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ほしみっつ⑤
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倉橋は困ったように笑ってみせた。
「…僕こそ、ゴメン」
「…‥…っ……」
なんでお前が謝るんだ、と心の中で呟く。
威圧的な態度を取ることに慣れていたはずなのに、今の自分は、不思議とそういう気分になれなかった。
すっかりテンションも下がりきり、無言で弁当をかきこむ。
俺も倉橋も、どちらも言葉を発することなく、気まずい沈黙が流れ続けた。
少し前まではこの静けさが当たり前だった。
それなのに、ほんの数日で、その当たり前は覆されていたことに気付いた。
ふと、思い出す。
俺が転入してすぐの頃ー。
転入した当日からずっと、学校で好き勝手していた俺に話しかけてくる人はいなかった。
もちろん、最初のうちはそれなりにもめた。
怒られることだって、喧嘩になることもあった。
しかし、日が経つにつれ、そんなこともなくなった。
教師もクラスメイトも、手を付けられないと思ったんだろう。
何をしても、誰も何も言わなくなった。
俺はそれが嬉しかった。
自分だけの王国が出来た気分だったから。
何をしても怒られない。誰にも文句を言われない。傷つく事も、誰かに頭を下げることもない。
友達なんていらなかったし、自由でいられるだけで良かった俺は、今までに無い優越感に浸っていた。
そんな中、いきなり話しかけてきたのが倉橋だった。
『佐木くん、良かったら一緒に、お弁当食べない?』
地味で大人しくて、存在すら忘れかけていたくらい目立たないような奴が、確かにそう言ったのだ。
自信なさげに、小さく微笑み首を傾げながら。
その時、俺は思った。
喧嘩を売っているのとは違う。
馴れ合いを求めているのとも違う。
こいつはきっと、同情している。
俺の事を可哀想だと思って話しかけてきたんだ、と。
心の奥を見透かされているような気がして、鳥肌がたった。
目の前にあるその二つの瞳を見ていると、
思い出したくない事が、忘れかけていた事が、脳裏に焼きついたままの過去が、走馬灯のように次々と頭の中を駆け巡っていく。
『………っ…』
俺は、無意識のうちに、震えるほど強く拳を握り締めていた。
その瞬間から、倉橋は俺の標的になった。
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