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秋人君
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「は、はなして下さいっ」
部屋に入って来たのは
つっちーさんと話をしていた男だった
男は煙草を咥えたまま、僕の髪を掴み
そのまま強引に部屋から引っ張り出された
部屋を出る時、カワちゃんさんが
僕の名前を呼んでいたのが聞こえたけど
また全身を恐怖心が支配して
そんなの気に留める暇も無かった
「あの野郎ちゃんと喋れるじゃねえか」
「っえ?あっ・・・」
「俺達がどんなに痛めつけても
声一つ上げなかったのによ。」
男はにやにやと笑いながらそう言った
それを聞いて
カワちゃんさんの事を言ったんだと分かった
痛めつけて・・・
あんなに痛々しい体を僕は見たことが無かった
左瞼はぼっくりと腫れていて
顔には青紫色の痣がいっぱいあった
引き裂かれた服に滲む血と
肌が出ている足や腕には切り傷
あんなの、人間の出来る事じゃない
「う・・・ぐっ」
もう怖くて涙で視界が霞む
手は後ろで縛られているから抵抗も出来ない
とにかく怖くてたまらなかった
「おら」
「っ!」
ズルズルと引きずられながら連れて来られたのは
目が覚めた時に居た部屋
あの時はまだ意識が朦朧としていたから
よく部屋を見れなかったけど
今見ると、ダーツバーみたいな所だった
部屋の中は相変わらず煙草の煙が充満している
窓が一つも無いから
もしかしたら地下なのかもしれない
カウンターやテーブルのあちこちに
柄の悪そうな不良が座り
僕を見るとにやにやと笑い始めた
体がガタガタ震え
立っていられない程になって
僕は膝から崩れ落ちた
「すみませんっ、すみませんっ」
「ああ?」
「ゆ、許してっ下さい・・・ぅぐっ」
自然とそう声が出て
僕は下を向いたまま必死に謝った
「ヒック・・・すみませ、ん・・・」
情けない。本当に僕は情けない
こんな奴らに謝る必要なんて微塵も無いのに
許しを請う事しか出来ない
「ご、ごめんなさ・・・い」
目を閉じたまま必死に謝った
しっかりしなくちゃって
さっき自分に言い聞かせたのに
そう簡単に人は変われない
僕はビビリの弱虫なんだ
「うるせえよ」
「ひっ・・・」
いきなり、あの男が僕の前髪を掴んで
顔を覗き込んできた
「ぅぐっ・・・ヒック・・・」
でも絶対目は開けなかった
見たくない。もう何も見たくない
「前髪長えな。鬱陶しい」
「へ?」
男がそう呟いた瞬間
ブチブチっという音が聞こえた
同時に髪の毛を引っ張られていた感覚が消え
反射的に僕は目を開いてしまった
「なっ・・・」
「おー。結構可愛い顔じゃねえか」
目の前が一気に開けて視界が広くなる
男が右拳を開くと、そこからは
パラパラと僕の髪の毛が地面に落ちていく
男の左手にはナイフ
間接照明に照らされて怪しく光るその刃物に
また体が震え出す
「・・・ぅっ・・・グズ・・・」
前髪をばっさりと切られ
不良達は僕を見てまたにやにやと笑い始める
「忍ちん!」
「!!」
ガタガタ震えていたら
部屋の奥からつっちーさんの声が聞こえた
「つ、つち・・・さ、・・・」
知ってる人の声が聞こえただけで
少しほっとしたけど
それの何倍も怖くてたまらないから
顎がガチガチと震えて
言葉がちゃんと発せられない
「くそっ!離せゴラァ!」
つっちーさんは男2人に押さえつけられていて
必死に手足をバタつかせているけど
頭を地面につかされすぐに動けなくなっていた
「土屋ぁ、喚いてんじゃねえよ」
「っ、氷崎っ!てめえ!」
氷崎・・・どこかで聞いた事のある名前
「忍だっけか?」
「ひっ!」
急に名前を呼ばれて僕はビクっとした
氷崎という男はしゃがんで僕の顔を掴み
ナイフの面を頬にペタペタと当ててきた
「ご、ごごごめんなさ・・・」
「弱い奴の言うごめんなさい程、惨めなもんはねぇよな」
「ぅっ・・す、すみません・・・グズ・・・すみませ」
「泣くのはまだ早ぇだろうがよ」
「っ、ふぇ?」
氷崎という男がそう言って笑った時だった
「忍」
「!」
聞き覚えのある・・・優しい声が聞こえた
「やっと来たかよ」
氷崎という男は僕から手を離し
立ち上がり部屋の入り口へと体を向けた
目を開き、部屋の入り口に立つ人物を見ると
また涙が零れる
「あ・・あき・・・」
さっきまで怖くてたまらなかったのに
その人を見ると体の震えは止まっていた
もう大丈夫だって言ってるみたいに
僕を見つめて優しく笑ってる
「ごめんな。来るの遅くなって」
「ヒック・・・っ、お、遅いよ・・・」
「あれ、つか忍髪切った?」
「ふぇ?」
「ははっ、やっぱ前髪短い方がいいな!」
「・・・・・」
部屋に響き渡る明るい声
周りの不良達なんかに目もくれず
僕だけを見つめて陽気に話掛けてくる
「・・・・ふふっ」
なんだかそれがおかしくて
僕は思わず笑ってしまった
文化祭の時を思い出した・・・
こんな状況での第一声は
やっぱり髪の毛の事なんだね
「似合ってるぞ。忍」
「・・・ほ、んとに?・・・ヒック・・・っ」
いつも通りの明るい声が
さっきまでの恐怖を溶かしてくれて
「おう。すげー似合ってる」
そうやって僕に向かって一言発する度に
心の底から安心感が溢れてくる
「もう大丈夫だから泣くな」
「うっ・・・グズ・・・ふぇ・・」
秋人君だ
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