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3日後に
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「親父‼︎‼︎」
日野の大きな声が部屋の中に響いた。
その声と同時に、扉から数人の男性陣が中へと入って来て、組長さんに対して怒り奮闘する日野の両腕を後ろからぐわりと掴んだ。
「なんやお前ら‼︎離せ‼︎」
日野はそれを振り払おうとしていたが、両腕を二人に、前から一人が日野の体を押さえつけていたから日野は完全に動けなくなっていた。
「龍、ちとお前は席を外せ。わしはまだこの少年と話しがある。」
「ふざけるな‼︎いっちゃんの体を傷付けたら殺すぞ‼︎」
「阿保。親に向かって殺すなんぞ言うな。それにこれはわしとこの少年の正式な取り引きや。おんしが口を出す事やない。」
「っ‼︎いっちゃん‼︎馬鹿な考えはやめ‼︎もっと冷静になり‼︎いっちゃんは何もせんでかまん‼︎今ならまだ引き返せる‼︎頼むき断ってもう帰ってくれ‼︎」
「……………腕、でいいんですか?」
「いっちゃん‼︎‼︎」
日野がここまで焦っているのは初めてかもしれない。
後ろからバタバタと慌ただしく床を踏む音が聞こえる。
日野が体の自由を奪っている人達を振り払おうとしているんだと思う。
何度も僕の名前を呼ぶ日野と、振り向かない僕。
帰れと言われても僕は帰ろうとしない。
取り引きをやめろと言われてもやめない。
「…………」
………腕か。
利き腕を失うと色々と不便だから左腕でいいだろうか。
渡す腕はどちらかは選ばせてくれるのだろうか。
なんて。そこを冷静になって考えてる自分がいる。
「うむ。その腕一本わしにくれるなら、おんしの申し出を受け入れちゃる。」
「…………」
ぐっ、と腕を押さえてみる。
この腕を渡すということは、つまりそういう事…
腕が切り落とされる瞬間を頭の中でイメージしてしまい、少し身震いしたが、そんな僕を見てにやりと笑った組長さんを見ると、怖いなんて感情は一気に吹き飛んだ。
「分かりました。」
真っ直ぐ視線を向けそう答えた。
組長さんは「そうと決まればすぐ実行や。」と言って立ち上がる。
僕の返答を聞いた日野は更に大声を荒げ組長さんを怒鳴りつけていたが、組長さんが舎弟の一人に目で合図を送ると、日野はぐいぐいと引っ張られながら部屋から追い出されてしまった。
「場所を移そうかの。」
「はい。」
組長さんに連れられ、別の出入り口から部屋を出る。
廊下の両端に障子が連なり、組長さんの大きな背中を見ながらその中を進んだ。
これからどこへ行くのだろうかと疑問に思ったが、腕を切り落とせる場所にでも移動するのだろうと検討がついた。
僕の後ろを黒い服にサングラスをかけた男の人が数名ついてくる。
もう後戻りは出来ない。
というより、後戻りなんてするつもりはない。
一体何を要求されるのかと思ったが、腕一本で済むならまだ幸いだ。
人でも殺して来いと言われたらどうしようかと思っていた。
むしろ腕で良かった。
「月島、なんて言うたっけ?」
「樹です。」
「そうや。樹やわ。」
どこまでも続くかのように思える程長い廊下を歩きながら、組長さんは優しい声で語りかけて来た。
「ええがか?親にこの事をなんて言うぞ?」
「そうですね。これから考えようかと思ってました。」
そうだ。両親になんて言うか。それが問題だ。
腕を失った僕を見たら父さんはなんて言うだろうか。母さんはなんて言うだろうか。
成海や新に大崎。みんなはなんて言うだろうか。
驚くだけでは済まないだろうな。
「痛いですか?」
「まぁ、ちと痛いな。」
「少しなら全然平気です。」
ふっと笑みが零れ落ちる。
本当は怖くてたまらないのに、頭の中ではこれから書類や資料等の仕事をするには、今までの倍のスピードでやらなくちゃ。とか、私生活を片腕で過ごす事に慣れるにはどれくらい時間が掛かるだろうか。とか。
片腕で相手を抱き締めるにはどうしたらいいんだろう。とか…。
そんな事を考えてる自分いて、笑えてしまう。
「なんで笑う?怖く無いがか?」
「ふふっ、いえ……とても怖いです。」
怖いのに、日野の為にこんなに必死になっている自分にバカバカしさも少し感じながら、嬉しいと思えてしまう。
「そうか。……」
「はい。」
「3日や。3日後に龍に会わせちゃる。」
「……はい。」
「……………」
「………」
取り引きに要する時間は3日間。
5日程留守にすると言って出てきて良かった。
まだ父さんから連絡は入って来ない期間だ。
ほっと胸を撫で下ろし、これから起こる出来事を頭の隅で想像しながら組長さんの後をついて歩いた。
3日後…か。
その日の僕を見たら、日野はどんな顔をするのだろう。
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