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始まらない恋
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点呼五分前のチャイムが鳴った。
状況は何も変わらず、壁に追いやったいっちゃんはまだ俺を睨み付けたまま、喋ろうとはせんかった。
抵抗もやめて、俺のシャツをぐっと掴んどる。
言い返してこん、って事はしてもいいよ。って事ながかな?って思いよった矢先、いっちゃんは口を開いた。
「約束ね。覚えてるよ。」
お。覚えてくれちょったか。
てことは、オッケイ!って事かな?
「したら君は話してくれるの?」
冷静な声。いつも通りのいっちゃんの声がその言葉を発した時、ギクリとした。
話し……。そう言えば、条件付きで俺はいっちゃんを抱く約束をしたんやった。
「したいならすればいい。そのかわりちゃんとあの入院の件について話してもらうよ。」
「………」
そう来たか。
まさかそれをセットで覚えちゅうとは思わんかったな。
ギリッ、と壁に付いた拳に力が入った。
「あははっ、いやぁ〜覚えちょったかぁ〜。」
すかさずいっちゃんから離れて笑ってみせる。
けど、いっちゃんは俺のシャツを掴んだまま、まだ俺を睨んで来よる。
「冗談やって。ちょっとからかいたくなっただけやん。」
「…………」
「そんな怒らんといてや。何もせんちや。」
更に離れようと後ろに下がってみたけど、いっちゃんは俺のシャツから手を離さんかった。
点呼を知らせる本鈴が鳴った。
「……いっちゃん離して。本鈴や。」
「………」
「ごめんな。その事は話したくない。」
「……」
俺はなんであんな約束してしまったがやろ。
遊びで付き合うなら、あんな事条件にせんかったら良かった。
けど、別に話したところで相手がその遊びの対象なら、何とも思わんはずやのに。
「離してや。」
俺は、その事を…入院の件をいっちゃんに話すのは嫌やと思っちゅう。
話してしまったら、ここには居れんなる。
目の前のこの人に、知られて嫌われるのは嫌やと思っちゅう。
「日野、君がいい加減な人間だってのは十分分かったよ。」
「………」
「その首元のキスマーク。他の生徒には見えない様にしてよね。みっともないから。」
「え…」
やっといっちゃんは手を離して、俺の横を通り鞄を持った。
いっちゃんに言われた首元を見てみると、そこには確かにキスマークがあった。
……桐島か…
「いっちゃん‼︎これは違うんや‼︎」
「やめてよ。その浮気を誤魔化そうとするようなセリフ。別にいいんじゃない?勉強に支障が出ない程度なら僕は何も口出しはしないよ。」
振り向きもしないで、いっちゃんは扉を開く。
さっきまで俺の中に変な焦りは無かったのに、急にキスマーク指摘されてハラハラして来た。
いっちゃんの背中は何か怒っとった。
俺が夜遊びしたいい加減な男としていっちゃんに見られるのは嫌や……
嫌やけど、別に気にする事やないがやない?
だって、俺は別にいっちゃんが好きってわけじゃない。いや好きやけど、それはお気に入りとしての好きであって、友達の延長線でしかない。
別にいっちゃんと恋が始まるって訳でもない。
まぁ俺は簡単に言えば、セフレとしていっちゃんが欲しい。
それだけ。
「…そうやなぁ。じゃ、次から気をつけるわぁ〜。」
「うん。」
ほら。いっちゃんだって俺に興味も関心も無い。
何を焦る必要がある。
キスマークを付けられたのは誤算やったな。
昨日は俺自身、エッチするの久しぶりやったし、結構夢中になっとったしな。
気付かんかったわ。
「………じゃ。また放課後ね。」
「おう!じゃあなぁ〜」
先に部屋を出たのはいっちゃんやった。
一人生徒会室でぽつんと立った。
もう一度棚のガラスに自分を写し首元を見る。
「……はぁ。」
大きなため息が出た。
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