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自分と他人
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僕が言ったその一言を聞くと、暫く二人の間で沈黙が続いた。
突然僕が日野の事を好きだと言ったんだ。きっと成海は驚いたはずだ。…いやそれよりも、「お前があいつを?」なんて返しをし笑うかもしれない。
当たり前だ。僕は新が好きだったんだ。その新と真逆の彼を好きになるなんてきっとどうかしてると思うに決まってる。
「知ってたよ。」
「……え」
そう思っていたのだが、成海はさらりと涼しい顔でそう言い放った。
「つかその事かよ。全然重大じゃねえじゃねえか。」
大きな溜息を吐いた彼は、背凭れに体重を預け天井を見上げた。
彼が言った言葉に今度は僕が驚いてしまう。
「知ってたって…」
「だから。お前があの馬鹿を好きな事。薄々気付いてたんだよな。」
訳が分からない……いつ?どこで?なぜ?
そんな素振り成海の前で見せた事あったか?
成海が他の人より聡いと思ってはいたが、日野を好きだと気付いたのは僕自身最近の事なんだぞ…
「どうして?って顔だな。」
「……いや…」
「お前さ。自分で思ってる以上に顔に出てんぞ。」
顔に出てるなんてそんな訳ない。
「で?好きな奴が居るんだけど気持ちを伝えるにはどうしたらいい?的な相談か?」
「…っ」
図星を突かれ下を向いてしまう。
全てお見通しの成海はにやりと笑って「お前が恋バナかよ。」と呟いた。
「悪い?」
「別に。」
気付いていたと言うのならこの際隠す事は何も無い。
「お前も分かってると思うけど、彼は人一倍楽天的で能天気でしょ?その上誰とでも親しくなれて誰にでも同じ接し方が出来る。」
「単細胞っぽいよな。」
「真面目に聞いてよ。」
成海に話して何がどうなるって感じだけど、第三者からの意見はとても参考にもなるし自分が今どういう状況にいるか把握出来る。
今自分が居る立場はどうなのか。進む道がボヤけた時、他人からの意見は一つの解決策に繋がる。
「好きだと伝えても無意味だった。彼は真に受けようとしてくれない。」
大体、同性にまた恋をするなんて。
その時点ですでに道がズレてしまっているのかもしれない。
「僕はどうすればいい?」
なら、戻れる内に引き返したい。
「自分でもどうかしてるとは思っているんだ。よりにもよって日野を好きになるなんて。」
自嘲して笑ってみせると、成海は目を伏せ苦笑した。
「本当だよな。お前の目大丈夫かよ。」
「視力が乏しい君には言われたくないね。」
即座に返すと、成海は目を細めて僕を睨み付けて来る。
確かに、恋愛事情を成海に相談する日が来るなんて僕自身思ってもみなかったが、僕と成海は同じ状況を一度味わった事があるもの同士。それぞれ同性を好きになる事がどういう事なのか。互いの意見は存在するはずだ。
「なる「俺がやめとけって言ったらお前は諦めるのか?」」
引き返せる所で引き返した方がいいのか聞こうとした時、そう釘を刺される。
「…………」
言われたその一言が頭の中を駆け巡る。
僕が考え出した結果は、『これ以上好きにならない。』
だけど、諦めるには誰かからの助言が欲しいと思った。
やめておけ。その一言で“あぁ、やっぱりそうだよな。”と自分がその方の道を選択出来る様な。強い助言。
ぐっと唇を噛むと、成海はまた大きな溜息を吐いた。
「ならやめちまえよ。」
「っ、」
成海は僕が求めている言葉をくれる。
だから、やっぱり……
「……………」
……そうだよね。と、すぐ返すつもりだったのに中々言葉が出てこない。
諦める。諦めるも何も、何もまだ始まってない。
「はぁ…。何なんだよ、どいつもこいつも。俺は恋愛相談所なんて開業してねえよ。」
「…………」
「あのさ。他人の価値観押し付けられて、他人の意見鵜呑みにして、自分の考え押し殺すってどうなの?」
「………」
「人の意見取り入れた瞬間自分が取る行動って、その時点で自分の意思に反してるんじゃねえの?」
「……………」
成海は呆れた声でそう続けた。
言われる一言一言が胸に刺さって来る。
だけど反論出来なかった。
確かに意見が相手と一致して行動する時は、それは自分の意思に従う事になる。だけど自分の考えに反した他人の意見を鵜呑みにして行動すると、その時点で自分は他人になる。
「それで失敗したら他人のせいにするんだろ?」
「……っ、そんな事」
「しないと思っててもするんだよ。後になって思った通りにすれば良かったとか、あいつに聞かなければ良かったとか、他人からの意見なんて自分の逃げ道作る為に聞く様なもんじゃねえかよ。」
「………」
また、下を向いてしまう。
逃げ道と言われ違うと言えなかった僕は、成海が言った様にそう思っていたのかもしれない。
いや、今は思ってなくても、後にそう考えてしまうかもしれない。
「別にさ、意見聞く事が悪いとか思ってねえけどよ。最終判断すんのはてめえなんだから。だったら他人の意見に従うより自分の考えに従った方が良いんじゃね?」
「…………」
「つかお前が俺の言った意見に対して『はいそうですか。』って素直に従う玉かよ。」
「………いや。よく考えるとそれはヤだね。」
腕を組み直しそう返すと、成海は怪しく笑った。
「あいつ。好きに対して無頓着なだけだろ。勉強がてらそれもお前が教えてやればいいじゃねえかよ。」
応酬を繰り返す中で、成海のその言葉を反芻する。
好き対して無頓着。……
「で。俺はやめといた方がいいと思うけど?」
「…………」
そう言えば、日野は誰かを本気で好きになった事があるのか?
彼が誰かに対して特別な態度を見せている所は見たこと無いし、そもそも、彼にとって好きという感情は友人というところで止まっているんじゃないか?
「どうなんだよ?」
「……………」
教えてやればいいのか。
彼が意識出来るまで、僕が気付かせてやればいいのか。
「悪いね。君の意見は取り入れない事にするよ。」
「ふっ…あっそ。」
それでもし駄目だったら。
その時はその時でまた考えればいい。
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