アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
早退
-
目を覚ました馨がまず初めに見たのは棗の心配そうな顔だった
(…あぁ、棗がいる。)
ボーッとする頭でその言葉だけが浮かぶ
「…馨? 大丈夫か?」
「……ん。」
返事をする事にも疲れているのか口が思うように開かない
「薬、飲めるか?」
錠剤と水を馨の目の前に差し出し棗が母親の様に聞いてくる
「…飲む。」
このままでは本当に頭がおかしくなりそうだ
無理矢理に身体を起こし、震える手で薬(抑制剤)と水を受け取ると急いで飲み込む
「……身体、変か?」
「…今は、平気。」
馨も先程の事が理解出来ないのか、下を向いて申し訳なさそうな、悲しいような表情をした
(…あんな最低な奴が、番………)
鷹司の先程の表情が脳裏に焼き付いて離れない…
心の片隅で喜んでいる自分がいる…そんな気がしてならなかった
(違う…きっと…違う…)
そんな様子を見ていた棗が馨にある事を伝える
「…今日は早退しろ。…保健の先生がつらそうだったらして構わないって言ってたから…」
「でも…」
(此処で早退したら…)
自分がΩだって事が解ってしまうかもしれない
それだけは嫌だった。
(どうして…自分だけが…)
改めて自分の体質が嫌いになった。
「……クラスの奴等には…俺から話しておく。何でもないって。ただ体調が悪くなっただけらしいって」
馨の不安げな表情から、棗は真っ直ぐに此方を見つめて告げる
「馨がΩだって事は誰にも言わない。…だから、今日は帰れ。お願いだから…」
(棗…辛そう……。)
棗が気に病む事など何もないはずなのに、彼は親身になっていつも助けてくれる
幼馴染だから当たり前なのかもしれないが、馨にとってはそれが本当に救いだった
「解った…棗を信じる…。」
小さな声でそう呟くと、彼はすぐさま動き出し、担任教師にそれを伝えてくると告げた
「此処で待ってろ。…動くなよ?」
「そこまで子供じゃないから待ってられる。…いってらっしゃい」
「うん。」
去りゆく後姿を見ながら馨は思う
-あぁ…棗が番だったらどんなにうれしい事か……-
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
13 / 104