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「いやぁ〜、俺的に結構頑張ったがやけどなぁ。」
「そ、そっか。」
何故、彼は嘘を付く?
「まぁ、小テストだし…出来なかった所を何度も復習すれば本番までには出来るようになるよ。」
そして、何故僕も嘘を付いてるんだ…?
「とりあえず座ろう。成海達もすぐ来ると思うから。」
ソファを指差し日野を誘導する。二人して座ると、日野は鞄の中から教科書とノートを取り出し始める。
……彼は、小テストの結果は良くなかったと言った。だけど、僕はこの目で彼のテスト結果をしかと確認した。
「今日は古典の勉強しようか。」
「おう!お願いしますな!」
……どうしてダメダメだったなんて言ったんだろう。
「じゃあ、この問題解いてみて。」
日野に一枚の問題用紙を差し出した。
以前行われた古典の小テスト、先程日野の鞄から見つけた解答が空欄だったものと同じ内容の問題を彼に渡す。
「………」
問題を読み、解き始めた日野をじっと眺めた。
手は止まってなくて、スラスラと問題を解いている。
やはり、唯一白紙だった古典の小テストは、居眠りでもしていたから解答してなかっただけなのかな?
「ほい。出来たで。」
15分もしない内に、問題を解き終えたようだ。
「うん。じゃあ採点するね。」
答えが書き込まれた用紙を受け取り、僕は採点を始めた。他の小テストは満点だったんだ。きっと古典のこの問題だってパーフェクトに解けているはずだ。
「……………」
キュ、キュ、と赤ペンが用紙の上を滑る音が鳴る。
一問一問丁寧に採点をしていく中、日野は隣で鼻歌を歌っている。
「………」
全ての問題を採点し終わると、僕は首を傾げてしまった。
「日野。」
「んお?」
小テストがほぼ満点だったあれは、まぐれだったのかもしれない。
「30問中、28問不正解。」
「げえ⁉︎まじ⁉︎」
二つしか丸が付いていない用紙を彼に見せると、日野は発狂して目を大きく見開いた。
間違った箇所を指摘し、どうしてここがこんな答えになるのか、何故もっと問題文を読まなかったのかを事細かく日野に問い詰めた。
そしたら、彼はこんなに間違えたのに、嬉しそうに笑い、『もう一回最初から教えて。』と言ってきた。
「……一度で理解してよ。」
彼と目が合うと、つい視線を下に逸らしてしまう。
もう一回教えてほしい。そう言われて嬉しいと思った自分がいる。
「前期テストってさ、確か体育祭前にあるよな?」
「そうだね。体育祭一ヶ月前かな。」
「ふぅ〜ん。じゃあ前期テストまでヨロシクな。」
「………‼︎…」
右手の上から、日野が手を被せて来る。
ギュっと握られ、何故か顔周りが瞬時に熱くなった。
「う、うん。」
僕は、日野に対してこんなに緊張していただろうか。
彼の手から伝わってくる熱に、心が乱れる程翻弄されていただろうか。
「………」
彼の家系の事、過去にあった出来事の事、小テストの事、そして彼自身の僕に対する接し方と、僕に対する気持ちが何なのか
こんなにも、気になって気になって、仕方ないなんて
思っていただろうか。
「日野……」
「ん?」
少しだけ、彼の指先を握り返してみる。
「分からない事があるんだ…」
「…?」
君が放つ言葉は、一体何が本当で、何が嘘なのか
「僕は…好きでもない人には、こうして手を握られる事もされたくない。」
「………」
どうしてこんなにドキドキして、額から汗が流れてくるのだろうか。
「でも、振り払う気にはなれない。」
「……うん。」
震えるな。声も、手も、日野相手に何故震える必要がある?…
「君は何故こんな風に、簡単に人に触れる事が出来るの?」
「いっちゃんが好きやき。かな?」
「……っ」
僕の問いかけに、何の迷いも無く彼はそう答えた。
そして、日野がまた手を優しく包み込んでくる。
懐かしいあの切ない痛みが、胸を締め付けてきた。
「分からない…んだ……」
分かっているのに、もうこの気持ちが何なのか、
僕自身、きっと分かっている。
「君が隣に居るだけで…僕が僕では居られなくなる…」
「……うん。」
“きっと、良い人に出会えますよ。”
舞園に言われた言葉を何故今、思い出すのだろうか。
「手、握られるの嫌?」
「……っ」
嫌に決まってる。好きでもない人に触れられるなんて
「嫌なら言って。いっちゃんが嫌って思う事は俺したくない。」
「…………」
嫌だ。その一言さえ言えばいいのに。
「……嫌じゃ、ない。」
離して欲しくないと思ってしまうのは
きっと、僕が日野の事を………
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