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聞いて
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またこの感じ。胸がムカムカして、モヤモヤして、どうしようもない程にイライラする、この感じ。
「な?お酒飲んでちと寂しくなっとるやろ?水持って来ちゃるき、それ飲んで一緒に寝ようや?」
「……てよ」
「ん?」
なんでいつもちゃんと聞いてくれようとしないの
「真面目に聞いてよ…」
頭はボーっとする。吐きそうな程に気持ち悪い。
水だって飲みたい。早く眠りにつきたい。
だけど、それよりも、君に伝えたい事の方が僕にとって優先事項で、このままずっと君がこれを聞いてくれないってなると、胸が張り裂けてしまう。
「…いつになったら……ちゃんと僕の話し聞いてくれるの…」
「………」
酔ってるから、こんなに寂しい気持ちになるのか。酔ってるから、こんなに思いを口にしたくなるのか。
……違う。
体に入ったアルコールのせいにして欲しくないんだ。
「ちゃんと聞いて……そう何度も言える言葉じゃないんだ…君が相手だと尚更…」
「…………」
力が入らない。
それでも力一杯日野の体を抱き締める。
体が熱いのは僕で、震えてるのも僕で、泣きそうな声を出してるのも僕だ。
……情けないけど、この状態でも言わなくてはいけない。
「僕には…絶対忘れられない人がいた…初めて好きという気持ちを僕にくれた人だ。」
今までの事が頭いっぱいに流れてくる。
思い出すだけで苦しくて、切なくて、胸が引き締められる感覚がした
のに
「一生大事にしようと思っていた気持ちを壊したのは君だ…僕の前を必要以上にウロついて…嫌でも君が視界に入ってくる…おまけに世話が焼けて、僕に迷惑ばかりかけてくる…そのせいで僕は毎日君の事ばかり考えさせられて…」
「………」
いつから、僕は日野の事が好きだったんだろうと考えてみると、もしかしたら、冬休み明けの始業式の朝、新と会う前に日野に会ったあの時からかもしれない。
ただの軽はずみの言動に、不覚にも期待を抱いた自分がいけなかった。
だけど少しでも好きだと言う気持ちが生まれてしまったら、あとは膨らんでいくだけで、意識したくなくてもしてしまって、頭の中ではその人との未来を想像してしまう。
「…僕を幸せに出来るって言ったじゃないか」
………それの何がいけないと言うんだ
「…………」
「僕といて、君はイライラしなかった?……僕はイライラしたよ…なんで気持ちが伝わらないんだって…なんで僕の事をちゃんと見てくれないんだって……」
いつもそうだ。好きになった人は僕の手を簡単にすり抜けて、僕の手の届かない場所に行ってしまう。
「………好きなんだ…君の事が…」
「…………」
体が熱くて、目の奥も熱くて、胸が焼けてしまいそうで……それでも言葉は口から零れ落ちる。
「好きだから……自分に対してイライラしたり…僕らしくない事をしてしまったり……」
「…………」
「…好きだから……もっと君の事が知りたくて…」
体を重ねる事も許せたんだ。
「…好き……だから」
「いっちゃん。」
「っ…」
熱い体を大きな体に抱き締められる。
熱いとは違って、温かくて、今までに無いほどに全身を包み込むように抱き締められてる。
「俺も好きやで。」
耳元で囁くその声は、少しだけ笑ってるかのようだった。
「…っ、君の好きは…僕と違う…」
だからまたそれに腹が立つ……泣きたくなってるのは僕だけで、君はこの状況を楽しんで…
「一緒やと思うで。」
「っ‼︎だからそれはっ」
「いっちゃん。」
「ぅっ」
耳元で名前を呼ばれて、力が一気に抜け落ちる。
僕の体を抱きしめて、日野はまた笑った。
「笑わないでよ…」
「笑ってないよ…」
「…………」
顔は見えなかったけれど、日野は何度も抱き締め直してきて、何度も嬉しいと口にした。
いつもとは少しだけ違った日野の声は、笑っていたけど、もしかしたら少しだけ泣いてたかもしれない。
「……日野…あつい…」
「ん。」
「……服、脱ぎたい……」
「だーめ」
「…………」
ジンジンと鼓動が耳に響いてくる。
日野の心臓の音も速くなってて、ただ僕を抱き締めるその手は、本当に大事なものを抱き締めるかのようだった。
「……りゅう…」
日野の肩に顔を埋めて、何度も日野の名前を呼びながら、僕は意識を手放してしまった。
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