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身の程
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今日もまた1日学校が終わった。あっという間やった。
勉強……ほんまは部長さんにお願いしようとしちょったのにいっちゃんが見てくれる様になった。
正直嬉しかった。嬉しいけど喜べん。
「ただいまんぼーう」
電車で二駅。これまたあっという間に家に着いた。
「水族館ちゃうがぞ。語尾のマンボウ要らん。ちゃんとただいまと言え。」
玄関開けたら桐島が晩飯のおかず盛った皿両手に乗せてさらりとツッコミ入れてきよる。
いつもの風景。晩飯のいいにおいが鼻に届いて腹が鳴る。
「今日の飯は何ですか桐島さん」
「生姜焼き」
ボケーとしたまま制服のネクタイを取る。
生姜焼きか。俺の大好物や。
机に置かれた生姜焼きが乗った皿が輝いて見える。
美味そう。めちゃくちゃ美味そう。
「お前、帰って来たら制服脱げ言いゆうやろが。着替えるまでは飯食わさんぞ。」
「食べてから着替えるちや」
「いかん。着替えて来い。」
俺の目の前で生姜焼き乗った皿を取り上げられた。
桐島はケチや。いちいちうるさい。
けんどまぁ生姜焼き食べたかったきすぐ制服から部屋着へと着替えた。
「いただきまーす」
これで心置きなく生姜焼き食べれる。
今日は頭も使っていつもより腹へっちゅう。
一口生姜焼き食って、ご飯を口の中に運ぶ。
幸せ。めちゃくちゃ美味いもう幸せ。
「んん〜。優ちゃんの生姜焼きは世界一やわ。」
「………」
ほっぺに手ぇ添えて、ポロリとそう言うてしもうた。
目の前の桐島の手が止まった。目付きが変わってギロっと睨まれ、しまった。と思った。
「お前、その呼び方やめろ言うたやろ。」
「………」
桐島は短気や。すぐキレる。下の名前呼んだだけでキレる。
「優ちゃん」
前は下の名前でずっと呼びよった。何回呼んでも桐島は怒らんかった。
「呼ぶな言うたやろ。」
ため息が聞こえて桐島の方からも箸を置く音がした。
せっかくの生姜焼き日和がしんみりした雰囲気に包まれる。
「あだ名って言うか、やっぱ呼び方って普通がえい?」
「はあ?」
「親近感湧くと思うき、俺はあだ名で呼び合うのとか好きながやけど……」
そう言うたら、桐島に睨まれた。
親近感。俺にとってそれは安心出来るもの。
その人に許された俺だけの呼び方。
昔俺は桐島の事だってあだ名で呼びよった。
やのにあんな事があって、もうその呼び方では呼べんなった。
【桐島】って呼び方が名字に変わっただけでその人から遠ざかってしもうた気がした。
俺はそれがめちゃくちゃ寂しかった。
「龍、誰をどう呼ぼうがお前の勝手やけんどな、大事にしたいと思う奴を愛着湧くような名前で呼んだりすなよ。お前の悪い癖や。」
「……」
「身の程をわきまえろ。自分がするべき事は何か。それだけ頭に入れとけ。」
桐島の声がのしかかってくる。
分かったら早う飯食え。って言われたけど、どうも箸を持つ気になれんかった。
「?腹でも痛いん、か……っておい」
箸は持たんと、目の前の桐島の方へと歩み寄った。
しゃがんで、びっくりしちゅう桐島の肩に頭を乗せる。
「桐島、抱かしてくれや。」
「死ねカスが。飯食うてさっさと寝ろ。」
「あたっ」
肩を思いっきり殴られてしもうた。ほんまこいつは手加減が無い。
それでもめげずに桐島の両肩抑えて床に押し倒した。
「重いんじゃ退け。飯冷めるやろが。」
「飯はちゃんと後で食べるき。お願いや。」
「…………」
視線を落とし、桐島の頬に手を添えて右目の瞼を撫でた。
桐島の右目は長い前髪で隠れて外からは見えん。
普段隠しちゅうその右目の下、瞼、睫毛をゆっくりと順番に優しく撫でる。
左頬にはでっかい切り傷が跡になって残っちゅう。
「あの時の事、忘れん為にちゃんと見せてや。」
「………」
顔だけやない。こいつは体中傷だらけや。
その傷をちゃんともう一度脳裏に焼き付けて桐島が言うた俺の“身の程”と言うものを嫌と言うほど知らんといかん。
こっち引っ越してから随分浮かれてしもうちょった。俺の事を知らん人に囲まれて生活する事に酔い浸っちょった。
「起きたらお前フルボッコな。」
「え〜、まじか……まぁえいよそれでも。」
大事な人が出来るということは俺にとってどういう事に繋がるのか。
ちゃんと思い出さんといかん。
明日の朝、いっちゃんの顔見ても平気な顔出来るように。
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