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その人の特権
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新が自ら進んで、こうして勉強を日野に教えてくれるのは有難い。
さっきはほんの少し。変な期待をしてしまっただけだ。
最近、僕以外では日野が一番頻繁に生徒会室に出入りしていたからね。
日野と二人きりだった空間に別の誰かが居てくれるということは、僕にとって安らぎでもあった。
「お前こんな問題も分かんねえのかよ‼︎」
「分からん‼︎なんで式として成り立った物をまた式に直さないかんが‼︎なんじゃ連立方程式って‼︎数学はxとyに頼り過ぎなんじゃ‼︎数字自身それぞれしっかり独立せんかい‼︎」
まぁ、多少賑やかではあるけど。
「くっ、会長…よくこんな奴相手に一人で耐えてましたね。俺、ここまで飲み込み悪い奴初めてですよ。屁理屈言い出しましたよこいつ‼︎」
「俺が飲み込み悪いがやない。姫の教え方が悪いんじゃ。いっちゃんの教え方やったらこんな問題すんぐに解けるぜよ。社会科と歴史は教えるの上手やったのに、数学は下手くそなんやなぁ?お姫さま。」
「なっ‼︎む、ムカつくっ‼︎姫って呼ぶんじゃねえ馬鹿巨人が‼︎」
バン、と新が机を強く叩くと、机の上に置かれていたカップの中のコーヒーが揺れた。
新と日野はこんなに仲が悪かっただろうか。と少し不思議に思いながら、僕はコーヒーを一口飲んだ。
「会長‼︎こいつ本物の馬鹿ですよ‼︎」
「馬鹿とはなんぞ‼︎馬鹿と言う奴が馬鹿ながぞ‼︎」
「はっ‼︎そう言う返ししてくるとこがまた馬鹿らしいな馬鹿めが‼︎」
「くあっ‼︎可愛いくない‼︎いっちゃん‼︎なんか言ったってや‼︎俺ここまで馬鹿馬鹿言われたの初めてや‼︎」
「…………」
「いっちゃん‼︎」
……はぁ。実に騒がしい。
日野が救いを求める目を向けて来るが、僕は知らないふりをした。日野が馬鹿ということは否定しないでおこう。確かに彼の頭の中にはおそらく、綿菓子のようなふわふわとした甘ったるいものしか詰め込まれてはいないのだろうから。
「新、日野は最近僕と遅くまで勉強をしているから少し疲れているんだ。気持ちを沈めて、もう一度彼に教えてあげてくれない?」
「……っ……」
新も、こんなにストレスの溜まる相手に何故勉強を教えてあげたいなどと言い出したのだろうか。また、新に負担を掛けてしまってはいないだろうか。
「分かりました。」
「ありがとう。」
カップを机の上に戻すと、新は小さく返事を返してくれた。ありがとうと伝えると、新は少し頬を赤らめ再び日野に勉強を教え始めた。
朝早くから本当に申し訳ないな。と思いながら新を見ていると、ふと成海の事を思い出した。
「ところで、成海にはこの事伝えてるの?」
「え」
そう聞くと、新の動きがピタリと止まった。
そしてその後、少し間が空いて彼は「あとで言っときます。」と言った。
その返事を聞くと、僕は少し笑ってしまった。
本当に新は可愛い。君はいつも成海にどんな言葉を使って話し掛けているのだろう。僕に対しては、君はとても素直な子だと思うよ。
成海には、僕と真逆の対応をしているのかな?
嬉しいような、少し寂しいような……なんだか複雑だ。
でも、きっと素直じゃない君を見れるのは成海だけなんだろうね。
「会長……なに笑ってんですか。」
「ふふっ、なんでもないよ。」
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