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永久の響
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太陽が地に堕ち、満月が夜空に昇ったと同時に、ハーブの音が『永遠の響』の始まりを奏で始めた。
その合図に参加者達は各々好きな場所を見つけに散らばって行く。
森の中に入って行く者、ここでアピールをする為準備を始める者、また一人では無く何人かで集まって森へ行く者達などと様々だ。
最初は開始を奏でていたハーブの音に耳を傾けていた僕も、そろそろ移動しようと人ごみの中を歩き出す。
「つっっ……」
けれどその瞬間、誰かにぶつかってしまい、思いっきり後ろに倒れこんだ。
「あっ、ごめんね~」
「あっ、いえ、こちらこそ済みませ…」
特徴のあるしゃべり方に気が付き手を差し伸べてきた人物を見上げてみれば、そこにいたのは先程の説明会で隣に座っていたレイスト・ハウンドだった。
「あぁ、ごめんね~トワイエルト君」
「いえ…?あれっ?僕の名前…」
彼とは今まで面識は全く無く、ましてや先程の説明会でのレイストは僕が座った時には既に寝ていたので挨拶すらしていない。
なのに彼が僕の事を知っているとは驚きだ。
彼は僕の手を掴み、簡単に引き上げながらへらりと笑った
「うん、知ってるよ~さっきの説明会の時に隣の席に座ってたでしょ~?カワイイな~なんて思いながら見てたんだ~」
見てたって…ずっと寝ていたと思っていたのにいつ見てたんだろう?というか…
「カワイイ…?でも僕…男なんだけど…」
「ノープログレム。男でも女でもカワイイィ~人はカワイイの~」
きゃははと子供の様に笑う彼に、なんて返していいのか分からず黙り込む俺に彼はさらに笑った。
「あ、あのハウンド君」
「レイストでいいよ~俺もクラウィスって呼びたいから~」
いい~?と首を傾けながら聞くレイストに僕は躊躇いも無く頷いた。
「ありがと~」
僕が承諾すると、レイストは再び僕に手を差し伸べてきた。どうやら握手らしい。
僕も差し伸べてきたレイストの手を握り返した。
握手している時、自然と近づいて来たレイストの顔を僕は見つめる。
改めて近くで見ると…レイストはとても綺麗な青年だった。
それはマーシェの様な愛らしさとは違う、凛々しい美しさ
例えるなら、精霊が住む澄んだ森の様な…言葉には説明出来ないけどそんな存在
一見その口調に騙されそうになってしまうが、その雰囲気は本当のレイストを現している様な気がする
「どうしたのぉ?俺の顔に何かついてる?」
「えっ!?あっ、な、何でもないよっ」
どうやら僕はじっとレイストの事を見つめていたらしい。
(恥ずかしい……!!)
慌てる僕に、周りの人達も何事かとこちらに視線を向けてきた。
その視線でさらに恥ずかしくなり、徐々に顔が赤く、熱くなっていく。
顔が真っ赤になっている事自分でも気が付くのだ…レイストが気が付かない筈が無い。
案の定レイストは僕の顔の赤さに気が付いたのか、小さく笑うと僕の頭を軽く撫でる。
「やっぱりカワイイねぇ、クラウィスはぁ~」
今度こそ何も返せる言葉も無く、僕は俯いたままレイストが飽きるまで黙って撫でられ続けた。
「さぁ~て…楽しんだ事だし、俺らもそろそろ行かないとねぇ」
レイストの言葉に顔を上げ周りを見れば、確かに先程までいた大勢の参加者の姿はまばらになっていた。
っていうか、楽しんだって……
「…そうですね」
色々言いたい事はある。
けれどマーシェとは違い、レイストとはさっき会ったばかりの人だ…こんな事は言え…
「だって楽しかったんだもんっ?」
――――何で僕の周りには心を読める人が多いんだ……
「ふふっ、お互い良い縁に結ばれるといいねぇ~じゃぁまたねクラウィス~」
思わずため息を付いた僕にレイストは再び笑うと、僕に手を振りながら背を向けた
去って行くその背中に僕は思わず、呟いた
「僕の周りに普通の人はいないのかな…」
切実な願いだった
?
気を取り直し、僕は改めてアピールする場所を探す為、人の輪の中から抜け出した。
エリシィアの泉も場所的には好きなのだが、何せ他にも人がいる。
どうせなら誰もいない静かな所…妖精の存在を感じられる場所でアピールをしたかったのだ。
その時、レイストが森の入口で僕に手を振っている事に気が付いた。
どうやら彼も僕と同じ様に一人で行動するらしい。
手には何も持っていない様だ…一体どんなアピールするつもりなのだろう?
それに確かそっちの森には性(しょう)の悪い精霊がいるから絶対入ってはいけないと、あの人が言っていたのだけど…教えてあげた方が良いのだろうか…?
しかし僕は何も言わずレイストに手を振り返し、森に入るレイストを見送った。
何の根拠も無いけど、何故かレイストなら…大丈夫な気がしたんだ…
?
『ヒカリ』
小さく呟き、魔法で掌に小さな光の球を創り出し、足元を照らしながら道なき道を歩く。
自分以外の人の気配が無い事と、夜の森特有の静けさもあってか、辺りはとても静かだ
僕はキョロキョロと辺りを見渡しながら、どこか良い場所は無いかと探してみる。
出来れば…月の光が浴びれる場所が良いのだが…
「あっ、ここがいいかも」
さらに歩いて行くと、僕が思い描いていた様な場所を見つける事が出来た。
そこは大きな木が囲う様にしてそびえ立っている、小さく開けた場所だった。
月の光がスポットライトみたいに中央にある小さな樵(きこり)を照らしているので、それがまるで小さな舞台みたいに見える。
「…うん、ここがいいな」
僕は再び周りを見渡すと軽く頷いた。
?
先程、僕は『永遠の響』を集団見合いの様な物だと言った。
お見合いと言えば、まぁ恒例のアピールタイムもある。
『永遠の響』でもそれは同じ。自分の得意な物を使用してアピールを行う。
例えば楽器を弾いても良い、または料理を作って振る舞っても良い、または魔法を使っても良い。
要は人間が何かしらのアクションを起こし、精霊が気付くきっかけを与える事が大事なのだとアントール先生は言っていた。
ちなみに参考までにとマーシェに何のアピールをしたのか聞いてみた所…
「えっ?俺??俺は寝てたよ?」
本人曰く、夕飯に大好物のハンバーグが出たのでそれをたらふく食べ、それから『永遠の響』に参加したら、夜風が凄く気持よくて、つい眠っちゃった、と。
そして気が付いたらドイルドに肩をたたかれて起こされ、隣を見ればチェリーが添い寝していたとか…
寝る(それ)もアピールになるのかと是非ドイルドさんに聞いてみたいものだ。
だがその話を聞いた時、三人らしい出会い方だなと、何故か納得もしてしまった。
僕はその光景を思い出しながら小さく笑った
?
心を静める為に、小さく深呼吸する。
瞼の裏に思い描くのは、たった一人の精霊の姿。
気高く美しい、まるで雪の様な白い羽をもつ精霊(大切な存在)
勿論…最初から簡単に会えるとは思っていない。
けれど前世の記憶を思い出した頃とは違う。
手を伸ばせば、もしかしたらあなたに触れられるかも知れない所に僕はいるんだ。
僕はもう一度深呼吸してから、立ち上がる。
どうか…逢えますように……
「…僕が探しているあなたへ贈ります」
愛しい月の光に触れて、僕はそっと呟いた―――
『不安に押しつぶされ泣いた日々
そんな時 傍にいてくれたのは他でもない君だった
君は何も言わず ただ一緒になって泣いてくれた
しゃがみ込む僕を優しく抱きしめ
『大丈夫だよ』とそっと慰めてくれたよね
でも泣き続ける僕に
『泣いていても進まない』って僕を悟らせて
でも口調とは裏腹に優しい手つきで背中を押してくれた
進む道を明るく照らして
そんな想いに押されてそっと見上げれば
『いつか逢える』と優しい光で包んでくれた
だから僕は今日まで来れたんだ
だから
月を見上げては あなたを想って泣いた日々
今夜で終わりかと思うと 何故かちょっと寂しくて
でもそれを始まりだと思えば嬉しくて やっぱり泣いた
この歌声があなたに届くと願って 僕は歌う
この想いをのせて 永久(とわ)に響(ひびき)わたる様に
瞳を開ければ
あなたが目の前にいるのだと 願いながら…―――』
目の前にあった光景に、僕は驚いた。
妖精がいたのだ。
先程までは気配さえなかった景色が嘘だったかの様に、こんな数の精霊が一体何処にいるのかと疑いたくなる程、沢山と…
動物型の妖精から、名も持たない程の小さな精霊、二枚羽の低位精霊、四枚羽の中位精霊、中には六枚羽の上位精霊までもが僕を見ていた
この光景に、僕は素直に高揚する。
僕の歌にこれだけの精霊が聴きに来てくれたのだ。
嬉しい筈が無い。
―――――…けれど
その時
沢山いた精霊の中から一人、青年の姿をした精霊が僕の目の前に降り立った。
彼の背には美しく光り輝く黄金色の羽が六枚。上位精霊だ。
彼は僕よりも頭二つ分程背が高かった。
その為自然と見上げるに僕に、彼は穏やかな笑みを向け、そっと語りかける。
『私は太陽の精霊、名はアルステェルム。君の歌を…想いを聴いて惹かれた者だ。君さえ良ければ…私の事をアルスと呼んでもらいたいのだが…?』
静かに響くテノールの声、それは僕の心に響き渡り、優しく包み込む様な暖かさがあった
―――――…けれど
「――――――…ごめんなさい。」
僕は溢れそうになる涙を堪えながら、絞り出す様に呟いた。
沢山の精霊の中に――――探しているあなたの姿は無かったのだ
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