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49日目 ひろむ
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幽霊って足から消えるんだよ、すごいよね。ゆっくりと、それでいて確実に消えていく自分の体。透けている手を夜空にかざしてみる。不思議だ、星がこの手の中にあるみたいだ。
「みてみて、祐介くん。星が俺のものみたい」
「あー?お前が透けてるだけだろ」
「あは、そうかも。じゃあ、はい。手ェだして」
「?」
生前、手品が得意だった。聞かれなかったから言わなかったけどね。
タネもしかけもあるのに「タネもしかけもない両手です」といって祐介くんに手のひらを見せた。首をかしげる祐介くんに微笑んで、オレはバッ、と夜空に手をかざして星を掴んだ。
「…なにしてんの?ギャグ?」
「あは、いいから手を出しなさいって。ハッピーバースデー、祐介くん!キミに星をあげるよ」
さっぶいこと言ったけど、これしか俺にあげれるものはない。コロン、と祐介くんの手に落としたのは、この間俺が祐介くんから貰ったオレンジ色の石が埋められたピアス。
「…どういう、つもりだよ」
「これはあの世に持っていけないから、キミがつけていてよ。」
「…俺が誕プレ返品されたみたいだろ!」
「やだなぁ、違うよ。それは約束」
「なんの」
「キミは死ぬまでそれをつけていてね。キミが死んで、また久しぶりに会えたときはもう一度、俺に片方ちょうだい」
「約束だよ、」と小指を差し出すと、祐介くんも小指を出してくれた。俺たちは触れ合えない、それでも指切りをしておきたかった。一度結ばれた縁は切れないんだと、たとえ俺が消えても、俺がキミのことを忘れても、また会えるように。願いをこめて。
「弘、すっげー透明になってきてる」
「ありゃ、ほんとだ。もうすこしで時間なんだね」
「弘、俺、約束守るからお前もあっちでも上手くやれよ」
「まかせて、コミュ力だけは高いんだから」
「嘘つき、なおせよ」
「んー、気が向いたら!」
もう、足は見えなくなっていた。この手ももうじき消える、もう本当に時間がない。そう思うと胸がくるしくってぶわっ、と涙が溢れ出した。絶対に泣かないと、笑ってサヨナラを言おうと、決めていたのに。俺はまだ大事なことを言ってない、まだキミにたくさん知って欲しかったことがあるんだよ。
「なーに泣いてんだよ」
呆れたような声の祐介くんを見ると、祐介くんもぼろぼろと涙を零していた。俺はその涙をふいてあげることもできない、もどかしい、もっとキミとお喋りして、喧嘩して、愛し合って、触れ合いたかったなぁ。
「祐介くんこそ。…49日間ありがとね、たのしかった!幸せだったよ!それじゃ、俺はもう逝くみたいだから、」
もう消えてしまう。もう俺はいなくなってしまう。キミをからかうことも、慰めることも、愛することもできなくなってしまう。
「…っ、弘!!!俺お前がすっげー好きだ!!大好きだ!!お前が消えても、絶対忘れない、死ぬまでお前をすきでいて、ちゃんとこのピアス、もう一回届けるから!」
なんだよ、なんだよそれ、反則だよ。それ以上はこの世に未練ができてしまいそうで怖いのに、堪えきれない、コレを口にしたらきっと彼の一生は俺に囚われてしまう、わかっているのに、ああ、バカ、バカ、バカ、…バカ。
「俺も、だいすきだよ。…さよなら。」
ふっ、と記憶はここで途切れた。
ありがとう、ありがとう祐介。もし、またいつか出逢える日が来たら、どうかまた俺を愛してね。
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