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アントール先生とレイン
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『永久(とわ)の響(ひびき)』
古くからあるこの儀式は『精霊』と『人間』を繋ぐものだ。
簡単に言えば…集団見合いとでも言えば良いのかも知れない。
ルールは至って簡単。
まず人間が精霊達にアピールを行う。
それを視た精霊が気にいった人間の前に姿を現し契約を申し込む。
そしてその契約を人間が受けいれれば契約は成立。
たったこれだけ、簡単でしょう?
けれどたったこれだけの事が…意外と難しいんです
?
「ここのいる皆さんには、これから『永久の響』に参加する権利が与えられます」
ウィリス王立学園の教師であるミセア・アントール先生が吊り上った目で『永久の響』参加者の生徒を見渡した
「先程配布した晨星石(しんせいせき)
は『永久の響』参加者の証です。決して無くさない様に」
そっと手元を見れば先程アントール先生に配られた紺色の宝石がある。
「皆さんには晨星石を持って『永久の響』に参加して頂きます。皆さんがアピールを行う晨星石を介して精霊は皆さんの力を感じる事が出来ます。精霊が皆さんを気に入ればその精霊は姿を現し契約を申し込むでしょう。その契約を皆さんが受ければ、契約は成立となります」
憧れの精霊との契約
その言葉に生徒達の気分が高揚する。
勿論、僕もその内の一人である事は言うまでもない。
自分の傍らに精霊がいる。
今までは遠かった未来が、もう少しで現実になるのだ。
無意識に頬が緩むのは仕方のない事だろう。
けれどそんな僕達の姿をアントール先生は一瞥すると、冷ややかに一言告げた。
「甘い」
その一言に空気が震え、一瞬にして気温が下がる。
「『永久の響』に参加すれば絶対に精霊と契約出来るという事はありません。寧ろ契約出来ない方が確率的には高いのです。それなのに皆さんときたら…精霊と契約が簡単に出来るとお思いなら私(わたくし)は呆れて何も言えません」
アントール先生は眉間に皺を寄せ、ため息をつく。
「精霊は私達の心、それこそ本人さえも知らない程深く、色濃い、人間の本質という物を視て契約を行うのです。本人さえ知らない事を視ると言うのに、皆さんはそんなに簡単に精霊との契約を夢見れるのですね、感心致しますわ」
『…ミセア。それはちょっと強く言い過ぎではないかしら?』
興奮しているのかどうかは分からないが、徐々に口調が強くなっていくアントール先生に、傍らにいる幼女の姿をした精霊がやんわりと口をはさんだ。
「レイン」
『ミセアが可愛い教え子達の事を想って言っているのは分かるけれど、そんなに強く言っていると逆に不安にさせ過ぎてしまうわよ?』
どう見ても可愛い教え子の事を想っている表情では無いアントール先生にレインと呼ばれた精霊がにっこりと微笑んだ。
『ほら、ミセアが怖いから、皆かたまっちゃってるわ』
ねぇ、とレインはクスクス笑いながら僕達に笑いかける。
するとレインの笑い声によって先程まで僕達を支配していた雰囲気が消えていき、少しだけ緊張が和らいだ。
そんな僕達にレインはクスクスと軽やかに笑いだす
『大丈夫、そんな緊張する事は無いわ。皆はただ『永久の響』で思い切ってアピールすればいいのよ。そうすれば皆を気に入った精霊が現れるから』
変に身構えちゃうと逆に良くないわ、とレインが言えば、まぁそうですが、とアントール先生もしぶしぶと頷いた。
『…あらミセア、眉間に皺がよってるわ。良い女が台無しよ?』
レインは自分の眉間を指差し 、にっこりと笑った。
恐らくアントール先生の気持ちをほぐすためだろう。
その考えをアントール先生は分かったらしく、小さくため息をついて僕達に向き直った (ちなみに眉間の皺は消えていた)
「??…『永久の響』は皆さんも知っての通り、月が昇り、太陽が空に現れたら終わりになります。長い時間の様に思われますが、意外と早く終わってしまうのです。私が皆さんに言いたい事は悔いの無い様に行いなさい、という事だけです。」
『……最初からそれを言えばの良いのに…』
苦笑するレインに心の中で皆が同意したの…言うまでも無い
?
『これで一通りの説明は終わったかしら?なら質問タイムにしましょうか、私達に答えられる物は何でも答えるわ』
すると一人の生徒がおずおずと手を挙げる。
その怯えた眼はアントール先生に向けられているが、レインが優しく促すとおずおずと言葉を発した
「精霊は…僕達のどこを視て審査しているんですか?」
『審査…?』
「ハーピィヒルッ、貴方は今まで何を学んできたのですかっ」
レインのおかげで穏やかな雰囲気になっていたアントール先生。
しかし再び眉間に皺をよせ声を荒げると、質問をした生徒がビクリッと肩を震わせる。
確かに…僕にとってもその気持ちも分からなくは無いが…同情は出来ない。
『落ち着いて、ミセア。そんなに怒らないの』
「ですがっ」
『はいはい、落ち着きなさい』
さらに言い募ろうとしたアントール先生にレインはまぁまぁと宥める
質問した生徒は肩を震わせ泣きそうな表情 (かお)になっていて…今にも倒れそうだ。
その生徒をちらりとみたレインは小さくため息をつくと、するりとその小さな手をアントール先生の腕に絡ませる
『ミセアはカッとなり過ぎよ。』
「これでは怒りたくなるのも当たり前ですっ」
『そうだとしてもよ。生徒の質問に声を荒げる教師が何処にいるっていうの?ちょっとは落ち着きなさい』
それに、とレインが続ける。
『私は貴女の怒っている表情 (かお) も好きだけど、それよりも笑っている表情(かお)の方が好きなのよ?だからそんなに怒らないの』
「なっっ……」
その瞬間、アントール先生は今までに見た事も無い程に顔を赤くし、ぱくぱくと魚の様に口を開けた
……アントール先生をこんな表情(かお)にしてしまうなんて…
ーーーーーレイン強し……
やっぱり精霊って凄いのだ、僕達は違う意味で感心した。
『確かに今までの説明だと精霊が審査して皆を決めているって思われてしまうわね。けれどそれは全然違うわ。』
レインは腕を絡ませたまま、こてんっと可愛らしく首を傾げる。
レインはにこっと安心させる様な瞳でハーピィヒルを見ると、優しい声音で問い掛ける。
『貴方は友達を選ぶのに審査をしているの?』
「…いいえ、してません」
『じゃあ、貴方はどういう事を思って友達を作るの?』
「それは…気が合うかどうかとか、一緒にいて楽しいかとか」
『精霊もそれと同じよ?精霊は皆を視て友人になれるかどうかを考えるの。それは悩みであって審査では無いわ。私達精霊は純粋に友人と巡り会いたいと思って『永久の響』に参加するの。だからそんな風に考えないで』
レインの優しい雰囲気につられたのか、その言葉にハーピィヒルは小さく頷いた。
『それとね。貴方の言い方だと契約は精霊の方に決定権がある様に聞こえるんだけど、それは違うわ。』
ねぇ、とレインがアントール先生に声をかけると、いつの間にかに戻ってきていたアントール先生がレインの後に続く。
「えぇ…契約はお互いの同意があって初めて成立する物です。精霊がいくら契約を望んでも、皆さんが拒否すれば契約は成立しません。つまりお互いに決定権があるのです」
口調が戻ったアントール先生を見上げ、レインはそろりと絡めていた腕を放した。
ちらりとアントール先生はレインを視るが、それについては何も言わなかった。
アントール先生に怒りが解けたのが分かり、またおずおずと手を挙げる
「あのぉ、ではレインさんは人間のどんな所を見て契約を考えたのですか?」
『私?う?ん…私は考えたって言うよりも直感を信じた方だから…特に考えた分けでは無かったわ』
しかし質問をしたハーピィヒルは納得して無い様な表情(かお)をしていたので、レインはさらに言葉を紡ぐ。
『けど、そうねぇ…精霊の私から言わせてもらうとするならば、どうやったら精霊に気に入られるのかなんて考えないでアピールして欲しいわ。私達が知りたいのは皆の本質だから、隠されたら感じる事が出来なくなってしまうもの』
確かに契約した組の中には数日で契約破棄になってしまう組もある。
それは性格の不一致や能力の違い等様々な理由があるが、でもやっぱり良い気分はしない。
せっかく結婚したのに数日後に離婚は嫌でしょう?冗談めかしてレインは笑った。
?
「あのぉ、私も質問して良いでしょうか?」
「はい、クランディーネ。なんですか?」
「もし今回の『永久の響』で契約者が見つからなかったら…どうするんですか…?」
「『永久の響』は今日だけではありません。毎月満月の晩に行われますから、次回の『永久の響』に参加する事です」
『今回見つからなくても、チャンスはいくらでもあるわ』
「でも…先程アントール先生は精霊と契約出来ない可能性の方が高いとおっしゃいました」
生徒の言葉にレインはアントール先生をぎろっと睨んだが、すぐに生徒に視線を戻し微笑んだ。
『そんなに気にしちゃ駄目よ。それに精霊は皆と違って沢山いるのだから安心して頂戴。沢山の精霊の中から貴女を見つけてくれる精霊は必ずいるわ』
『私がアンを見つけた様にね』レインはクランディーネにウインクした。
「は?い」
するといきなり隣から声が聞こえた
見れば先程までぐっすりと眠っていた緩い感じの少年が手を挙げている
「…何ですか、レイスト。貴方が眠っていた時に話していた内容なら答えませんよ」
やはり、アントール先生は気が付いていたらしい。
咎める様な目で少年を見つめる。
しかしレイストと呼ばれた少年は気にした風も無く、見た目と同じく緩い言葉で答えた
「じゃあそれとは違う質問しま~す。アントール先生はどうやってアピールして、レインさんと契約したんですかぁ?」
『えっ、そんな事聞いちゃう?恥ずかしいわ?』
「…………」
その瞬間、再びその場が凍った
けれどレインは気にしないのか、あるいわ気が付かないのか、赤く染まる頬に両手をあてながら腰を揺らしている。
『私とミセアの出会いはね?』
「お黙りなさいレイン。レイスト、それはプライバシーの侵害に値します」
『えぇ?別にいいじゃないっ』
「そうですよアントール先生?別に減るもんじゃないしぃ~?」
どうやらレインとレイストは気が合うタイプらしい。
二人してにやにやしながら、ねぇと声を合わせている。
しかし、そんな風に笑っているのはこの二人だけだ。
あとの生徒はただひたすら静かに、自分の存在を消す努力をしている (賢明な判断だと心から思う)
特にレイストの隣に座る僕は必至であるのは言うまでも無い。
しかしその努力が実ったのか、アントール先生はこちらになど見向きもせず二人を無表情で見つめていた。
『あのねぇ、レイスト君っ、ミセアは今ではこんなんだけど昔はもっと……』
「プライバシーの侵害です」
…束の間、ここは北極なのだと思った程だ。
よく視ればアントール先生の一番近くにいるレインの頭に微かに雪が乗っている。
ちなみに隣にいるレイストは変わらずにやにやしている (意外と凄い人なのかも知れない)
だが気温が下がったおかげで二人は (正確にはレインが) 冷静になったらしい。
レインは頭に乗っている雪を払い落とすと、先程の楽しさが嘘かの様にぎくしゃくと首を回らせレイストににっこりと (少し強張ってはいたが) 笑いかける。
『ご、ごめんなさいね?レイスト君。ミセアはちょっと恥ずかしがり屋さんで?』
「別にいいっすよ~俺まだ死にたくないしぃ~?」
おほほほ?と笑うレインにレイストもあははは?と笑いかける。
確かに、その方が賢明だ。
「…他に質問はありませんね。では以上で説明を終わりに致します。『永久の響』は満月が夜空に昇った頃に開始されますので、それまでにはエリシィアの泉に集合して下さい。」
アントール先生はそう言い残すと、去って行った。
勿論、レインを完璧に無視してである。
レインはその姿をみて慌てて追いかけ様としたが、ふと何かを思い出したのか僕達をそっと振り返る。
どうしたのかと思いながらも僕達がレインを見つめると、レインが優しい微笑みを僕達に向けた。
『皆に良い出会いがあります様に…』
レインはそう僕達に言い残すと、教室から出て行くアントール先生を慌てて追いかけ部屋から出ていった。
アントール先生とレインがいなくなると、教室にいた生徒も席を立ち始める。
『永久の響』の準備をするのか足早と教室を出る者、教室の隅で輪になって話し始める者など様々だ。
隣に目を向ければいつの間に出て行ったか、既にレイストはいなくなっていた。
僕も教室を出ようと思い、机に散らばっている物を片付ける。
ふとレインが言っていた言葉が心に掠める。
気にいった精霊が僕達を見つけてくれるとレインは言っていた。
確かに、精霊と契約したい人はそれで良いのだろう。
けれど。
けれど僕が望むのはたった一人。
僕が契約したい精霊は、僕を気に入ってくれる精霊ではなく、あの人だけ
けれど契約は人間から持ちける事は出来ない
僕達は精霊から持ちかけられるのを待つしか方法は無いのだ。
すると…不安が浮かぶ
前世(エウディケ)とは姿も、声も、考え方も、性別すら違う僕(クラウィス)を
そんな僕をあなたは…見つけてくれるのだろうか…
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