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それでも
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これで何杯目だろうか。
話しが続く中で桐島さんと返杯を繰り返し、濃度の高いお酒が体中に染み渡り、頭がクラクラしてくる。
「あの…気になる事を一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
そんな中で、僕は話の中引っかかる点が一つあった事を思い出し、それを桐島さんに尋ねた。
「あの、その年の夏…桐島さんと同じ病院に日野も入院していますよね?」
「ん?…ああ。」
「あと、これまでも日野は何度も入院を繰り返していますよね?」
「………」
その問い掛けに、桐島さんの顔つきが変わる。
「会長さん、どこでその情報を仕入れたかは知らんけんど、龍は過去一度しか入院しとらんぞ。」
「え…」
「龍が入院したのは俺が死にかけたその一件だけや。あいつ、「ドジ踏んで足折ったわぁ〜」とか間抜けな顔してわざと俺と同じ病院に入院してきたがよ。ちなみに何べんも入院を繰り返したのは俺や。」
「………」
……ということは、舞園が持ってきたあの資料は、全て桐島さんの入院歴だったという事か?
「まぁ、ここまで話しして会長さんがあいつの事をどう思うたかは分からんけんど、はっきりと言えるのはあいつがどうしようもない馬鹿やと言う事と、あいつの周りには敵が仰山おる言う事や。」
グラスに入っていたお酒をまた一気に飲み干した桐島さんは、僕に向かって「あんたは、あいつの全部を背負う覚悟があるか?」と聞いてきた。
「………」
「俺を見たら分かるやろ。ここはまだ安全でえいけんど、いつ橘組のもんが龍の居場所嗅ぎつけてここに来るか分からん。敵は橘組だけやない。高知には日野組を敵視しとる組はいくらでもある。それに、あいつは小6で人刺したんやぞ?そんなあいつをあんたはどう受け止める?」
「……」
言葉がうまく出てこなかった。
きっと僕が何を言ってもそれはただの甘い綺麗事なだけで。
知ってしまった本当の日野を、僕はどう受け止めたらいいんだろう。
「まぁ飲み。最後の返杯や。これ飲んだらもう帰り。」
コプ、とグラスにお酒が注がれた。
体が熱くて、思考もうまく働かない。
聞かされた話を頭の中で反芻するが、綺麗事ばかり浮かんで、でも、その綺麗事は僕の本心であって……
「すみません。」
「………」
聞かされた話はどれも恐ろしい事ばかりだった。
でもその話の中の日野は、僕の良く知る日野と何も変わりなかった。
「それでも、日野が好きです。」
「………」
僕には、まだ現実味の無い話だけれど、日野は確かにその世界の中で生きてきた。
日野をかばって、体に沢山傷を付けた桐島さんに比べたら、僕はまだまだ覚悟が足りないのかもしれない。
でも、それでも
僕は日野に好きになってもらいたいと思った。
「日野に、沢山教えてあげたい事があるんです。」
「………」
「伝えたい事も、気付いてもらわないと困る事も沢山あるんです。」
頭が朦朧とする。
でもこのグラスに注がれたのもを飲み干し、その意を伝えなければ、本当に僕は何も出来ないと思われてしまう。
「日野の為なら、命を賭けたっていい。」
「………」
きっぱりと、真っ直ぐ桐島さんの目を見てそう言った。
そしてグラスに口を付け、最後の一杯を飲み干した。
「……っ、ゲホッ」
だが、やはりこの地酒には慣れない。
辛くて喉が焼けるようだ。
「………ごちそうさまや。」
「っ?」
少し咳き込んでいると、桐島さんは腕を組みそう言ってきた。
「終わった後は『ごちそうさま』言うんや。それで終いや。」
「…………ごちそうさまです。」
口元を拭いながらそう言うと、桐島さんはにこりと笑った。
「えいなぁ。久しぶりに美味い酒が飲めたわ。」
「?」
そして、よっこらしょ、と腰をあげ、少し待っていてくれと言われた。
まさかまた別のお酒が来るんじゃないだろうかとハラハラしていたら、桐島さんは数分もしないうちに僕の元へと戻って来た。
そして何やら四つ折りにされた小さい紙を僕に渡して来た。
「なんですかこれ?」
不思議に思いながらそれを受け取ると、桐島さんはまたにこりと笑った。
「明日の朝。酒が体から抜けて目ぇ覚めたら読んでや。」
「…?」
「きっとこの先役に立つやろう。」
何だろうと思ったけど、絶対明日の朝読んでほしいといわれ、渡された紙をポケットの中へと仕舞った。
「すまんの。無理に酒に付き合わせてしもうて。帰れるか?顔赤いけど大丈夫か?」
「はい。大丈夫です。」
立ち上がると少しフラついたが、歩けるから大丈夫だ。
「あいつ、結構ここが気に入っとるみたいやで。」
「え?」
玄関を出る時、桐島さんはそう言ったが、その言葉の意味がどういう事なのか、僕にはわからなかった。
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