残された最後の49日を、俺と過ごしてくれてたこと。
「何度生まれ変わっても。」
何度、生まれ変わっても。
大寺祐介としての命が終わって、新しい俺になる日が来ても、お前に恋をしたことを、忘れられる気がしないんだよ。俺と、恋をしてくれて、ありがとう。来世では、恋人になれっかなぁ、
「何度生まれ変わっても。八月十二日は祝ってやるよ、弘。」
一体今まで、誰がお前の誕生日を祝ってきたんだろうな。お前のことだからさぁ、もしかして、だれにも本当の誕生日教えなかったんじゃないかなー、とか。
考えて、笑っちゃうよな。
お前が生まれてきた日を、俺が忘れなければ。お前が生きていたこと、ここにいたこと、証明できると思うんだ。
本当は心から優しい人間だったんだろうと、傷つかないために嘘をついてきたんだろうと、そんなお前のそばにずっといれたら、よかったのになぁ。
俺だけがさよならできないでいる。
生きていたら。
生きていたら、生きていた、ら。
今日もお前のためにケーキとか買ってきて、お前は「よく覚えてるね、俺の誕生日なんてさー」って、いいながら、でもきっと少し照れた顔で「ありがと。」と、言うんだろうな。
毎年違うプレゼントを渡してさ、お前は「祐介くん趣味わるーい!」なんていいながら、それをずっと持っていてくれるんだろうな。
お前がいない、お前の誕生日。俺が生きている限りは、毎年花を贈るよ。一年ごとに、一本ずつ増やしてさ。俺が死ぬ頃にはきっと、でっかい花束になっていることだろう。
「おめでと、弘。」
窓際に、一輪のミヤコワスレが咲いている。来年は二輪、再来年は三輪と、小さな花がこの部屋を彩るのだろう。
「今日も、好きだよ。」
照れくさい言葉を、ちゃんと目を見て告げれることを祈ってる。
また会える日まで。
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