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「こらこら、月弥くん。そういうことは裏でやってきなさい」
マスターの後ろから?佐々木さんの声がした。
…あきらかに呆れている声だ。
「?佐々木さん、邪魔しないでくださいよ」
マスターがおれからすっと離れた。
「理汰くんが恥ずかしがっているだろう?」
え、あの。恥ずかしがってるとかそういう問題じゃなくてですね。
「…じゃあカウンターの奥に行きますかね」
マスターがやれやれ、という感じで言った。
「い、行きませんよ!」
「なんで?怒ってるんでしょ。俺が怒らせちゃったんだから、怒られなきゃ」
「マスター!いい加減にしてください!」
俺が真っ赤になって大きな声をだすと、
「あはは、ごめんごめん。そんなに怒らないで。ちゃんと仕事しますから」
と言いながらカウンターに戻って行った。
「理汰くん、かなり愛されてますなぁ」
「?佐々木さんも、いい加減にしてください!」
「わはは、ごめんよ」
……マスターと?佐々木さんて似てる。
ーーーーー……
「理汰くん、お疲れ様ーもうお店閉めるからもう一回テーブル全部拭いてもらっていい?」
午後7時30分。
閉店の時間になった。
「分かりました」
マスターは店の外に出て、立て看板やらを片付けに行った。
今日はなんか疲れたな…
テーブルを拭いていると、パンツのポケットからチャリ、と音がした。
なんだろうと思って出してみると、カギだった。
「あ、置いてくるの忘れちゃった…」
幸くんの、合鍵。
今思えば幸くんの家には行ったことなかったな。会うときはほとんどおれの家だったし…
一方通行だったことがはっきり分かってくる。ここまで分かると逆にすっきりするわ。
結局、好きだったのはおれだけだったわけだし。
「それ、何の鍵?」
「うわっ!…マスター、後ろから近づくのやめてくださ…ってちょっと!」
後ろから声がすると思ったら、マスターが俺を挟んでテーブルに手をついてのしかかるようにしてきた。
「何の鍵?」
おれがどう言おうとやめそうにない。
「おれの家の鍵です。昼間に話した、幸くんが持ってた合鍵です」
「理汰くんは幸の家の合鍵持ってたの?」
「持ってませんでした」
「ふーん…」
テーブルについていたマスターの手が離れて、おれのお腹の前で組まれた。
…抱きしめられてるんだ。
「まだ、幸のこと…すき?」
マスターの声が掠れている気がした。
「……わかんないです。今日会ったときは…ちょっともやもやしましたけど…」
正直に話した。
今、幸くんのことが好きかと聞かれたらよく分からない、が1番しっくりくる。
もう前のようにひたすら幸くんが好きなわけではないけど、別れようと言った日のことを思い出すと少し胸が痛む。
幸くんがマスターに殴られるほど無神経な考えをもっていた、ということをひっくるめても完全に未練もなにも全くないとは言い切れなかった。
……心のどこかで、マスターに傾いている自分がいるってことにきづいていないわけではないけど、まだそれには気付かない振りをした。
なんか…幸くんと別れたばかりなのに、マスターの事が好きとか、そういう感情を持ってしまうのはあまり良くないんじゃないか、とか考えてしまう。
「すぐに、答えて欲しいなんて思ってないよ」
マスターはおれが考えてることがまるまる全部、分かっているような言葉だ。
「マスター…」
「俺は…理汰くんが幸せならそれでいいんだよ。今だってそう思ってる。…でも」
抱きしめられてる腕に少し力が入って、さっきよりおれの背中とマスターが密着した。
「やっぱり、俺が理汰くんを幸せにしたいって思っちゃうんだ」
甘い声が、言葉が…おれを、おれの心を…なんというか、ぎゅっとする。
どうしよう。なんか…泣きそう。
「…理汰くん、」
おれの名前を呼んだその声は少し震えてた。
「マスター、声、震えてます…」
おれの声も震えてた。
「はは…情けないけど、こんなに真剣に誰かに告白したの、初めてなんだ。しかも…口説くとか言っておいて口説き方も知らない」
背中から伝わるマスターの鼓動は早かった。
「君に夢中なんだ」
いつも、優しくて大人で、どこかふざけているようなカッコイイマスターにぐらぐら揺れていたおれの心は、
必死で、余裕もないマスターに動揺しながらも今までにないくらい大きく揺れた。
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