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行き違い
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「ふざけんな‼︎勝手に話し進めんなや‼︎」
馬鹿の大声が部屋の中に響く。
両耳に指突っ込んで聞こえんフリを続ける横で、ギャンギャン吠えて机を蹴り飛ばす馬鹿は随分ご立腹のようやった。
「俺は帰らん言うたやろが‼︎」
「行儀悪いわ。机から足退けぇや。」
「桐島‼︎」
「………」
なんでこいつがこんなに怒っちゅうのか。
それは今朝、俺が学校に「家庭で不幸がありまして。急遽実家の方に戻らんといかんなりました。龍は中退させて頂きます。」と連絡したきや。
「何が家庭で不幸があったじゃ‼︎見え透いた嘘つきやがって‼︎」
「阿呆。まじで親父さん倒れた言うたやろ。」
「二日酔いかなんかやろ‼︎大袈裟に言いよってからに‼︎俺は嫌ぞ‼︎絶対帰らんきな‼︎学校には俺が連絡する‼︎」
……ほんまうるさい。
転校やら中退やら、今まで散々して来たと言うのに、なんやこの怒り様は。
「もう中退する方向で話し進めてもらいゆう。それにお前が連絡してどうこうなる話しやない。」
そう言い放つと、ギリリと歯を食いしばって俺を睨み付けて来る。
昨日、親父さんから連絡があった。
まぁ倒れたって言うのはほんまや。ただ、龍が言うたように酒に飲まれて2日間ダウンしとっただけやったけどな。
「卒業するまでって言うたのはそっちやろ…」
「………」
親父さんから、早急に龍を高知に連れ戻してほしいと頼まれた。
「……そうやな。」
「っ、」
理由は聞かされてない。
ただ、早く連れ戻してくれんとこちらから迎えに行くと言われたき、俺は親父さんからの頼みを聞き入れた。
「黒尽くめの集団が学校に押し寄せて来たらどうする?それこそお前周りの奴らに全部バレるぞ。」
「……」
卒業するまで。と約束したのは俺や。
けんど親父さんからの頼みは無視出来ん。
「……俺は帰らん…」
ほんまは数日前から、そろそろ見切りを付けとけと龍に言いよったがやけんど、こいつは嫌だ嫌だの一点張りでここんとこその話を避ける様にして、家に帰って来んなっとった。
「大事なもんでも出来たがか?」
「あほか…んなもん出来るか。」
ここでの生活が長く続けば、元の世界に戻る事に抵抗を覚える。出来ればこのままここで生活してほしいと俺も思うけんど、龍は普通じゃない。
変えてやれん事やってある。どうにもならん事やってある。
「やりたい事…まだめっちゃある…」
「戻ってやれ。ここじゃなくても出来る。」
「………っ」
こいつやって、馬鹿やけんど自分がどういう人間かくらいは分かっとる。
普通に学校通って、友達を作って、遊んで、たまにはバイトでもして、合コンにも行ったり、友達と飯食いに行ったり。
そんな普通を少しでも体験させてやりたくて俺はこいつをこっちに連れ出した。
まぁ、親父さんからの頼みも含まれちょったけんど、俺は“普通”に憧れるこいつの為に何かしてやりたくてここまで連れて来た。
「組の奴等に土産でも買ってきちゃりや。」
「…………」
「5日間も外を出歩いたがやったら美味いもんの一つや二つ見つけたやろ。」
「…………」
俺に出来る事は全部して来たつもりや。
けんどもうこれ以上は無理や。
「おら。ぴよこ饅頭でも買って来い。あと東京バナーナ。今限定のもんあるだけ買って来い。組の奴等全員分ぞ。」
「自分で行けや。」
「ボケが俺を殺す気か。土産屋まで距離どんだけあると思うとるんじゃ。」
ざっと五万。龍に差し出すと荒く札を毟り取られ舌打ちをされた。
「帰って来るまでに覚悟決めとけ。」
完全に頭に血が昇っとるこいつには、外の空気吸わす方がえいと思うた。
ちっと外歩けばこいつも冷静になるやろ。
「五万渡してえいがか?俺これ使って逃げるかもしれんぞ。」
「逃げてもすぐ見つかるわ。馬鹿な考え起こすなよ。」
「……チッ」
バタン、と強く扉を閉めて龍は家を出た。
蹴り飛ばされた机を元に戻してあいつが散らかし回った物を一つ一つ整頓する。
もう少し気が効く言葉を言ってやりたかったけんど、生憎俺は口が悪い。
何一つ優しい言葉を掛けれんかった事に情けないと思う。
「はぁ。」
どうしたもんか。
五万あれば逃げる事は出来るしあいつならやり兼ねん。でもあいつはそんな事多分せんやろうな。
馬鹿やきな。と心の中で呟くと、家の扉がノックされた。
「はいはーい。」
重い腰を上げ玄関に向かう。
配達か?とか思って扉を開けると、開けた瞬間隙間から手がぬっと扉を掴んだ。
「あの、すみません‼︎」
「?」
そして、目の前におったのは学校で一度だけ会った事のある金髪美人君。確か会長さん?
なにやら走ってここまで来たのか、汗だくで息がめちゃくちゃ上がっとった。
「はぁっ、は、…日野…日野龍也さんのお宅で間違いないでしょうか?」
「お、ああ。そうやけんど…」
「桐島さん…ですよね?日野君帰ってますか?」
そう聞かれ、龍はさっき出掛けたと言うと
会長さんは肩の力をはーっと抜いた。
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