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正義感②
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「あぁ〜やっぱり鍵開いてなかったぁ…」
屋上へ行くための階段をのぼりきった所。外に繋がる扉の目の前で、百城は頭を掻いた。
ここまできたのに〜、と扉をガチャガチャしている。それから振り返って、ごめんねと苦笑いしたあと上ってきた階段に座り込んだ。
「仕方ないから、ここで食べよう」
倉橋くんも、座りなよと言うので、若干距離をおいて僕もそこに座る。
同じクラスだけど全く関わった事がないので妙に気まずい。
少しでも気まずさを紛らわすために、僕はお弁当を膝の上に置いて、続きを食べることにした。
お母さんの作ってくれた玉子焼きを頬張る。もぐもぐ食べていると、百城が弁当を覗きこんできた。
「美味しそうだね、なんか色合いもかわいいし」
「‥‥ありがとう。お母さんが聞いたら、きっと喜ぶよ」
かわいいお弁当だと言われて喜んでいいものか迷ったけれど、そう言っておいた。
「ももきくんは、食べないの?」
「うん、食べるんだけどその前に、聞いてもらってもいい‥.?」
急に真面目な顔になるので、ただならぬ空気を感じて、僕はお弁当を食べる手を止めた。
真剣な眼差しで真っすぐ顔を向ける百城。
目が合うと大きな声で「今まで、ごめん!!」と深く頭を下げてきた。
突然の百城の謝罪に戸惑う。
「え?どうしたの、急に…」
謝られるようなこと、されたっけ?
心当たりがなさすぎて全く反応できない。
「倉橋くんが佐木にいじめられてたの知ってたのに、何もしてやれてなくてゴメン!!!」
「なんとかしなきゃって思ってたんだけど、勇気がなくて、助けれなかった…」
形のいい眉を悲しげにひそめながら、今度は頭をあげて更に続けた。
「でも今日、思ったんだ。…倉橋くん、アイツが夢に出てくるほど、追い詰められてたんだよな。」
どうやら今日、居眠りをしていた僕が夢の中でも佐木くんにいじめられていたんだと勘違いしているらしい。
「寝言で佐木の名前何度も呼んでたし、凄くうなされてるみたいだった」
「そ、そうなのッ?」
まさか佐木とキスしようとする夢を見ていたなんて思ってもいないであろう。恥ずかしさで顔が赤くなる。
「よっぽど…悩んでたんだよな?」
「え?ぁ、うゃ…」
頷くことも否定することも出来ずあやふやな返事をしてしまう。
恥ずかしくなって、僕が下を向くと背中に温もりを感じた。
「ごめんね。俺、今までずっと、見てみぬふりして。これからは俺の事、いつでも頼ってくれよ」
うつむいたまま何も言わない僕の背中を擦りながら優しく語りかける。
その声に思わず鼻の奥がツーンと痛んだ。
そんな風に思ってくれてたなんて、知らなかった。
今まで誰にも掛けてもらったことのなかった優しい言葉達に涙が出そうになるが、それを必死にこらえお礼を言う。
「ももきくん、ありがとう。」
「でも僕、大丈夫。」
「もう心配しないでいいよ。全然平気だから…だってね、僕ーーー」
佐木とは並んでうまい棒を食べた仲なのだ。もう心配する必要はない。
そう伝えたかったのだが、百城の言葉がそれを遮った。
「…アイツから脅されてるのか?」
不安そうに視線を投げかける百城に、どういう事?と返す。
「口封じのため、何か弱み握られてるとか…ない?」
そう言って首を傾げた。
流石学級委員長。鋭い感を持っている。
一度だけ、恥ずかしい写真を撮られたことは確かにあった。
けれどもう心配ないだろうし、わざわざ言うのも気が引ける。そこまで深く考えず、ないよと答える。
「…本当に?」
「うん。本当だよ」
「そっか…」
あまりにも穏やかな倉橋に、その時百城は違和感を感じた。
あそこまで酷いことされてどうしてこんなに落ち着いているのか。
普通なら心が折れてしまってもおかしくないのに、涙の一つも流さない。
そんな倉橋の心境を自分なりに考えた結果。
ひとつの考えが頭を過った。
(ーーーもしかして、自殺を考えてるんじゃないだろうな…)
恐ろしい事に気付いてしまった。
まさかとは思うが、可能性は充分にあると思う。精神を病んでしまった人の思考回路は他人には計り知れない筈だ。
少しばかり間をおいて、意を決して口を開いた。
「…なぁ、倉橋くん、こう言うのも何だけど、変な気起こしたら駄目だぞ?」
あまり露骨な単語は出さずそう口にした。
一人のいじめっ子のせいで、大事な命を落とすなんて、悲しすぎる。そんな道を選んで欲しくない。手遅れになる前になんとかしなければーー。
しかし倉橋はというと百城の言う【変な気】が何のことか分からず首を傾げた。
「ーーー変な気って、何」
そう言おうとした瞬間。
(も、もしかして…‥)
サーッと血の気が引いていくのがわかった。
(ゲイって事が、バレた?)
【変な気】という言葉の解釈が、それ以外には思い浮かばず、倉橋は頭を抱えた。
ーー今の会話の何処で気付いたんだろう。
ーーいや鎌をかけただけかな。わからない。
全く読めない百城の心理状態に混乱するも、自分がゲイだという事はどうしても認める訳にはいかない。
その一心で、なんとか話を逸そうと思いついたように弁当を食べる。
「ご、ごめん。僕なんの事かわかんない!そ、そんな事より、お弁当食べようよ。はやくしないと、昼休みおわっちゃうよ!」
下手くそな芝居をしながら弁当をつっつく。
焦っているその態度と、急に増えた口数。
百城の考えは確信に変わった。
(今、明らかに動揺してた。やっぱり自殺を考えてたんだ…可哀想に。)
(弁当に話を逸らしたのはきっと、触れられたくなかったからだ…)
何にせよ今は無理に追求するのはよくないと考え、百城はこれ以上詮索するのを辞めた。
今日初めて喋ったのだ。対して信頼も厚くない状態だし、そんな自分が何を言っても無駄だろう。
「変な事言ってごめん。俺が言いたい事はもう言ったし、お弁当食べよう!」
なるべく倉橋の心に負担を感じさせない為、爽やかな委員長スマイルを見せて弁当に手をつける。
しかしその笑顔の裏では、これからは自分が倉橋を見張り、守らなければ…とひとり心に正義の火を燃やしていた。
責任感を感じる百城と、なんとか上手くごまかせたと思い、ひと安心する倉橋。
なんて事ない平凡な昼休み。
ややこしい二つの勘違いが誕生してしまった。
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