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「さきくん!」
遠めから名前を呼びながら駆ける。
倉橋の声に反応し、そちらに顔を向けた。
そしてすぐに、眉間にシワを寄せる。
「…何だお前それ。」
ビニール袋を持って駆けよる倉橋に不審そうに目を向けた。
「え?これ?」
視線に気づいた倉橋。
お店の袋だよと答え、テープの方が良かった?と付け足した。
「万引きしたんじゃねえの?」
「万引きしてないよ、買ってきた!あとこれ…」
サキくんにプレゼントがあるよ、と嬉しそうに話し、袋からうまい棒を取り出そうとしたとき。
「買った?」
途端、佐木の片眉が上がる。
そして低い声で、
「お前俺に嘘ついたな。」
そう言った。
嘘と言うのがなんのことか分からなくて倉橋は首を傾げた。
コンドームはちゃんと買ってきたし、特に他には約束なんてしてなかったはずだ。
「嘘って、なに??」
黒目がちで、まん丸の目をさらに丸くしながら佐木を見つめる。そしてその瞳は恐怖で僅かに揺れている。
佐木の怒りのスイッチは、いつどのタイミングでオンになるか、全くわからない。
予想もつかないような事で怒ったりする事が多く、その時はいくら謝っても聞いてもらえず、一方的に暴力を振るわれる。
それは倉橋にだけではなく、気にさわった人なら誰かれ構わず容赦しない。
それに一度キレると歯止めが効かない。佐木を危険だと知っているクラスのみんなや、先生達は、なるべく佐木と関らないようにしていた。…倉橋以外は。
眉間にシワがより、足を貧乏ゆすりのように小刻みに揺すってリズムをとっている。
「さっきは金ないって言ってただろうが!なのに、どうして買えたんだよ」
声を荒げ、そう言った。
そして不機嫌そうな表情で倉橋に近づく。
なるほど。そういうことかと閃いた。
コンビニに行けと言われた時、お金を持ってないと言った。
それなのに今こうして買い物袋をぶら下げ帰ってきた。佐木はそれに怒っているのだ。
こんな事で怒るなんて、ありえない。
普通ならそう思う。
けれど、倉橋はそう思わなかった。突拍子もない事で急に怒るのはビックリするけれど、きっとそれは彼の心の奥にある闇がそうさせているのだ。
昔、テレビのニュースで見た動物虐待についの報道。それを一緒に見ていた父親に、どうして動物をイジメたりする人がいるの?そう尋ねた時。
父親が言った。
『愛された事がない人は、愛し方を知らないんだよ』と。
愛し方が分からなくて、不器用になって、自分のキモチを間違った方法でしか、伝えられないんだと。
今までずっと、佐木の事を目で追っていた倉橋は知っていた。時折見せる、佐木の悲しそうなあの瞳や、横顔を。
多分、伝えられてないんだ。思っている事や感じたこと。全部間違って表現しちゃってるんだ。
どうしたら、彼の心を開くことが出来るだろう。今まで散々イジメられてきたけれど、未だに何も変わっていない。
とりあえず今は誤解を解こうと必死に口を動かす。
「財布も持って来てなかったし、ほんとにないと思ってたんだけど、たまたま…」
「何がたまたまだよ!嘘つきやがって」
しかし事情を話そうとする倉橋に、全く聞く耳を持たない佐木。それどころか胸倉を掴み、明らかに敵意を剥き出しにする。
殴られる、そう思い、逃げようとするが、あたふたするだけで何もできない。
そして佐木の拳が視界に入った瞬間、咄嗟に目を閉じた。
骨と骨のぶつかる鈍い音がして、強い衝撃が頬に走る。ガン、と頭が揺れたと思ったと同時に手にもっていたビニール袋が吹っ飛んだ。
地面に落ちた袋からはコンドームの箱とうまい棒の可愛らしいキャラクターが顔を出した。袋と横並びに倉橋も地面に尻餅をつく。
「いてて…」
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