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売られた喧嘩はなんとやら
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俺は小さい頃からチビだったし、生まれもった女みたいな顔のせいで幼い時から女子扱いされ、周りの俺を見る好奇な目がうざくて喧嘩を始めた。
別に最初は、俺を馬鹿にした奴等に仕返し出来ればいいくらいの気持ちだった。
だけど、いざ喧嘩をしてみると俺はすんなりとそいつ等に勝ってしまった。
それから、そいつ等は俺の後ろをつきまとうようになって、中学に上がり、二年の時にはその学校の不良のトップになっていた。
鷹ケ丘中学校。通称 鷹中。
無名の不良校だったが、俺が仕切った時代は県内でトップクラスの不良校として噂は広まった。
家にも帰らず、毎日学校をサボって、連んでる奴等と喧嘩が出来る相手を探しては殴り合う。
そんな荒れた日々が続いていた時、母さんが倒れた。
過度の疲労だと医師は言った。
母子家庭で育った俺は、その時ようやくこのままではいけないと気付いた。
それからはケンカもやめて、毎日学校にも行ったし授業も受けた。
そして、無事中学を卒業して決死の努力で高校に入学。
頭は悪くない方だったから勉強すればそれなりに成績は上がっていった。
自分の名前が成績上位者に上げられると、喧嘩とはまた違った達成感と満足感が込み上げる。先生や他の生徒達からの信頼も得た。
その頃にはすっかり不良の心は捨て、狙うは特待生。
毎日必死に真面目を突き通し、いい会社に就職するために俺は必死だった。
そんな時だ。
ここまで順調だった俺の高校生活を、ある男がもみくちゃに掻き乱していく……。
『上城 成海』
一つ上の先輩だったが、こいつのせいで全てが狂い始める。
出会いは、中間テストが終わって学校から帰る途中だった……。
『あ、もしもし新?久しぶり』
中学で連んでいたダチの秋人からの電話だ。
俺は校門の前で足を止めて、しばらく秋人と電話をしていた。
『お前、本当に高校では真面目にやってるんだな』
「まぁな。散々遊んでた分、これから取り戻さねえといけねえし」
『そうだな。お前と喧嘩が出来なくなったのは寂しいけどよ、俺はあの頃のお前に憧れてたよ。またお前と連んで喧嘩してぇって今でも思う』
「ああ…いい加減な事ばっかしてたけど、俺もあの時はすげぇ楽しかった」
『だろー?お前が強いのは分かってたけど、まじでお前 中二でトップの座に尽くし、まぁ俺もツートップだったけどよ……お前に一度でもいいから勝ちたかったわ』
電話越しに秋人と懐かしい中学時代の話をしていた。
あまりに懐かしかったもんだから、俺達はついつい話に華を咲かせてしまう。
「トップとか別に特別じゃねえよ。それに鷹中は俺だけで強くしたんじゃねえし、お前も居てくれたからあそこまで力付けれたんだ。あとは次の代が引継いでくれるだろ」
俺が言った事に少し照れる秋人の声が嬉しそうだった。「懐かしいなー」と何度も呟く秋人に続き、「俺も懐かしい」と繰り返す。
『ま、お前がいい会社に就いたら何か奢れよな!』
「おう、任せとけ。」
そう言って電話を切る。
久しぶりに聞いた秋人の声は中学の時より少し大人びていた。
秋人とは高校が離れてしまったけれど、こうして連絡をくれて、たまに会話をすると連んでいた頃を思い出して嬉しくなる。
なんて事を考えていると、秋人からの添付メールが届いた。
写真を開くと、黒い特攻服を身に纏い、煙草を吸うダチに囲まれる俺の写真だった。
件名には『懐かしい時代』と書かれていた。
「……ほんと、懐かしいな」
ふっと笑って写真を眺めていた時だった。
「うわぁ〜、荒れてるね」
携帯を大きな影が覆う。
「なっ……てめ…なに人の携帯見てんだよ」
俺の携帯を覗き込んできた男に向かい、ギロリとガンを飛ばすと、そいつは無理矢理 俺の携帯を奪った。
「君さ、一年の渋谷 新君でしょ?成績上位者の。まさか中学時代が不良だったとわねー。しかもトップなんだって?煙草まで吸ってたんだぁ〜」
「っ‼︎ 聞いてたのかよ!つか携帯返せ!!」
奪い取ろうとした時【ピロリロリ〜ン♪】と軽やかなメロディが流れる。
「あ、ごめーん。赤外線しちゃった」
そう言いながら見せてきたのは、男の携帯に転送された俺の黒歴史写真。
「何すんだよ!消せ‼︎」
「この写真さ、学校にバラしたらどうなるかなあ?」
こいつ、さっきから一体なんなんだ⁉︎
いきなり絡んできやがって…つか初対面であり得ねえだろ‼︎
「やめろ!まじでいい加減にしろよ!今すぐ写真を消せ!」
「そんな口聞いていいの?今の君の立場分かってる?」
ひらひらと目の前で携帯を振りながらニタニタと笑うこいつの顔を、今すぐにでもぶん殴ってやりたい。
「はあ?舐めんなよ。弱味でも握った気になったのかよ。なんなら、力づくでもいいんだぜ?」
立場?そんなの知るかよ。
てめえが誰にも言えないようにこの俺が締めてやる。
ここまで来て、この訳も分からねえ奴に俺の邪魔されてたまるかよ。
「……いいよ。俺に勝てたらこの写真消すよ。あと、不良だった事もバラさないでいてあげる」
余裕な表情を見せるこの男が、先に歩き出した。その背中に苛立ちながらついて行く。
そして俺とこの男は近くの路地裏に入った。
久しぶりの感覚が思い出される。
「タイマンだ。倒れた方が負け。いいな?俺が勝ったらてめえのその携帯へし折るからな」
「口調がまさに不良だね。いいよ。そのかわり」
ビル影に隠れ、薄暗いこの場所で目の前にはついさっき会ったばかりのくそ野郎。
「俺が勝ったら、俺の言う事 何でも聞いてね?」
喧嘩上等。俺に絡んできた事を後悔させてやる。
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