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夢と現実
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淡いオレンジ色で包まれた世界。
暖かい陽だまりの中、僕はベンチに座ったまま、うとうとしてしていた。
すると突然、柔らかい風に乗って、僕の大好きな香りが鼻をくすぐってきた。
ーー良い匂い。
これ、サキくんの香水の匂いだ。
すぐに気付いた。甘過ぎず上品で大人な香り。サキくんとすれ違うたびにこの匂いがするんだ。
まだ中学生だし、香水なんて早過ぎるって思ってたけど、彼だったら別。少し背伸びしてる所すら、可愛いと思ってしまう。
決して馬鹿にしているわけではなくて、彼のすべてが只々愛おしいのだ。
ふと隣を見ると、見覚えのある金髪の頭があった。やっぱり。サキくんだ。
二人の目が合う。
ー来てくれたんだね、僕の隣に。待っててよかった。
僕がそう言うと、彼は何も言わずゆっくりと顔を近づけてきた。縮まっていく距離に喜びと恥ずかしさを感じながらも、目は開けたまま。
そのまま、鼻と鼻が触れ合いそうな距離になる。彼は伏し目がちに僕の唇を見つめている。
僕もマネして彼の唇を見つめた。興奮してるのか、少しだけ開いて、口で息をしているのが見えた。
熱い息遣いを感じる。ため息のような切ない吐息に胸がきゅう、と締め付けられ、僕まで息があがってくる。
ー倉橋、目閉じて。
息は上がっているものの、落ち着いた声でそう言われた。
彼がしようとしていること、なんとなく分かっている。僕はそれを受け入れようと、瞼を閉じる。
これが僕のファーストキスになるのか…と、思っていた、
ーーーーが。
そろそろかなぁと目を閉じ構えているのに、待てども待てども一向に何も起こらない。
もうとっくに唇に熱が触れてもいい頃なはず。
なのに。
ドラマの見過ぎなのだろうか?現実はドラマと違って、もっと焦らすものなのだろうか?
頭をフル回転させながら、それでもそのまま待ち続けていると、何やら遠くから声がした。
ーーーらーーし…
ーーーら…はし…
その声はどんどん鮮明になってゆく。
僕を、呼んでる??サキくん??
いや、それにしては野太い声…
ーーーだ、だれ?
ーーーーーーーーーーーーーーーー
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「‥ん、んん‥サキ、くん?」
『倉橋ッ!!』
突然耳元で大きく響いた声に、ハッとして目を見開く。
「は、はいッ!!」
大きな声で返事をすると、目の前には、先程までそばにいたはずの佐木の姿は見当たらず、代わりに国語教師の竹中がいた。
しまった。完全に寝てしまっていたみたいだ。
「一時限目、はじまっとるぞ」
「え、あっ!ご、ごめんなさい」
「23ページを開きなさい。」
「ハイ、スミマセン」
頭を下げながら急いで教科書を用意する。
(は、恥ずかしいいい)
授業中にあんな夢を見ていたなんて。ありえないありえない、と、心の中で叫びまくる。
机から教科書を引っ張り出し、震える手で23ページを探す。
(変な寝言とか、言ってなかったらいいけど…)
もし誰かに聞かれでもしたら、恥ずかしすぎて死んでしまう。
そう思った瞬間。
「因みに佐木はまだ来ていないぞ。」
先生のその一言に僕は思わず、耳を疑った。
「……え」
まるで、この世界で自分だけ時間が止まったかのように、ページを捲る手が自然と止まった。
教室内がザワついて、皆がクスクス笑う声が聞こえた。
……どうやら僕はやってしまったみたいだ。
顔中に血液が集まってくるのを感じた。
耳が熱くてジンジンする。
きっと今の自分の顔は、目も当てられないほど真っ赤に染まっているだろう。
口をパクパクさせながら、先生を見つめた。
「もう居眠りはしないように。」
追い打ちをかけるような先生の言葉に更にザワつくクラスメイト達。
先生は、それを咳払いで制したあと何事もなかったかのように授業を再開した。
穴があったら入りたい。まさに今の僕の心境を表していることわざである。
国語の授業の時間、このことわざの意味を身を持って体験してしまった…。
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