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感情③
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ドキドキしている。いつもはそんな顔見せないくせに。怒ってばっかりで泣いたりしないくせに。
(泣きたいのは、僕の方だ)
「…僕何かした??」
どっちかというと、何かされたのは倉橋の方だが。殴られたり蹴られたり、理不尽な暴力を受け続けてきたのだから。
それでも。その苦しそうな表情を、どうにかして和らげたいとおもい声をかける。
「僕、本当に嘘ついてないよ?ポケットにね、ほら、このズボンのとこに、前もらったお小遣い入れっぱなしにしてて…嘘ついてないよ…」
ポケットをぽんぽん叩きながら弁解する。なるべく、刺激しないようにあまり大きい声は出さず静かに優しく。
「う、うるせぇ……も、いいよ」
鼻声になりながら腕で顔を覆い隠す佐木。
「帰れよ…もう許してやるから、早く帰れ」
ようやく喋りだしたと思えば慰める倉橋を突っぱねようとする。服の袖で顔をゴシゴシ拭う。
「や、でも…」
「帰れよ」
「あのね…」
「帰れ!!」
「か、帰りたくないっ」
帰る帰らないの押し問答の末。佐木に対しての初めて反抗。怒られるかもと思いつつ、つい口走ってしまった。
鼻水を拭いなら顔を上げる佐木の顔は明らかに怒っている。
「いや、あのね、帰りたくないのには理由があって…!」
「何だよ。そんなに俺の泣き顔が見たいのかよ。写メとってばら撒くわけ。そんなんしたら、お前まじで殺すからな」
「そんなことしないよ!」
違う違うと首をブンブン振りながら否定する。
「じゃあなんだよ」
「これ!」
地面に落ちた袋を拾い、中身を取り出す。
そして佐木の目の前に2本、差し出した。
佐木の為に選んだ2本のうまい棒。さっきの衝撃で粉々になってるかもしれないけど。それでも一緒に食べたかった。
「…どっちがいい?ポタージュのと明太子の…」
「……は?」
「1000円出して、お釣り20円だったから…一緒に食べないかなって思って…でもどの味好きか分かんなくてとりあえず買ってきて、えっと…」
勇気をだして説明するが、緊張して早口になる。佐木は意味がわからないという顔をして、うまい棒を見つめた。
(通じてない?僕の言うこと聞き取れなかったのかな…?)
「さきくんの好きな方、選んでってこと…なんだけど」
「バカにしてんの?」
ひねくれた回答に、秒速で首をふる。
「一緒に食べたい、だけ…」
自信なさ気に俯いて言う倉橋。それを視界の端っこに入れ、
「…お前は誰かと何か食うのが好きなの?」
そう言った。
「食べるのは、好きだけど。誰とでもってワケじゃ…」
「だってさ。前にも一度、弁当一緒に食おうとか言ってきたじゃん」
「あ、うん…」
(…覚えてたんだ。)
倉橋がいじめられるようになった、キッカケのひとこと。
佐木の事が好きだから、一緒に食べたかった。そんな本音は言えなくて、つい口ごもる。
「同情だろ。あの時も。今も。」
「同情??」
「俺がひとりで可哀想だから、こうやって同情してんだろ」
思わぬ発想に首をひねる。
違うと首を振りたかったけど、自分の気持ちを打ち明ける勇気がなくて、それができない。
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