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険悪⑦
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「…ったく。勝手に色々やりやがって。あのクソ兄貴め」
サキくんはブツブツ言いながら下唇を噛んでいる。
「お兄さん、イタズラ好きなんだね」
そんな彼をを気遣うように、明るくそう言ってみる。内心心配で堪らないのだけど、重苦しい雰囲気にしたくなくて、仕方なく。
サキくんは、今でこそブツブツ文句を言っているけれど、お兄さんに面と向かって言うことはありえないだろう。
その代わり、お兄さんの方は酷い言い様だった。
ーーーお前が消えても、誰も心配しないって
ーーーむしろ喜ぶと思うよ?
とか何とか。
あの冷ややかな態度を思い出しただけで、身震いする。
「サキくん…」
「んあ?」
「…お兄さん、いつもあんな感じなの?」
二人の関係性が気になって仕方ない僕は、静かに問いかけてみた。
サキくんは一瞬表情をこわばらせたように思えたけど、すぐに顔を逸らした。
「何が?」
「ちょっと…その…怖い感じだったから…」
ごにょごにょと小さくなる語尾。確かに聞こえているはずなのに、サキくんは何も反応を見せない。
「あの、僕、ごめんね。入ってくるなって言われたのに、勝手に割り込んで…」
「…………。」
謝る僕の声には耳も傾けず、ボタンどめの作業に集中している。わざとらしく見えたが、それがなかなか苦戦しているようで、不器用な手つきで「ボタンうぜえ」と言いながら唇を尖らせている。
おそらく、態度だけのシカトを貫き通してるだけで、聞こえているのには違いない。僕はそのまま続けた。
「…でもね、ただの兄弟喧嘩とは思えなくて。なんだかすごく、サキくんがーーー」
ーー辛そうだったから。
そう言おうとした時。
「俺マジでボタン嫌いなんだよねー!!」
辛気臭い僕の声を遮るように、サキくんが言葉を被せてきた。それも、かなりの声量で。
「あー嫌い嫌い!うっとおしーなーボタンって!」
(か…完全に無視するつもりだ…)
無かったことにしたいのだろう。
僕の質問も、お兄さんの事も。
あからさまな態度に呆然としながらも、その分かりやすさにため息が出る。
「サキくん…あの…」
「うし。出来た!そろそろ行くかなー!!」
「また無視!!」
準備がひと通り終わり、サキくんは玄関に放置されてあるカバンを手に取り立ち上がった。
「さあ行こう行こう。遅刻するぞー」
「えっ、ちょっと!」
これでもかと言うほどの棒読みでとっとと家を後にするサキくんを慌てて追いかける。
「無視しないでってば!」
「あー聞こえない聞こえない。なーんも聞こえないわー」
「それ絶対きこえてるでしょ!」
そうして颯爽と道を行くサキくんを追いかけながら、わーわー言いつつ学校へ向かった。
道の途中、お兄さんの話をしようとしたけれど、先程のように全力で避けられ無意味だった。
その為、それから学校につくまでの間、今朝のことを話題にすることは一切無かった。
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