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青春、涙を流した
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「なんだったんだあいつ」
急に切られた携帯を不思議に見つめつつ、ヒナトはゴミ箱にもたれかかってうめき声をもらした。
一方的に殴られ体がろくに動かない。顔も何度かやられて口の端どころか奥まで傷ついた。血反吐を吐きそうになるがすんでのところで我慢する。
「…あーなにやってんだおれ」
よっこいしょと頭の位置をベストなところに移動させ、ぽつりと呟いた。
なぜあのとき本能のまま殴り飛ばさなかったのか。なんで顔に一発もらった時に怒り狂わなかったのか。自分のことなのによくわからない。今までの自分なら迷わずその行動をとっただろうに。ならば今までの自分ではないということになる。
「俺、変われたのかな」
返事は期待しない呟きを吐くと、途端に胃液が込み上げてきた。そういえば腹にもくらっていたんだった。空しくむせかえりながら、自身の変化について思考する。
やっぱりあの馬鹿で騒がしい幼馴染のせいだろうか。こんなにも常識人ぶるヒナトにさせたのは。本当に変えられてしまったいうのか。
「弱くなっちまって…なさけねぇ」
それもわるかねぇと付け加える自分がいたことに彼は気付けなかった。
ふと人気のない路地裏に侵入者の気配を感じ取る。さっきの奴らの仲間なら絶体絶命だなこりゃ、と人ごとを思いつつちらりと視線をやるとむせかえりそうになった。
「おまっ試合はどうした!?」
「抜け出してきたよ」
「なんでだ!馬鹿か!お前本気で試合出たかったんだろ!?なのになんでだ!俺なんかのためにせっかくのチャンス棒に振るんじゃねえ!」
「そのなんかってのやめろつっただろ!」
リョウののどから飛び出してきた大声に、ヒナトは目を丸くして口を噤んだ。
「ああもう!何度言ったら分かるんだお前は!俺はヒナトとサッカーがしたかったんだ!一人じゃ何も楽しくないんだ!それぐらいわかれよ!俺は「俺なんか」って弱音吐くヒナトは嫌いだ!試合に出れたって一人じゃ何も面白くない!」
たたきつけるように思いのたけをぶちまけるリョウは、いつものへらへらした微笑みではなく、真剣な表情。その相貌に不思議と引き寄せられる。
「…幼馴染のこと、分かってるのお前だけだと思うなよ?」
言いたいことを言ってすっきりしたのか、あっという間に微笑を携えるリョウが、手を差し伸べてきた。
「さあ一緒にサッカーしにいこう」
「…なんだよてめぇ。本当に何なんだよ畜生…」
痛くなる鼻を摘み、ヒナトは震える手でリョウに向かって手を差し伸べ返した。リョウはその腕を掴んで力づくで立ち上がらせる。
「ヒナトのことが好きだからな」
そんな告白まがいの友情真意のことしか言わないこの馬鹿の手を、ヒナトはしっかりと掴んだ。
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