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もういちど
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「……ッ、ひろむ!?」
高校の入学式の日、知らない男にいきなり腕を掴まれた。
砂埃が目に入りそうで思わず目を瞑ってしまいそうなほどその日は風がすっごくて、ちゃんと顔が見えなかったから、俺の腕を掴んでいるこの手が不快でしかなかった。
「はあー?誰、あんた、なんで俺の名前知ってんの」
そう言って腕を振り払うと、そいつは苦しそうな声で「覚えて、ないんだな」と言った。
なんだかその声に胸がぎゅうぅっと締め付けられて、苦しくなる。なんだ?これ。
ろくに見てなかったそいつの顔を見るためにバッっと顔を上げると、赤茶色の短い髪が風にふわりと揺れた。かっこいい顔、背高ーい。やっぱり俺、こんな人知らないなあ、そう思った時だった。この男の左耳にオレンジ色に光るピアスが見えたのは。
どうして、それをお前が…?
この男の耳を彩るそれは、俺が手に握って生まれたものと酷似していた。ピアスを握りしめて生まれるなんて聞いたことないけど、それが事実なんだから仕方ない。母さんはそのピアスを「きっと神様からの贈り物よ」なーんてのんきなこと言ってたけどそんなわけないじゃん、あんたが膣の中にでも…おっと、なんでもなーい。生まれた時から握り締めてたオレンジ色のピアス、今は俺の右耳に光ってる。
……ふうん、なんだかちょっと状況が読めてきた。
「覚えてるよ、会いたかった…!」
どうもこんにちは、嘘つきです。
自己紹介が遅れました。俺の名前は弘、みんなヒロってよぶからヒロでいいよ。
特技は人を騙すこと、趣味は人間観察かな!なーんてね。
うそうそ、全部嘘だよ。今まで話した内容は全部嘘!ピアスを持って生まれた人間なんているわけないじゃん?ああ、母さん?母さんなんていないよ、俺が生まれた瞬間に死んじゃった。だからもちろんコイツのこと覚えてるなんて嘘もいいとこだ、大嘘だよ。
「…はぁ~。嘘つきは健在だな、ひろむくん」
困ったように眉を下げるスーツの男。入学式にスーツ着て、胸元に花をつけている。ってことはこいつまさか、
「あんた、先生なの?」
「あんた、じゃなくて祐介。お前、タチ悪いよ。全部覚えてんだろ」
じっと俺の目を見つめながら、祐介と名乗った男は俺の右耳に触れた。くすぐったいなあ、もう。
「………あはっ、いつの時代もやっぱりキミだけは騙せないか~。ざーんねん。」
どうも、本当はここまでが嘘。ハラハラさせたかな?ふふっ、ここまで騙してごめんね、だけどさ、こんな簡単な嘘に騙されちゃまだまだだよ?だって俺が祐介くんを忘れるはずがないでしょ!あ、もちろん母さんなんてピンピンしてるよ、最近メタボになっちゃって必死こいてダイエットしてるし。青木弘はつまんないし散々な人生だったけど、緒方弘はすっごく毎日が楽しいんだよね。…ま、なかなか祐介くんに出逢えなくて寂しかったんだけど。
「ったく、ハラハラさせんな馬鹿!転生して初対面なのに、よく顔色一つ変えないでそんな嘘つけたな」
「いきなり手掴まれたからビックリしちゃって。仕返し、だよー」
「クソムカつくわーーー!!!こっちはお前より随分早く生まれたもんだから、もうマジで会えないかと思ってたとこなんだぞ?ナイーブだったんだぞ?」
「ごめんごめん、そんなに怒らないでよ。ああもう、こんなにカッコよくなっちゃってさー、いまいくつなの?」
「26。お前は…次の誕生日で16か?若っっ!俺お前に手出したら犯罪じゃねーか」
「…………いっぱい待たせたんだね、ごめん、祐介くん」
「ほんとだよ、…でもやっぱり会えたな」
「会いたかった。」
祐介くんに抱きついて、思いっきりキスをした。今まで会えなかった時間を埋めるように激しく、息ができないぐらいに。大丈夫、俺たちはハッピーエンドだから。
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