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泥だらけ未完成な僕らの青春
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「いやあ今日のシュートは流石だったなヒナト!」
「たりめぇだろ。誰に口聞いてやがる」
夕暮れの放課後、肩を並べて二人は帰っていた。ビルの谷間に沈んでいく夕陽が眩しすぎてよく見えないので、ヒナトは無意識のうちに腕を翳す。
「しかしあれだな。もうサッカーも終わりかよ…」
「なんだ不満なのか?」
「不満つーか…あっという間だったよなって思ってよ」
来月に控える大会を終えれば、3年生にまで育ったリョウ達は引退してしまう。来月の大会で終わり、と理解しているのだかどうも実感がわかない。
首をひねるヒナトを、リョウは大口をあけて笑い飛ばした。
「はははは!面白いこというなヒナト!」
「ああ!?どこがおもしれえんだよ!俺はお前といれなくなるのがさみし…!」
「ん?何て言った?」
「っなんでもねぇよ!くそったれ!」
「ははは。すまんすまん本当に聞こえなかったんだ。それでなんで残念がってるんだ」
「むしろてめぇはなんでんなあっけらかんとしてるんだよ…サッカー出来なくなるんだぞ」
俺と、という本心は心の中だけで呟いておく。するとリョウはきょとんとした顔でヒナトを見据えた。至近距離で見つめられまっかになりながら「なっなんだよ」と翳した手で顔を覆い隠した。
「いや、だからなんでできなくなるんだ?」
「はぁ?だから引退するからもう…」
「一緒の高校行くだろ?」
「は?」
すっとんきょな返事に、リョウはこめかみをぐりぐり押しながら答える。
「いやだから俺と一緒の高校行くんだろヒナトは」
「はあああ!?お前と目指してる高校レベル高いところじゃねぇか無理に決まってんだろ!」
「いや偏差値は少し高いだけだぞ」
「とにかくむりむり!俺の成績見てから物いえってんだ!」
「俺が勉強を教えるから大丈夫!心配ないさ!」
「心配しかないわぼけぇ!」
なんだこいつ!変なところで強引な友人にヒナトはめまいを覚えた。
リョウはひとしきり笑い飛ばした後、ふと真面目な目つきになりヒナトの肩に触れた。突然のボディタッチにびくりっとヒナトは大げさに反応する。
「俺とまた三年間、一緒にいてくれないか?」
「…あー!もうわかったよがんばりゃいいんだろ頑張れば!」
「本当か!すごくうれしいぞ!」
あはは、と太陽のように笑顔になったリョウに聞こえない音量で、呟きをおとした。
「この無自覚タラシ野郎が…」
「ん?なにかいった?」
「何も言ってねぇわこのクソボケ天然野郎!」
「うわひどい!ここは逃げるが勝ちってな!」
「あってめぇ卑怯だぞ男なら背中向けて逃げるなゴラァ!」
彼らの青春は未完成で泥だらけだ。
だが未完成のままでありたい。と願うのは一人かもしくは双方か。
日暮れを告げる蝉の声音が、夕陽に作られた彼らの影を見送った。
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