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小太りゴブリン
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夜空に静かに輝いていた満月は、いつの間にか地に堕ち、それを待ち望んでいたかの様に太陽が昇り世界を照らし始める。
『永久の響』が終わったのだ。
あの後、僕は何度か同じ様に場所を見つけては、同じ様に歌を歌った。
けれど…探し求めていた精霊は現れなくて…
結局、僕は精霊と契約を交わす事無く、『永久の響』を終えたのだった。
参加者の中にはめでたく精霊と契約する事が出来た者もいたが、僕と同じ様に契約出来ずに『永久の響』を終える者も大勢いて、その中にはレイスト・ハウンドの姿もあった。
どちらも契約が出来なかったと分かった時、僕らは顔を合わせて笑った。
そして次は頑張ろうね~というレイストの言葉に頷いたのだった。
そして解散
今回の『永久の響』は週の終わりに行われたので、日付が変わった今日は学園はお休みだ。
なのでそのまま部屋に戻り、恐らく僕の帰りを今か今かと待っているマーシェに今日の事を報告しようと思った。
「やっぱり逢えなかったよ。でも諦めないで次も頑張るよ」
僕がそう言えばマーシェはきっと、「そうだねっ!次こそ絶対会えるよ!!」って笑いながら僕に紅茶モドキをねだる筈。
そしてドイルドとチェリーも呼んで、四人でお茶を飲むのだ――…と思っていたのに…
「どういう事か説明しろっ、レイスト・ハウンドッ、クラウィス・トワイエルトッ!!」
何故か僕とレイストは二人して呼び出されていた。
僕らの目の前には『永久の響』責任者ツーリスト・アバンセ先生(又の名を小太りゴブリン)が、まるで妊娠六か月目ですか?と言いたくなる様なお腹を揺らしながら、僕らを敵の様な目で睨みつけている。
「あれ~なんで俺ら呼ばれてるんすか~?」
アバンセ先生の表情(かお)に若干怯えていた僕とは正反対に、レイストは怯む事無くいつもと同じ口調で尋ねた。
確かにその問いには同意を示すが…その口調は駄目だと思うんだけど…。
案の定、アバンセ先生はさらに顔を顰めた。
「お前らは何故精霊と契約しなかったっ!!」
「―――…あぁ…そんな事か~」
「そんな事だとっっ!!」
アバンセ先生が近くで思いっきり叫ぶので、近くにいる僕は耳が痛い。
どうやらレイストの口調がアバンセ先生には勘に触る様だ (まぁ、当たり前か…)
僕はこれ以上耳が痛くならない様に、レイストが口を開く前に先生に尋ねた。
「先生…確かに僕達は精霊と契約は出来ませんでしたが、僕達以外にも精霊と契約出来なかった人はいると思うのですが…」
『永久の響』終了後、精霊を連れていた者は参加した人数の半分もいなかった。
精霊と契約出来ない事で呼ばれるのなら、別に僕達だけに限った事では無い筈だ。
それなのに、何故僕達だけしか呼ばれているのか、全く分からない
内心首を傾げる僕に、アバンセ先生はふんっと鼻を鳴らす
「お前達には精霊が現れた筈だ。なのに何故契約しなかったのだ」
「…はぁぁ?」
なに言っちゃってんのこいつ!?という表情
(かお)で、レイストが思わずっといった風に声を上げた。
レイストの言葉に、僕は口には出さなかったが同意見だった。
けれど耳が痛くなるのは嫌なので、僕はレイストが言葉を口にする前にそれを遮る様に口を開く。
「…何故その事を注意されないといけないのでしょうか?だって精霊との契約はお互いの合意の上で行われる物だと…」
「精霊と契約出来なかった者達は精霊が姿を見せず、契約をする事が出来なかったという理由が大半だ。精霊が姿を見せないのであるなら契約出来ないのも仕方がない。むしろことらとしては同情する。だが…」
「だが……?」
「お前達は他の者達とは違って沢山の精霊が姿を見せた筈だ。その精霊達の中には上位精霊もいたというのに、なのにお前たちは全ての精霊に契約を断ったと言う」
「それは、そうですが…」
「他の者達精霊と契約したくても出来ないのだというのに、お前達は何を考えている?『永久の響』をなめているのか?」
「なっ………!?」
僕は慌てて言葉を飲み込んだ。
沢山精霊が現れたんだから、契約しろって…何を言っているんだろ、この人は…
『永久の響』をなめているのか。
確かにアバンセ先生の言う通り、傍から見れば僕達はそう思われても仕方が無い。
自分がどれ程恵まれているのか。
アバンセ先生に言われるまでも無く、僕自身一番良く分かっている。
確かに契約を申し込んだ精霊達や他の参加者の人達には申し訳無いとは思う。
けれど、だからと言って、誰でもいいから契約しろって言うのはおかしいと思う。
契約を断る事に負い目を感じてはいけないと、説明会でアントール先生とレインは言っていた。
精霊との契約に一番大切な事は、この精霊と友人になれるかどうか、一生を過ごせるかどうかだけであって、契約を申し込んでくれたから、この精霊は強いから、そんな理由で契約をしてはいけないと、逆に失礼よ、とレインは言っていた。
けれどその言葉とアバンセ先生の言葉は矛盾している。
「長ったらしいなぁ~。……ホント迷惑」
ぼそっ、隣で小さな声が聞こえた
(その瞬間、僕の顔が青ざめた事は言うまでも無い)
「…何か言ったか、レイスト・ハウンド」
「要はこう言いたいんですよねぇ?人間の分際で精霊様を選ぶなんて何様のつもりだぁって…」
額に青筋を立て肩を震わすアバンセ先生に、レイストは首に手を当て、わざとらしく大きなため息を付いた。
「聞きたい事は沢山あるけど~…というかそれ以前に何でアバンセ先生は知ってるんですかねぇ?俺達の『永久の響』の様子?」
その瞬間、アバンセ先生の肩が震えた。
「そ、それは…」
「あぁ、『永久の響』責任者だから、監視なんて当然とかいうつもりですかぁ~」
「あ、当たり前だろう、『永久の響』を管理する立場なのだから、視ていてっ…」
「あれ~おかしいなぁ~説明会でアントール先生が言ってたんですけどねぇ~『永久の響』で行われた事は全て守秘されるってぇ…教師は勿論、例え魔導師様でも国王様でも『永久の響』中の参加者達の様子を視る事は禁じられているって……なのに何でアバンセ先生は知ってるんですかねぇ?精霊が沢山現れ、中には上位精霊もいて、そして契約は俺達が断ったなんて、まぁ細かい所まで…ねぇ?」
レイストの口調が変った、いや…雰囲気が変わった。
まるで鞘から抜いた刃の様に。ぞくりと容赦無い刃が首に当てられているかの様な…底冷えする様な雰囲気。
アントール先生の魔法とは違う冷たさ…
その雰囲気にあてられているのは僕では無いのに、恐いと…思った…
「…まぁ、俺は良いですけどね、別に視られていたって?アバンセ先生なんて力も無いくせに、わざわざ慣れない精霊使って俺達を監視して?自分とは違って沢山の精霊から契約を申し込まれたというのに、そんなありがたい申し込みを俺達が断ったからって逆上しちゃって?挙句の果てには守秘の事も忘れて俺達に忠告?ご苦労様って感じですよ?」
レイストはにこっと笑って言葉を続ける。
「視てたから分かると思いますけど、俺は精霊に興味が無いんです。他の人とは違って別にどうしても精霊と契約したいなんてこれぽっちも思ってないんです。それが理由なんです。分かって頂けましたか、アバンセ先生?」
その問いに対してアバンセ先生は言葉も無く、何度も頷く。
「それとありがたい忠告にケチつける訳では無いですが、もうやめてもらえます?アバンセ先生の顔さえ見たくも無いというのに、こんな事付き合っていられないですよ?俺はね」
レイストの雰囲気に中てられていたアバンセ先生は、言葉も無く、まるで壊れた機械の様に何度も頷いた。
そんなアバンセ先生にレイストは「アバンセ先生なら分かって下さると思いました」とにっこりと微笑む。
その微笑みは純粋に美しく(今の状況では無かったらの話だが…)、恐らく周りに人がいたら十人中十人が振り返るものだった
だけど、だからこそ恐いのだが…
「クラウィスは~?」
「えっ?」
まさかこちらに振るなんて思ってもいなかった為、いきなりレイストに話しかけられ変な声を上げてしまった。
先程の雰囲気が無くなり、いつもの調子に戻ったレイストがクスッと笑うと、固まっている俺にいつもの口調で話しかけた。
「俺は何で精霊と契約出来なかったか説明したけど~クラウィスはアバンセ先生に事情を説明しなくていいのぉ~?きっとさぁ、アバンセ先生もクラウィスが何で精霊と契約出来なかったのか~知りたいんじゃないかなぁ」
そうですよねぇ?とレイストが尋ねれば、またしてもアバンセ先生は何度も頷く
その様子に若干違和感を感じるが…気にしたらいけない気がするので、取りあえず僕はその考えを隅に…いや捨てておく事にした。
「あの…アバンセ先生。僕は精霊なら誰でも契約したいと思ってる訳では無いんです。勿論これが贅沢だって言うのは良く分かっています。けれど…僕は精霊が契約を申し込んでくれたからっていう理由で契約したくないんです。ですので…」
「そ、そうか……」
済みませんと謝る僕に、アバンセ先生はやや戸惑いながら頷いた。
「それだけでいいの~?」
レイストはアバンセ先生に聞こえない様に、小さな声で俺に聞いてきた。
恐らく文句を言わなくてもいいのかっていう意味なのだろうが、思っていた事は全てレイストが言ってくれたのでこれ以上僕からいう事も無い。
それに…これ以上言ったらアバンセ先生が可哀相だ。
(まぁ、自業自得なので同情するに値しないが…)
僕が頷くのを見てレイストはふ~んと呟き、少し考える様に顎に手をあてた。
言葉も無く流れる時間に、どうすれば良いのか分からない僕は思わずレイストに目を向ける。
すると僕の目線の意味に気が付いてくれたレイストが、任せろっ、とでも言うかのように僕にウインクをする。
そして、だらだらと冷や汗を流すアバンセ先生ににっこりと笑いかけた。
「アバンセ先生~もう帰っていいですか~?俺らすっげぇ眠いんですよぉ」
「あ、あぁ、もう帰って良いぞっ…」
どうやらアバンセ先生は、もう俺らに (正確にはレイストに) 関わりたくないらしい。
僕達を追い払えて嬉しいか、若干表情を明るくした。
…自分が呼び出したというのに…なんて自分勝手な先生だ。
「じゃぁアバンセ先生、失礼しました~」
「失礼しました」
しかし僕達は何も言わずそろって頭を下げると、部屋から出て行った。
?
誰もいない廊下を、二人並んで歩く
向かう先は勿論、学生寮だ。
「アバンセ先生みたいな人の相手は疲れるね~」
「………」
返答に困った僕は、黙り込む。
アバンセ先生に対してよりも、怒(いか)れるレイストに対して精神的に疲れたのだが、あえて言わない事に…。
「でもさぁ、俺が怒るのも無理ないと思うでしょぉ?馬鹿な事言うあっちが悪いんだよ~、クラウィスには悪いと思うけど、ああいう場面はガツンと言って置かないと後々面倒だからねぇ…」
「…何で僕の考えが分かるの…」
しみじみと呟くレイストに、僕は思わず声を上げる。
『永久の響』でもそうだったのだ、もしかしたらレイストもマーシェの様な能力があるのかも知れな……
「思考を読み取っている訳じゃ無いよぉ、クラウィスは表情(かお)に出るからそれを読み取ってるだけぇ~」
「……そんなに表情(かお)にでてる?」
「手に取る様にね~」
遠慮のない言葉に、僕は思わずため息を付いた。
そんな僕の様子を楽しそうに見ているレイストは、僕の頭を撫ではじめる。
「ホントカワイイね~クラウィスは~」
ケラケラと笑いながら頭を撫でるレイストに、僕はやはり何も言えず、されるがままに撫でられていた……。
あぁ 、本当に疲れた……
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