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“兄”と“弟”
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県内に無数のヤクザもんがうようよとおる中で、龍は日野組の三代目として生まれた。そして俺はその組織の中に所属する親の元で生まれた。龍と初めて顔を合わせたのはあいつが3歳の時。
その頃の俺は家柄の事なんか全然分からんかったし、親父からは『その子がお前の“弟”で“兄”や。しっかり面倒見ちゃってくれ。絶対に目を離すな。』と言われた。
正直意味分からんかった。まだ弟なら分かる。けんど歳は6つも俺の方が上やのになんでこんな奴が俺の“兄”になるんやと不思議で堪らんかった。まぁそんな事を疑問に思いながらも俺は龍の面倒を来る日も来る日も見よった。3歳からクソ生意気な餓鬼でその時9歳やった俺も物分かりの悪い龍に酷く頭を悩ませよった。まぁまだ3歳やき仕方なかったやろうと今になって思うけんどな。
いい加減お守りが嫌になり、ある日龍と家の近くの公園に遊びに出た時、龍をその場に残して俺は逃げた事がある。数分だけ側を離れたくらいやった。けんどその数分の間に龍は姿を消してしまった。
慌てふためいた俺はすぐ親父にその事を告げた。そしたら親父の岩よりも硬い拳が頬に飛ばされ、頬骨にヒビいかされた。地面に這い蹲る俺を親父は鬼の形相で睨み怒鳴りつけて来た。少し目を離しただけで何でこんなに怒られないかんがや。と内心俺は逆ギレ状態やった。そして龍のバカでかい家の中はその日この世の終わりかってくらいの勢いで荒れた。おんなじ様な格好した大人がバタバタと家の中を走り回って、おらんなった龍を一家総出で探索した。
結局、龍は公園で一人泣きゆう所を近所の貴婦人が保護してくれとったというだけやったけんど、親父はそれでも俺を許そうとはしてくれんかった。
『目を離すなと言うたやろが。』親父のその低く重たい声が今でも頭から離れん。
益々俺は龍の子守が嫌になった。
けんどそれは仕方ない事であって、龍の親父さんの兄弟分、つまり“弟”である俺の親父の立場からしたら自分の息子が“兄”の息子の面倒を命掛けても見るということは俺たちの世界では当然の事やった。
ヤクザもんのドラマみたいに拳銃やら短剣使って組同士の戦争なんて今時無い。けんど組同士の仲は決して良くなかった。
自分が極道の世界におると理解したのは、俺が12歳になった頃や。龍は6つになった。
当時、というか今もやけんど、日野組と特に仲の悪い《橘(たちばな)組》が、裏商売のお得意様を日野組に取られたとデタラメ抜かしよって、小学校に通い始めた龍を下校途中に、龍が乗車しちょった日野組の車を事故に見せかけて襲って来よった。
その時俺もその車に乗っちょったけんど、デッカいトラックが自分の乗っとる車目掛けて突っ込んで来て、慌てて運転手がハンドルを切り車は激しく旋回した後横転。そっからの事は覚えてない。
目が覚めた時は病室のベッドの上やった。
幸いトラックとの衝突は避けれたらしいけんど、ハンドルを切って間一髪で俺達を助けてくれた運転手は横転した時強く頭を打ってしまい死んでしもうた。
龍と出掛ける時は必ず車で送り迎えと、俺を含め龍を見守ってくれよったヤクザにしては優しい人やったのに。
龍は俺の隣のベッドで頭に包帯巻いた状態のまま陽気に絵本を読みよった。
人が一人死んだなんてこの時何も分からんかったやろう。
体中痛くて俺も死ぬかと思うたのに龍は自分を睨み付ける俺を見てにこにこと笑顔を向けて来た。
ほんま腹立つ顔やった。ただうちと潰し合いがしたいだけやった橘組の思惑のせいで、俺はぽっくり死ぬとこやった。
しかも橘組は何をしてでも、日野組の怒りを買いたい様子で、日野組の頭であった龍の親父さんの息子を殺す事で怒りに火を付ける魂胆やった。
阿呆が。と橘組の奴らに言いたくなったわ。
龍はまだ6つやぞ?こんな人の死を目の当たりにして無邪気にニコニコ笑うガキを真っ先に狙ってくるとは。カス共が。と怒りを覚えたのは俺やった。
まぁ、橘組の思惑通り、日野組はその件で組の奴等は腸煮え繰り返っちょったけんど、親父さんだけはいつになっても冷静且つ陽気で、『こんな日こそ酒や‼︎』と組の奴等を集め宴を始めたらしい。
自分の息子が殺されかけたというのになんでこんなに陽気ながや。と親父さんにも怒りを覚えた。
そして俺の親父は事故に俺も巻き込まれたのに俺の心配は一切無く、ひたすら龍の事を心配しとった。
ああ腹立つ。なんて思いながらも、隣で夢中になって絵本を読む龍を見ると、『こいつは馬鹿やき俺が守っちゃらないかん。』そう自然に思ってしまった。
俺はその時から龍の子守を真面目にするようになり、一時も龍から離れんかった。
相変わらず龍は気の抜けた顔で俺に笑い掛けて来よったけんど、多分俺の顔はいつになっても顰めっ面やったやろうな。
退院して日も経たんうちに、今度はデパートの二階から一階へと繋がる階段で龍は不自然にも階段の上から転げ落ちた。
瞬間的に俺が抱きとめたけど、『誰かに背中押された』と龍が言った時、橘組の奴か。と検討が着いた。
龍の身を隠した方がえいと思うて、龍が通い始めた小学校を早々に止めて別の地域へと移った。
でもどこに行っても状況は何も変わらんかった。
来る日も来る日も、龍の身には何かが起こる。
それらから龍を守り切る程、その時俺には力が足りんかった。
もう学校は行かん方がえいと龍に言ったけど、あいつはどうしても学校には通いたいの一点張りやった。
そして事は起きた。
龍が小学6年になった、その年の夏。
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