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ケジメ
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「うぉぉぉぉおおおん!我が息子よ!よくぞ帰って来てくれた‼︎」
「くっつくな離れろ親父‼︎暑苦しいわ‼︎」
「いやぁ〜、離れて一年も経っちゃぁせんのにおんしゃの匂いが懐かしく感じるわ〜。こんなにおっきくなってからに。」
「〜〜ッ‼︎」
家に帰ってきたらずっとこの調子や。
親父が俺の腰にしがみ付いて頬を擦り付けて来るとぞわぞわと気持ち悪く身の毛がよだった。
「離れろ言うとるやろがくそ親父‼︎」
「あんっ‼︎」
ボカリ、と一発頬に拳をお見舞いしてやった。
「若っ‼︎なんてことを‼︎」
「親父さん羨まし…いや親父さんに手を挙げるなんて‼︎どうぞその怒りはわしらに向けて下さい‼︎」
「もう長い事若の拳を受けてないわしらの頬は干からびて今にも剥がれ落ちてしまいそうなんです‼︎」
「さあ‼︎どうぞわしらの頬に潤いを‼︎」
周りにおる奴等は赤らんだ頬で俺の方に「どうぞ好きなだけ殴って下さい」と言って来よる。
「っ!お前らきもいんじゃ‼︎四万十川にでも行ってその気色の悪い顔洗って来い‼︎」
「「「「わ、若ぁぁ〜‼︎」」」」
「チッ」
話しにならん。
なんでうちの組はこうも馬鹿ばっかながじゃ。
「親父、話しがある言うたやろ。」
デカデカとした真っ黒いソファに和服姿で構える親父を見下ろすと、頬を摩りながら親父は口角を上げた。
「なんじゃ、ようやく組を継ぐ気になったか?」
「………」
親父がその言葉を発すと、周りの者はわんやわんやと喜び始めた。
「違う。その逆や。」
「…………」
俺の返しに今度はその場がシンと静まり返った。
何か言いたそうに口を開ける者もおれば、目の色を変えて今にも俺に飛びかかって来ようとしゆう者もおる。
「お前ら席外せ。親父と二人で話がしたい。」
そんな奴らがおる中ではまともに話も出来ん。
一言言えば、周りにおった者はおじおじと一礼をして部屋から出て行った。
「………逆とはなんぞ?」
「…………」
二人きりになると、さっきまでとは打って変わって場がピリリとする。
「…………」
いっちゃんの家を出る前、桐島に電話をした。
すぐにでも家に帰る。と。
「悪いけんど、俺は長にはならん。」
「…………」
いっちゃんには、書き置きを残してきた。
やる事があるき、実家に帰る。と。
「それはどういう事や?まだ遊び足りんがか?お前がその気になるまでわしは待つ言うたはずや。」
「もう待ってもらわんでかまん。その気になる日はこの先一生来ん。」
「…………」
思い返してみれば、俺はほんまにいい加減な男やった。
こんな腐った世界で生きて行く為には、全てをどうでもいいと思える程の精神を持ち合わせておらんといかんと思いよった。
その結果、何事にも無関心で楽天的で、おまけに決められた道からもおいおいと逃げる日々を過ごしよった。
「何を言い出したかと思えば。阿呆が。わしは冗談が嫌いやと前に言うたやろ。」
「冗談やない。」
「…………」
どうせ逃げても俺は組を継がんといかんがやろうなって心のどっかで諦めちょったけんど、諦めるやなくて向き合う事を俺に決心させてくれた人に出会えた。
大事にしたいって思わせてくれた人。
俺と正反対で、真面目で、美人で綺麗で。
ちょっと俺に対して当たりキツイとこあるけんど、俺に対しての気持ちを知ったら、それさえも可愛いらしく思えてくる。
「大事なもんが出来た。」
「………」
「組よりも、家族よりも大事な人や。」
「…………」
でも俺がその人と対等になるには、まずこの世界から足洗わんといかん。
「俺は日野組を抜ける。」
そうせんと、ちゃんと面と向かっていっちゃんに好きって言えん。
「……はぁ。都会でどんなえい女に引っかかったんじゃ。」
「そこら辺の女と一緒にすんな。」
「…………」
けど、ただ抜ける決意が出来ただけで、それを親父に言うたくらいでは組を抜けるなんて出来ん。
ましてや、俺は組長の息子や。
下の奴等がなんて言うか。
親父の顔も立たんなる。
「で。どうするがじゃ?組を抜ける。はいそうですか。では済まん事やぞ。」
「分かっとる。やきケジメをつけに帰って来た。」
「ケジメ?」
「今まで橘組に鹿仙組、その他うちの組と敵対関係にあった組全部と、停戦協定を結んでくる。」
「…………」
「うちの組も相手の組も、今のこの時代で互いに戦力削り合うだけの衝突は避けたいやろ。橘組は最近になって長が変わったと下のもんにさっき聞いた。新しい時代に変わるというのに、命の取り合いなんざいつまで続けるつもりや。」
「やきおんしゃがそれを終わらせると?それがケジメか?」
「終わらせる言うても、終わらんやろ。やき停戦や。若頭が直々に出向いて申し出るんじゃ。向こうもそれなりに考えてくれるやろ。」
「馬鹿か殺されるぞ。」
「殺されんわ馬鹿が。」
「…………」
たとえ殺されかけたとしても、死ぬ気で生き延びちゃるわ。
親父は争い事を好まん。停戦協定は親父がずっと夢に見とった事や。
「それがきちんと果たせたら、この組を抜ける事を認めてくれ。」
「…………」
無謀なのは十分承知の上。
けんどそうせんとケジメがつかん。
これが俺に出来る最後の事や。
「はぁ。大事な息子をおいそれと敵陣に送る訳にはいかん。」
「親父‼︎」
「おんしゃの気持ちはわかった。けんど、ケジメをつけるのは誰か。そのケジメはどういうものか。それはわしが決める。」
「……は?」
親父はそう言うと、パチン、と手を叩いて扉の方へ視線を向けた。
「失礼致します。」
そして、扉が開くと同時に、聞き覚えのある声が聞こえて来た。
「な…」
入って来た人物を見ると、目を見開いてしまう。
「話しは桐島から聞いとる。わしの息子がえらい世話になったらしいな。」
部屋に入って来たのは、桐島と、その後ろに続いて
「いや、なんで…ここに?」
パクパクと口を開けて指をさすと、にこりと笑って俺の方に近づいて来る。
「日野。」
が、しかし。
目が笑ってない。
「いだだだだっ‼︎な、なにっ⁉︎」
さした指を握られ、天井へと指を捻じ曲げられる。
「人に向けて指をさしちゃいけないよって、教えたよね?」
「えっ」
な、なんで怒っとるの?
つか、なんでここに……?
まさか、桐島が?
「がははっ‼︎いやぁ〜、息子にこんな美人な知り合いがおったとはなあ〜‼︎」
「桐島っ、お前っ…」
なんでいっちゃんをここへ連れて来た⁉︎
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