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別れて下さい
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もう殴られてもいい。
今のままの関係が続くくらいなら
このまま君のムカつく程真っ直ぐな思いを
歪んだ僕の心に向けられ続けるくらいなら
君にちゃんと本当の事を知ってもらって
『人の気持ちを弄びやがって』って
キレて怒ってくれたらいい
こんな僕を、殴ればいい
それで君との関係は終わりだ
「・・・・・・っ」
好きじゃないと呟くと、
秋人君は『え?』っと言った後
すぐにまた強く抱き締めてきた
「なんで?」
「へ?」
一瞬取り乱すのかと思ったけど
聞こえて来たのはいつもより落ち着いた声だった
「なんで好きじゃねえの?」
「・・・・」
「俺・・・何かした?」
「・・・・」
言葉を呟く度に、腕に力を入れてくる
僕の肩に顔を伏せる秋人君に何も言えなかった
なんで好きじゃないのか
それは、きっと先輩の事が好きだからで・・・
それ以外に理由はない。
だけど、何かした?と聞かれた時
思い返してみると別に大して酷いことはされてない
確かにキスとかは、勝手にされたけど
自分でもびっくりすることに
死にたくなる程嫌だと思った訳でもなかった
「・・・俺が不良だから?」
「えっ・・・」
秋人君が不意にそう言った言葉に
僕は体をビクっとさせた
そして、また秋人君の息が耳にかかる
「忍。ちゃんと話してくんねぇと
俺分かんねえからさ・・・」
「・・・・」
そうだよ・・・ちゃんと話すんだ
もう後には引けない・・・
「本当は・・・最初、から・・・
す、・・・好きじゃ・・・なかった・・・」
「・・・・」
「な、な何度も、い、言おうとしたけど・・・
ぼ、ぼぼ僕っ・・・そのっ・・・」
「・・・・・」
喋る度に口元がガチガチと震えて上手く話せない
でも言ってしまったものは仕方ない
これまで抑えていた本当の気持ちが
震えながらも声に出た
「あ、ああ秋人君にっ・・・ほんとの事っ
言うのが・・・そ、その・・・こ、ここここ」
殴られると思って怖かったと言おうとしたら
秋人君は僕の後頭部に手を添えて来た
それにまた体がビクっとした
だけど秋人君は優しく頭を撫でてきた
「俺が、ずっと怖かったのか?」
「っあ・・・い、ぁそ、そのっ」
言おうとした事を気付かれて
その落ち着いた秋人君が更に怖くて
僕の体がガタガタと震え出した
「す、すみませんっ・・・ごめんな、さいっ・・・」
「・・・・・」
「ご、ごめんなさい・・・っ」
「・・・・・・」
黙ったままの秋人君の腕の中で
僕は何度も謝った
すると秋人君は少しため息を零して
ゆっくりと僕から体を離した
「ずっと無理させてたんだな。」
「・・・っ」
秋人君の顔が見れなかった
体を離されると、これから本格的に殴られると思って
両手を握り締めて僕は歯を食いしばった
「ごめんな。」
「ふぇ?」
「気付いてやれなくて」
シュンとした声でそう言うと
秋人君は僕の頭をまた撫でてきた
顔を上に上げると
秋人君は少しだけ微笑んだ
「な・・・殴らないの?」
「は?殴らねぇよ。」
な、殴らない?・・・
「ど、・・・どうして?」
僕は今、本当の事を言って
散々僕を好きだと言ってくれた君の気持ちを
踏み躙ったんだぞ・・・
最初から僕は君の事を裏切ってたんだぞ?
ムカつかないのか?・・・
「殴ってほしいのか?」
「ひっ!そ、それはっ」
そう言われ、殴られたくなんかないと
肩を縮こませると、また秋人君は微笑んだ
「だろ?・・・俺も忍の事殴りたくなんかねぇよ」
「・・・ぁ・・・は、はい・・・」
思いのほか落ち着いている秋人君が怖い・・・
怖いけど、殴らないと言ってくれたから
少し安心した・・・
「忍」
ホッとしていると
秋人君は少し笑った声で僕の名前を呼んだ
「ちゃんと振って。」
「えっ」
振って?・・・
「俺から振るなんて考えられねぇから。
忍から振ってくんねぇと、ちゃんと別れてやれねぇ」
「・・・そ・・・そんな」
「だから。振って?」
「・・・・」
振る側になるとは思ってなかった
好きじゃないと言えば
キレて僕をボコボコにしてくると思ってた
それで君と僕の関係はお終いになると思ってたのに
そんな正式に・・・振るだなんて
「忍の気持ち聞けてよかったよ」
「・・・っ」
「俺は大丈夫だからさ」
そう言って、また頭をポンポンとしてくる
その手は相変わらず暖かくて
秋人君と一緒に居て、唯一慣れた事は
この頭を撫でられる事・・・
「あ、秋・・・人君」
「ん」
僕は今日、先輩に振られた
「ぼ・・・僕と・・・」
そして今日、僕は秋人君を振る
「・・・・・・っ」
「・・・大丈夫だって」
振られる側の痛みがどんなものなのか
僕はよく分かってる
「わ、わか・・・」
「・・・・」
けどいざ振るとなると、
胸がさっきの数倍ズキズキとして痛かった
「別れて・・・下さい・・・」
「・・・・・・・ん。」
ようやく絞り出した言葉に
秋人君はコクっと頷いた
その秋人君の顔を見るとぎゅっと胸が締まった
胸に手を当てて必死に抑え込もうとしても
たまらなくズキズキする・・・
だけど・・・これでもう本当に終わったんだ・・・
「ちゃんと言ってくれてありがとな」
そんな僕に、秋人君は明るい声でそう言った
傷付けたのに、秋人君は笑ってる
「はぁーっ」
「??」
そして、何やら背伸びをして
秋人君は大きく息を吐いた
「忍!」
「へ?」
僕の名前を嬉しそうに呼んで
秋人君は右手を僕の前に出して来た
その手がなんなのか分からず
頭にハテナを浮かばせると
秋人君はまたニコっと笑った
「ダチからやり直そうぜ!」
「ふぇ?」
や、やり直そう?・・・
「俺、忍がやっぱ好きだわ。
だから今度こそぜってぇ振り向かせるからさ。
もう一回チャンスくれよ。」
「え・・・」
何を言ってるんだ・・・
チャンスだと?
「ど、どうしてそこまで・・・」
もう一回頑張る程、僕の何がいいって言うんだ
「好きってさ。すぐに消えねえもんだろ?」
「へ?」
「好きじゃねえって言われたら。逆にもっと好きになった。」
はっ???何を言ってるんだ君は!!
「・・・それにさ」
「っ!?」
変な事を言い出した秋人君に
理解出来ないと目で訴えると
いきなり、秋人君は僕の手を握ってきた
これは・・・握手か?
この握手はどう言う意味だ?と
不思議に思っていたら
また秋人君は嬉しそうに笑った
「忍はさ、俺の事絶対好きになるよ」
「ふぁ??」
「だからもう一回。チャンスくれよ」
「・・・・・」
だから・・・僕が君を好きになるワケないだろ・・・
「忍?」
「・・・っ」
やっと、解放されたと思ったのに
そんな顔で見られたら・・・
そんな嬉しそうな声で呼ばれたら
「よ・・・」
もう少しくらい、一緒に居てもいいと
思ってしまうじゃないか
「よろしくお願いします・・・」
「へへ・・・ありがとな」
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