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正反対の気持ち
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イライラする。
「ちょっと待ってって‼︎」
どうしようもない程にイライラする。
「見苦しいよ。誘っておきながら抵抗するなんて。」
ソファから起き上がり、今度は僕が日野を押し倒した。ネクタイを外し、ボタンに手を掛けると慌てふためいた日野が僕を押し退けようとしてくる。
「やきふざけ過ぎたって‼︎ごめんって‼︎」
「…っ」
「怒らんといてや?な?」
「………」
イライラする。その原因は間違いなく日野のせい。
「いかんて。そんな俺の挑発に乗ったら。」
「…………」
イライラよりも、胸が痛い方が強いのも日野のせい。
「挑発って…なにそれ。」
彼の言葉で勝手に傷付いているのは、僕自身のせい。
最初から分かってた事だ。悪ふざけだって事も。日野が僕に対して言ってる事はただの遊び感覚の言動だって事も。
全部、全部分かっているから
どうしようもなく、むかつく。
「好きだよ。日野…」
「やき俺と張り合おうとせんでえいって。」
「…………」
僕が伝える言葉さえも、ちゃんと受け止めてくれようとしない。僕が言っても張り合おうとしてるとしか捉えようとしない彼に、無性に腹が立つ。
「な、なぁ。とりあえず俺の上から降りようか?ほら、リッちゃんビックリしとるで。」
「…………」
でも、どこかまだ自分の中に変なプライドがあって、それを無視して通る事が出来なくて。
ちゃんと最後まで気持ちを伝え切れない自分に一番腹が立つ。
「……嫌いだ……君なんか…」
最初はそれが本当だった。
でも今は本当じゃない。
「そんな事分かっとるって。」
「………」
正反対の気持ちが真に受けられる事ほど、辛いものはないと、この時知った。
【ヴヴヴヴッ…】
「…………」
「あ、俺の携帯や‼︎わぁ〜誰やろ〜?」
「…………」
跨ったままの体制で彼を見下ろしていると、日野の携帯が鳴った。いそいそと携帯を取り出し始めた彼の上から退くと、日野は涼しい顔で電話に出た。
「もしも『こっのクソボケおたんこなすがああ‼︎‼︎』」
「⁉︎」
僕にまでその大きな怒鳴り声が聞こえて驚いてしまう。日野は携帯を少し耳から遠ざけ顔を真っ青にした。
「あ、やぁー。どうも…間違い電話です。」
『誰が間違い電話じゃボケが。やっと電話出たと思うたらふざけやがって。』
声のトーンは少し落ち着いたが、電話の内容はこちらまで聞こえて来た。
日野は相変わらず真っ青な顔のままボタンを閉め直しながら電話に対応していた。
そして視線を一度僕に向け、にこりと微笑んだ後、リビングを一度出て行ってしまった。
「………はぁ。」
ソファに座り直し、先程までの自分のした行動に対して反省をする。
流されたとはいえ、好きだなんて。つい口走ってしまった。
胸に手を当てるとまだドキドキしている。
「…………」
好きと言っても無意味だという事は分かった。
彼自身も悪ふざけが過ぎたと言ったんだ。
やっぱり、日野にとって僕は何でもない。
深入りするだけ惨めだ。またあんな思いをしてしまう。
自分だけ突っ走って、それに執着して、勝手に傷付いて、公私混同してどこにいてもむしゃくしゃして目の前の事が手に付かなくなる。
「……っ」
そうなる前に、これ以上好きにならなければいいだけだ。
「ごめんいっちゃん‼︎ちょっと急用出来たき俺帰るな‼︎」
「え、…うん…」
「ごめんな‼︎また学校で‼︎」
ソファに掛けていたブレザーを持って、日野はそう言って家を出て行ってしまった。
電話で何か言われたのか。電話の相手は桐島さんなのだろうか。
桐島さんは、日野のお兄さん。だけど血は繋がってない。なら、何故彼の兄として生活を共にしているのだろうか。
僕は、彼の事を何も知らない。
知らないというだけで、どうやっても埋められないものがそこにあると思い知らされる。
埋める方法も分からない。何をどうすれば近付けるかも分からない。
「……っ」
まだ、ドキドキしてる。
「ああもう…」
日が経つにつれ分かって行くのは
僕が日野の事を好きだという気持ちだけだった。
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