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愛しい
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風邪がここまで酷いものだとは思わなかった。
けど、やっぱ風邪を引いた時は人肌が恋しくて堪らない。
昔は風邪引いたらよく女が傍に居てくれた。
俺が誘ったんじゃなくて、向こうから来たんだけど……
俺が風邪引いてる事を良い事に、女は好き勝手してくれた。
別にその時はどうでも良かったから女が望むままにしてた。
一回そういう事を体が覚えると、次に風邪引いた時も誰かの肌に触れて居たくてどうしようもなくなっていた。
そんな事を繰り返していた時、とうとう樹に注意された。
樹には『寂しさがそうさせてる』って言われたけど、別にその頃は寂しいなんて思った事も無かった。
風邪引いた時、誕生日、卒業式、入学式、今まで全部一人で過ごして来た。
親は居るけど、俺の傍には居ない。
俺にとってそれは普通の事で、今更寂しいなんて思う訳がない。
慣れていた事だったのに、いざ傍に居てくれる奴が出来ると、ふとした瞬間さえも会いたいとか思ったり、今日みたいに風邪を引いてしまったりしたら、傍に居て欲しいって思うようになった。
その相手は女でも親でも無い。
今一番傍に居て欲しくて、ずっと一緒に居たいと思える人。
どんな事があっても手離したくないと思わせられる。
この先の本当にくだらないただの日常を、俺は新と一緒に過ごして行きたいんだと思う。
あいつとなら、くだらない日々でも毎日楽しく過ごせそうだ。
『寂しさがそうさせてる』
樹の言葉をまた思い出す。
今までのいい加減な体の関係は、寂しさがそうさせてたのかって今なら思える。
かもしれない……
でも今回の新を急に抱きたくなったのは寂しさからじゃないと思う。
心配そうに俺を見るあいつの顔とか、心配そうな声とか……
俺の為に必死になるあいつが、ただ愛しかった。
ああ……勿体無い事をした。
あいつ……めちゃくちゃ可愛かったな……
ここまで熱高くなけりゃあのまま抱けたのに。
「………め……がね」
「…………」
無性に腕が痺れてる感じがして、俺はゆっくりと目を開いた。
「くそ……めが……ね」
「…………」
何故腕が痺れているか?
いいだろう。教えてやる。
「おい、新」
「むにゃ……ふ……ぅ……」
新が俺の腕を枕にして気持ち良さそうに眠っているからだ。
つか、俺の肩にヨダレ垂れて来てるし…
「……ん……にゃ……る…」
「………何?」
寝言で恐らく俺の名前を呟いた新に、そう聞き返した。
むにゃむにゃと口開けたまま寝る新はまるで子供の様だった。
「す……き……」
「…………」
「すき………」
小さく、途切れそうな声の寝言に思わず口元が緩む。
「…おま、え………むかつく……」
「………」
そのあとの新の寝言は、ムカつくだの変態だのくそ眼鏡だの憎まれ口。
新らしい。
布団を掛け直して、自分の胸へと引き寄せると、新は足を俺の体に掛けて来た。
寝相悪過ぎ。なんて思いながら、俺も新の太ももの間に足を入れる。
抱き合ったまま、もう一度新の寝顔を見て俺も目を閉じる。
すぐ近くで新の寝息が聞こえる。
それだけで何故か幸せだと感じる。
《 愛しい 》
今俺の中に溢れるものはそれしか無かった
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