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曖昧
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初めて親以外で誰かに電話をした。
初めて家に誰かを招いた。
初めて誰かと手を繋いで歩いた。
初めて誰かとコンビニに行った。
初めてカップ麺というものを食べた。
こんなにもまだ僕の中に“初めて”があるなんて思ってなかった。
初めて誰かに電話を掛けた時は、あり得ない程緊張した。
初めて家に誰かを招いた事に対し、不純な思いが一瞬でも頭の中を駆けてしまった。
初めて誰かと手を繋いで歩いた時、あり得ない程ドキドキした。
初めて誰かとコンビニに行ったら、ただ買い物をするだけなのに、その時間がとても心地いいと思えてしまった。
初めて食べたカップ麺の味は、とても素朴。
特別美味しいわけでも無く、特別不味くもない。
だけど、日野に「美味しかったなぁ?」と言われた時、自然と「美味しかったね。」と言ってしまった。
自分の中では「普通」だったのに。
彼がとても満足した顔で美味しいなんて言うから。
普通だよ。って言えなかった。
僕がリリィの頭を撫でていると、日野は物欲しそうな顔をして「俺も撫でてほしい」と言ってくる。
「なな!撫でてや!」
「〜っ」
つむじを向けられワクワクしたオーラを放つ。
「撫でないよ。子供じゃあるまい。」
「ケチーーーーっ!」
いーっと歯を見せる日野に背を向ける。
もう本当にやめてもらいたい。
家に上がってずっとだ。日野が本当に犬にしか見えない。
「なあ?リッちゃんの飼い主さんはケチん坊やなぁ?」
リリィの前足を掴みプランと宙吊りにしている。
拗ねた顔をしている日野と目が合うと、ぷいっとそっぽを向かれた。
「うちの飼い猫にまであだ名付けないでよ。あと、抱き上げるならもっと優しく抱き上げてあげてよ。」
「優しくしたらいっちゃん妬くやん。」
「妬かないよ。」
はぁ。とため息が出る。
猫に嫉妬するなんてどこの馬鹿だよ。
「俺はヤキモチ妬いたで。いっちゃん、俺に全然触ってくれんがやもん。」
「…………」
本当に、どこの馬鹿だ。
「そういう冗談言うのほんとやめてよね。」
どうして僕はこんな人を好きになってしまったのか。
「リッちゃんはえいなぁ?毎日いっちゃんにもふもふしてもらいゆうがやろ?えいなぁ〜。」
「………」
冗談か本気か分からないふざけた人を、何故好きだなんて思ってしまったのか。
「はい。」
日野の隣に腰を掛け、ポンポン、と自分の膝を叩いた。
「ん?あ、リッちゃん?」
「……っ」
僕が出したその合図を、リリィを返す事として解釈した日野は、リリィを僕の方へ差し出してきた。
「…違うよ。」
「?」
合図で伝わらないと余計恥ずかしくなる。
「膝……」
「ひざ?」
「……撫でてほしいんでしょ。」
「‼︎」
ボソリと呟くと、日野はパァっと顔を明るくさせ勢いよく僕の膝の上に頭を乗せて来た。
ソファの上で、僕の膝を枕に横になる日野の髪をゆっくりと撫でると、日野は嬉しそうに笑った。
「ほんと…犬みたい。」
大きな犬のような、子供のような。
そんな彼の髪を撫でる。
リリィとは全然違う毛質と感触。
「ふふっ、俺、いっちゃんが飼い主なら飼われてもえいで。」
「………」
肩を震わせて嬉しそうに笑った日野に対して、僕は少し手が止まってしまう。
……それも、冗談なのか…
「生憎だけど…」
僕は日野が言ってる事が信じられない。
君の発する言葉はどれも曖昧だ。
間に受けない方が良いに決まってる。
「僕は猫派だから。」
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