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大好きだよ
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言葉にしなくても伝わる事。とでも言うのだろうか。
泣き崩れる新は何も言わなくて、僕もその後何も言わなかった。
それでも抱き締める度に、ひしひしと新の気持ちが伝わって来る様だった。
生徒会室の扉は少しだけ開いていて、そこから成海の背中が見えた。
でも成海が部屋に入って来る事は無かった。
恋人が別の男と抱き合っているというのに成海は何も言わなかった。
平気なわけ無いだろうに。本当はすぐにでも僕と新を引き離したいだろうに。
でも、それがお前の優しさだと僕は知ってる。
だからお前がくれたこの時間を僕は大事にしたい。
部屋の中に、ズ、ズ、と新が鼻水をすする音だけが聞こえて、頭を優しく撫でるとまた腕に力を入れて来る。
差し込む日差しが傾き始め、生徒会室が更に明るく照らされる中、泣き止み始めた新の頬を両手で優しく包んだ。
「会長…」
目尻に溜まる涙を親指で拭ってあげると、新は少しだけ微笑んだ。
二度と見れないと思っていたその笑顔を見ると
自然と僕も微笑んでしまっていた。
頬を包む手が震えている。本当は今にでも泣き出してしまいそうなくらいだった。
「……痛かったよね…」
向けられる涙で崩れた新の笑顔。
それを壊してしまった自分が今更ながら酷く許せなくなった。
「怖かったよね……辛かった、よね…」
「………っ…は、い…」
どうしてもっと大切に出来なかったのか。
深い傷を与えてしまう前に、何故自分を止められなかったのかと自分に怒りを覚える。
「……僕がした事は…謝って済む事じゃない……でも今の僕はこれしか言えない…」
新の頬に添えた手を背中に回して強く抱き締める。
体全てで謝罪の意と、決してもう傷付けたりしないと気持ちを込めて
「……本当に…ごめん…」
声が震える。だけどそれに比例して抱き締める力も強くなった。
背中に優しく新の手が触れ、ゆっくりと背を撫でられる。
「もう……大丈夫…です…」
新は僕の何倍も震えてるのに、そう言ってまた背中を優しく撫でてくれた。
「大丈夫です……会長…」
「……っ…」
大切な人に触れてる今この瞬間でさえも、僕は愛しいと思ってしまう。
好きで仕方のなかった人に触れてる事が、こんな状況でさえも幸せだと感じてしまう。
“大丈夫”
その言葉が全てを許してくれてる様に聞こえてしまい
自分勝手な思いが溢れてしまう。
でも、不思議と以前の様にもっと触れたいなどといった感情は生まれて来なかった。
「……会長…」
「……?」
背中に回った手に力が込められ、新は何かを呟いた。
「…俺……会長が…好きです…」
「………」
「大好き……です…」
「………うん」
聞こえてきたその言葉に、以前の様な胸の高鳴りは感じられなかった。
それ以上の何かが胸の中に溢れて、あの暖かい感覚が全身を包んでいく様なそんな感じがした。
「僕も……」
終わりなんて無いと思っていた新への思いは
「大好きだよ」
その言葉と共に、優しく、淡く消えて行く
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